月の雫
すると、地面に零れ落ちた涙の跡が突然まばゆく輝き始め、いつの間にかその輝きは辺りを埋め尽くし、詩人は優しい光に包まれていた。
その光景を見た詩人の目からは大粒の涙が幾つも幾つも止め処なく零れ落ち、地面を潤した。
詩人を包み込み優しく光輝くものの正体は純白大輪の花を咲かせた月下美人の花たちであった。そう、あの時の女性の正体は月下美人の花の精だったのだ。
詩人は手に持った月下美人の花を抱きしめ地面膝を付き倒れ込んだ。そして、彼は精一杯の気持ちを込めて詩を歌った。
月の奇麗な夜だから
出逢いの夜だから
別れの夜だから
この闇の中で星は瞬き私に何かを語りかけている
けれど今の私にはわからない
もう何もわからない
月の光に導かれ天に昇る
私は貴女が消えないように
強く強くその手を握りしめていたのに
貴女は私の指をすり抜け消えてしまった
私の流した涙が地面を濡らす
貴女の汚れを知らぬ瞳はもう私を映さない
果てしなく遠く大地を見つめる
美しい貴女の声はセイレーンのように
私を夢の中へ惑わす
だけど貴女はもう……
星の奇麗な夜だから
淋しい夜だから
哀しい夜だから
月の光に導かれ
私は貴女を忘れない
貴女の声が私を放さない
貴女が消えないように
強く強く握りしめていた手
けれど貴女は逝ってしまった
さよならは言えなかった
さよならなんて言わない
私は貴女に捧げます
心の底からの信愛の気持ち
そしてありがとう
空を見上げた詩人の身体を月光が優しく包み込み、彼の瞳からは大粒の涙が頬を伝わり地面に零れ落ちた。
「私も貴方に逢えて良かったわ、ありがとう」
そんな言葉が風に乗って詩人の耳に届いたような気がした。
~Fin
作品名:月の雫 作家名:秋月あきら(秋月瑛)