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マルタ=オダ
マルタ=オダ
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始まりのアポカリプス

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第1章 そして少年は一つの始まりに赴く


 朝8時5分、この麗らかな平日の午前中に僕はある教会の前にあった。
 別段、祈りに来たとか、そんな信心深い行いじゃない。もっと俗物的で普遍的な欲求に拠る。
 十字架を摸した無骨な鉄骨が上下を貫くこの建物は、正に教会以外の何モノでもない。だが、
『近日、シスター喫茶始めます。  聖シスエル教会』
 そんな文言と共に萌え系なシスターのイラストが描かれたポスターが、その扉には貼られていた。
 そう。この教会の神父である男は、恐ろしいことにここで喫茶を経営している。
 いや、つい昨日までは「シスター」などという不穏な文字を冠してはいなかったはずだけれど。
 ……まあそんなのは瑣末なことだ。取り敢えずめしが食えれば結果は同じ、文句は無し。あいつの頭がどこかというより、どこもおかしいのは今に始まった事じゃないし。
「冷泉、何か軽い朝食でも作ってくれ。コーヒーも」
 そう言って扉を押し開ける。迎えたのは教会に似つかわしくない正しく喫茶店のようなベルの音と、似つかわしい荘厳な賛美歌のBGM。加えて、
「森瑚さんですか。まだ準備中なんですけどね、まあいいでしょう」
 堂の奥に鎮座したバーカウンターの向こうで、神父服の上にエプロンを羽織ろうとしている大男。冷泉だ。
「サンドイッチでいいですか?私の朝食のはずだったものですが」
「それで構わないよ。それよりさ冷泉、あの表の貼り紙は何だよ?」
 カウンター席に腰掛けながら昨日との齟齬を尋ねる。すると皿を取り出す冷泉の動きがぴたりと止まった。
 かと思ったのも束の間、見るからにその長身は武者震いに包まれ、フフフとか薄ら暗い笑みまで零し始める。何かもう、見るからに「よくぞ聞いてくれた!」とか言い出しそうな雰囲気。
「よくぞ聞いてくれました!」
 本当に言ったよこいつ。
 僕が軽く呆れていると、冷泉は嬉々とした様子でカウンターの下をガサゴソ漁り始めた。そして何か雑誌を取り出すと、僕に差し出してくる。
「これですよ!『月刊アッ☆キーバ!メイド喫茶特集号』最近巷では、メイド喫茶なる趣向を凝らした喫茶店が持て囃されているようで」
「この腐れ神父め。そのオタク趣味はどうにかなんないのかよ、冷泉」
「無理ですね。私にとっての聖書(バイブル)は、旧約とコミケカタログですから。重み的に」
「天罰でも喰らって殉教しろ」