あさっての恋愛
「……まあ、なんだ、ヤンデレの妹が上京してくるような展開になったら『妹、襲来』ってエヴァ風にサブタイをつけることを忘れるな」
言いながらさっさと手を洗ってトイレから去って行こうとする風間を、ぼくはなんとか引き止めた。
「おいおい今度はBLか? 藤田も忙しい奴だな」
「え? BLってなに?」
「俺が悪かった。ベーコンレタスバーガーの略だ。気にするな」
それはBLBじゃないのかなと思ったけど、正直そんなのどうでもいい。ぼくはとにかく誰かに話を聞いてほしい。
「風間……真実の愛なんて、どこにもないのかもしれない……」
「はっはっは!」
ぼくは大真面目に言ったのだが、風間はのけぞって笑った。
「なるほど、天神の言ってたこともあながち間違いじゃないな!」
「天神がなんか言ってたの?」
「その話は後にしよう。とりあえず現状の確認だ」
びしりと、人差し指が突きつけられる。
「藤田大地、貴様の前に現在示されてる道は主に三つだ」
ひとつ、百戦錬磨の恋愛ハンター水谷さんルート。ちなみに彼女、あの日以来積極的にぼくに絡んでくるようになった。女の子に絡まれるのは嬉しいことなのだが、正直ぼくは彼女が怖い。母と同じ目をしているからだ。振り向かせてやるなんて言っていたけどぼくが振り向いた頃には彼女はぼくに飽きているに違いない。
つぎに、ついにヤンデレ属性を発揮した妹の満月ルート。これは一番切実な問題だ。怖いからって切り捨てるわけにはいかない。ぼくはできれば妹を助けてあげたい。しかし、近親相姦はごめんだ。
「……あれ? 三つめって?」
「ツンデレの友人天神ルートに決まっておろうがッ!」
「え、天神ってツンデレなの? いつデレたの? まさかぼくにツンで風間にデレ?」
「その発想はなかった」
呆れを通り越して感心しているような真顔だった。
「いいか藤田、デレるタイミングをこちらで用意することだって時には必要なのだ」
「はあ」
「そして話が戻るが、天神が言うには藤田はまず恋をするべきなのだそうだ」
「どういう意味?」
風間はここぞとばかりに強くぼくの肩を叩き、すごいキメ顔でにやりと笑った。
「自分で聞いてこい」