鍋の中の未来都市
鍋のフタを開けるとそこには未来都市が広がっていた。
何故だ。俺はさっきまで鍋の材料を煮込んでいたというのに。鍋の中は窓のように俺に未来の光景を見せ付ける。俺は空腹のためすでに箸を構えていたが、こんなもの箸のつけようがない。
しばらく驚きと空腹で放心状態だったが、鍋の中、つまりは未来都市に目を凝らすと通りの向こうから人が近づいてくるのが見えた。全身を白いタイツのような服に身を包み、耳には妙な機械をつけたつり目の男だ。
男は鍋からにゅっと顔を出し、縁に手を掛け話し始める。
「どうもこの度はご迷惑をお掛けしてすみません。こちらはあなたの時代から見てちょうど236年と5ヶ月後の未来です。この時代にはタイムワープという技術が開発されていましてね。これは別々の時代と場所の空間を繋ぐという画期的な発明なんです」
「…………」
「ところが私の不手際で事故が起こってしまい、こちらの時代の道路と、あなたの鍋との空間が繋がってしまったんです。お食事時にすいませんでした。空間はすぐに閉じますので。それとお詫びといっては何ですが」
「……鍋」
「鍋?」
「……俺の鍋は、どこに行った?」
「中身のことですか? それでしたら大変申し訳ないんですが、時空間の歪みに消えてしまったようです。それでお詫びを」
鍋が消えた。その一言を聞いて俺の頭の中は真っ白になり、すぐに怒りで真っ赤に燃え上がった。
「ふざけるな! 普段金がなくて大好きな鍋を食えない俺が、久しぶりに奮発して作った鍋を……。一緒に食うやつが居なくてひとりで食おうとした鍋を……返せ!」
「ですからおぐっ」
これ以上話を聞きたくないと思った俺は、フタを男の頭に思い切り叩きつけ、無理やり鍋を閉じた。鍋からは男の悶絶する声とフタをノックする音が聞こえてきたが、完全に無視した。
ああ、俺の鍋。鍋。鍋……。俺は空腹と独り身の寂しさで一晩中泣き明かした。
何故だ。俺はさっきまで鍋の材料を煮込んでいたというのに。鍋の中は窓のように俺に未来の光景を見せ付ける。俺は空腹のためすでに箸を構えていたが、こんなもの箸のつけようがない。
しばらく驚きと空腹で放心状態だったが、鍋の中、つまりは未来都市に目を凝らすと通りの向こうから人が近づいてくるのが見えた。全身を白いタイツのような服に身を包み、耳には妙な機械をつけたつり目の男だ。
男は鍋からにゅっと顔を出し、縁に手を掛け話し始める。
「どうもこの度はご迷惑をお掛けしてすみません。こちらはあなたの時代から見てちょうど236年と5ヶ月後の未来です。この時代にはタイムワープという技術が開発されていましてね。これは別々の時代と場所の空間を繋ぐという画期的な発明なんです」
「…………」
「ところが私の不手際で事故が起こってしまい、こちらの時代の道路と、あなたの鍋との空間が繋がってしまったんです。お食事時にすいませんでした。空間はすぐに閉じますので。それとお詫びといっては何ですが」
「……鍋」
「鍋?」
「……俺の鍋は、どこに行った?」
「中身のことですか? それでしたら大変申し訳ないんですが、時空間の歪みに消えてしまったようです。それでお詫びを」
鍋が消えた。その一言を聞いて俺の頭の中は真っ白になり、すぐに怒りで真っ赤に燃え上がった。
「ふざけるな! 普段金がなくて大好きな鍋を食えない俺が、久しぶりに奮発して作った鍋を……。一緒に食うやつが居なくてひとりで食おうとした鍋を……返せ!」
「ですからおぐっ」
これ以上話を聞きたくないと思った俺は、フタを男の頭に思い切り叩きつけ、無理やり鍋を閉じた。鍋からは男の悶絶する声とフタをノックする音が聞こえてきたが、完全に無視した。
ああ、俺の鍋。鍋。鍋……。俺は空腹と独り身の寂しさで一晩中泣き明かした。