時の部屋
過去
四年前。
その日の稽古を終えて、私たちはシャワールームで汗を流した。タオルで体を拭いて制服に着替え、長い渡り廊下を歩いて部室に戻る。
部室にはシャワーを浴びずに戻った坂井と、数人の一年生、そしてマネージャーの吉岡がいた。彼女たちを取り巻く異様な雰囲気に私たちはすぐに気づいた。皆一様に不安げな表情で、落ち着きがない。
「どうしたの?」と一人が訊くと、彼女たちは顔を見合わせた。吉岡が言う。
「わたし、わたし、地区大会のおかね、なくしちゃったかもしれない」
言い終わる前から吉岡は泣き出してしまっていた。私たちが来る前にも泣いたのだろう、涙の跡が顎まで残っていた。
「なくしちゃったって……」「教室とかロッカーに置き忘れたりしてないの?」「カバンの中とか」「部室みんなで探そうよ」
吉岡の涙に面食らった私たちが騒ぎだすと、坂井が「あのぉ」とおずおずと口を開いた。
「私、今日発声練習の時お腹痛くなって、トイレ行ったじゃないですか。それで、部室の前通った時、その、部室に誰かが入るの見たんです」
私は一瞬どきっとした。今日は運悪く掃除当番で、部活に出るのが遅くなった。発声練習あたりの時間に部室に入ってもおかしくない。
あるいはこの時、「ごめん、それ私かも」とでも言えばよかったのかもしれない。黙っているから、何かを隠しているように見える。隠しているように見えるから、疑われるのだ。
「それ、誰かがうちのお金盗んだってこと?」
私が訊くと、坂井は答えなかった。沈黙は、肯定だった。
坂井は息を大きく吸って、意を決したように私たちを見据えた。
「それでお願いなんですけど、念のため、荷物見せてもらえますか?」
即座に反発したのは吉岡だった。
「ちょっと坂井ちゃん、みんなが盗むわけないでしょ」
吉岡には、自分の過失で大事なお金を失くしてしまったという罪悪感が多分にあったのだろう。私たちの方を申し訳なさそうに見ながら、慌てて坂井を制そうとした。
坂井は首を小さく横に振り、
「先輩たちを疑ってるわけじゃないんです。ただ、部内に犯人がいないということをはっきりさせないと気持ちが悪いじゃないですか」
沈黙。
坂井はおもむろに自分のカバンを手に取った。
「じゃあ、まずは私たちから見せます」