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遠くて近い、狭くて広い家

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「遠くて近い、狭くて広い家」

今日、妹島紗英(せいじまさえ)は数年ぶりに実家へと帰宅した。
家を開けていた数年の間に歳は二五を数えている彼女の学歴は高校を一年も通わずに中退。放浪癖があり、まともに日本には居ない。海外で仕事をする伯父のつてを使いながら世界中を転々とする生活。絵心があり、一応イラストなどを描いて生計を立てている筈なのだが、実質は食えていない。
現地で覚えた語学を使い、ガイドのまねごとをしたりして食いつないでいるのが現状で、流石に滞在費用もかさみ始め、さらにはビザの関係で一度日本に戻ることになった。
久しぶりに帰って来た日本の風景には対して感ずるところは無かった。駅前は一段とゴチャゴチャとして、郊外は一段と統一感のない町並みが出来つつあるのはいつ帰ってきても変わらない。
不揃いな町並みを通ってだいぶ歩いたところに紗英の実家がある。
低い丘の上、古い垣根に囲まれた平屋の一戸建て、外見は板張りで黒くくすんでいる。
戸のカギを開けると埃臭い不快感よりも懐かしい匂い。壁に染みこんだものだろうか、自分の家の臭いがすると感じながら紗英が 古い廊下を歩くとギュッと音がする。音まで懐かしい。
雨戸が閉じたままなので中は暗いが身体は間取りを覚えていた。今の畳に荷物を降ろして雨戸を開けて家の中へ光を入れる。
変わらないままの部屋、カレンダーも出ていったときのままだ。
数年間放っておいてもすぐに住めるのは定期的にメンテナンスしているからだ。 もちろん紗英に家政婦や人を雇うお金はない。
「ヤス君また掃除してくれたんだ」
ヤス君くんこと横溝靖孝(よこみぞやすたか)は同じ地元に住む三歳年下の部活の後輩、今は海外留学中で日本に居ないが、何時も何かと気に掛けて家の掃除をしたり、時々手紙をくれる。
靖孝が居るから紗英は家を開けて海外放浪が出来るとも言える。
だから入れ替わるように戻って来て、このまま靖孝が海外で暮らすことになればこの家の面倒は紗英が自分で見なければならない。唯一の財産でもあるこの家を守るため、いよいよ自分はこの国で暮らすことになるのだろうか?
別に日本語を忘れたわけではないが、何だか紗英は不安になる。
埃っぽい縁側に座って眺めた庭は、雑草も含めて新緑が眩しかった。もう、新しい季節が始まる。
「そうだ」