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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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LOST EDEN

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「ふふっ。そうさ、僕は女だよ。か弱い女に手をあげるのかな?」
 倒れた弾みでカインは武器を落とし、丸腰の状態だった。
 一方アベルは素早く剣を拾いながら立ち上がっていた。
 切っ先が閃いた。
 アベルの剣がカインの喉元に突き付けられる。
 微笑みながらカインが尋ねる。
「殺すのかい……親友の僕を、共に戦ってきた仲間を?」
「…………」
 今さら裏切り者が何を言うのか。しかし、アベルは無言のまま動けなかった。
 嘲笑うカイン。
「殺せないんだろ、どうせ僕のことを殺せないんだろう!」
「……ッ!」
 剣を握るアベルの手に力が込められ、切っ先がカインの肌に触れた。
 静かに流れたひと雫の鮮血。
「本当に僕を殺すのかい?」
「……おまえのしたことは許せない。しかし……」
「そうかい、僕は殺されるんだね……実の兄の手に掛かって」
 悪戯(いたずら)な笑みをカインは浮かべた。
 その言葉を理解するのにアベルは時間を要した。
「今なんて!?」
 それはあまりにも衝撃的で、ありえないことだった。
「お兄様、わたくしのことをお殺しになるの?」
 少女のような声音でカインは言った。
 たしかに言った。
 そう、〝兄〟と――。
「嘘だ!」
 悲痛な叫びをあげたアベル。
 到底、信じられることではなかった。
 まさか実の妹がいたなど、アベルは一度も耳にしたことなどなく、その噂すらまったく聞いたことがない。
 信じられないと言った顔をするアベルにカインは証拠を見せようとした。
「僕が首から提げているペンダントを見るといい」
 アベルはカインに切っ先を突き付けたまま、その首に提げられている紐をたぐり寄せ、ペンダントに刻まれた紋章を見た。
 ――気高き火竜の紋章。
 言葉を失い驚きを隠せないアベルにカインはさらに続ける。
「君が同じ物を持っていることを僕は知っているよ。それが何よりの証拠だと思うけどね?」
「馬鹿な……俺に妹が……しかも、目の前のカインが?」
「僕の本当の名前はソフィア。世が世であれば帝國の第一皇女だった」
「だったら尚更、あいつを怨んでいる筈じゃないのか! 父を殺したのはあの男なんだぞ!」
「……ふふっ、君には関係ないね!」
 カインは切っ先から首を離し、アベルの腹を膝で蹴り上げた。
 油断していたアベルはよろめき、そこにすかさず剣を拾い上げたカインが斬りかかる。
「死ねッ!」
 瞳孔が開いた。
 刃を伝って流れる黒い血が朱に染まって地に墜ちる。
 膝を突きながらも剣を構えているアベル。
 その握る剣の先はカインの腹を貫いていた。
「刺したね、兄さん?」
 苦痛に顔を歪ませながらカインは自ら後ろに下がって剣から腹を抜いた。
 そして、力なく膝から崩れ背面に倒れた。
「俺は……」
 偶発的な事故であった。アベルには刺せなかった。にも拘(かか)わらず、飛び込んできたカインに剣は突き刺さった。
 血の噴き出る脇腹を押さえ天を仰ぐカイン。
「傷はまだ浅い、死ぬにはまだ時間がかかりそうだ。早く止めを刺せよ!」
 アベルは震える躰を支えながら立ち上がり、眼をしっかりと開けて睨んでいるカインを見つめた。
 そして、無言のままおぼつかぬ足で、静かにこの場を後にした。
 アベルの背中に投げかけられる罵声が木霊する。
「絶対に後悔するぞ、ここで僕を殺さなかったことを後悔させてやる!」
 その声はアベルに届いたのか……。
 復讐を誓うカイン。
 哀しみのアベル。
 戦いは昏(くら)い影を落とした。