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今まで生き延びてきた中での、この数週間は。
自分の母親が──恐らくは──そうであったのと同じように。
今更そんなことに気付く。
だからといって、殺すことで生きてきた自分を、間違いだなんて思ったりはしなかったけれど。
最初に水に触れたのは、その黒い脚。続いて腹。
しかし、それ以上沈まない。飲み込まれない。
そのうち自分が何か細かなものの上に支えられているのだと気付く。触肢が僅かに動き、水に混じったそれを認識する。
(「たんぽぽ」)
風が緩く、通り抜ける。花びら達は重みを増してゆく。
「スミレ……」
花の名など、春しか知らない。
(「シロツメクサ」)
「れんげ……」
(「スノードロップ」)
お前が教えてくれた、小さな春の花しか知らない。
穏やかな流れと、小さな色とりどりの花びらに包まれ、
黒の姿はゆっくりと、きらきらした水面に吸い込まれていった。