僕の絶対進学塾。
<月曜日・国語とカビ>
・・・どうしよう。困ったな。もう目の前に自分のクラスのドアがたたずんでいる。逃げられない。ヤバイ。僕は一体どうしたらいいんだ!?
僕は、ゆっくりと自分のクラスのドアに手を掛けた。手が汗ばんでいる。このガラスの向こうには悲劇が待っているという事を実感した。
(よし!・・・開けるぞ。)
・・・ガチャ。
ドアがゆっくり開いた。僕の心臓はもう爆発しそうだ。冷や汗が止まらない。
教室にいる僕と同じ年の子たちが僕の方に振り向いた。
「あ!先生、洋来たぜ。」
1人の男子が僕を指差す。コイツは僕と同じ学校に通う斉藤 銀太だ。
やめろ。何で僕を指差すんだ!
先生が振り向いた。若い男の先生で一見ひょろそうな優男だけど、普段から無駄にピリピリしている体育会系の国語教師だ。
「さっさと席に着け。」
運がよく、今日はまだ不機嫌じゃないみたい。よかった・・・。
「はーい。」
さて、隣の銀太に聞かなきゃいけないことがある。
「銀太。」
「ん?なんだよ。」
「もう宿題提出は終わった?」
「・・・終わった。さては宿題やってないな?」
「うん。」
「山本は宿題してないと怒るぞ。」
「分かってるよ。」
確か、先週もやらなかった。日本語はしゃべれるんだ。国語なんて少し漢字覚えときゃいいんだよね。
「森田。」
「はい?」
山本先生に突然呼ばれた。条件反射で立ち上がる。
「宿題を提出しなさい。」
「・・・。」
クラスのドアの前でずっと怖かった事が起こる。山本はバカだから先に集まった生徒の宿題だけ集めて僕のは忘れるのかと思った。やっぱり色んな科目で態度悪いからブラックリストに載ってるんだろうな。
・・・さて。どう答えたものか。やったけど忘れた、はもう先週使っちゃったよな。裏をかいて、僕は嘘つきじゃありませんをアピるために「やってません。」って正直に言っちゃう?お。少しは株が上がるかもしれない。ナイスアイディアじゃん。さすが僕。
「やってません。」
「お前とは1回ちゃんと話さなければいかんな。」
そんなバカな!この言葉は決して異端児は使わないはず・・・山本の目が怖い。
「今日は宿題忘れたのは森田だけだな。」
嫌な予感がする。なんだ、この悪寒は。
「今日の授業の回答は全てお前に解いてもらう。」
「えぇ!?」
な、何で!?僕が国語を苦手なのを知ってて!?このクソ教師!!
「席に着け。」
「はい。」
目が怖いです山本先生。
・・・・・・・・・・・・・・。
文章・歩は、普段から怒られている親友の香織のために宿題をまわした。理由は、きのうみたいに香織に泣いてほしくなかったからだ。
「歩、ありがとう。」
まわした宿題が帰ってくるときに小さく香織がつぶやいた。
「何故、歩は香織のために宿題を見せてあげたのか。文章中から20文字で抜き出しなさい。・・・森田。答えろ。」
考える間さえもくれないのか。まぁ、落ち着いて文章を読み返すんだ。ここら辺に答えがあるはずだ。え~っと・・・。これかな。
「泣いてほしくなかったから。」
どうだ。これには自信があるんだ。
「腐れ。」
く、腐れだとぉ!?教師が生徒に言っていい言葉か!?
「斉藤、腐ったカビの変わりに答えてくれ。」
「へーい。」
腐ったカビ!?どんだけ不潔なんだよ!・・・カビって腐るのか?
「えーっと!きのうみたいに香織に泣いてほしくなかった。」
「正解だ。」
「え。僕も正解じゃないんですか?」
「あ?バカか。20文字だっつんだよ。てめぇのは12文字だ。」
「それくらいでっ・・・!?」
「まず、目潰しから始めるか。」
山本が右手をチョキにした。
「すみません。」
くそ・・・。こんなはずじゃなかったんだ。
「次行くぞー。」
ぶすっとしていると、後ろで誰かが僕の肩をたたいた。ゆっくりと振り向くと、1人の女子がいた。この子はちがう高校に通う夏川 明花。みんなに「めーちゃん」とか言われてたな。
「何?」
「今日も部活だったの?」
ツインテールにした茶色の髪の毛がしゃべる度にゆれる。いかにも元気そうな女の子だ。目をキラキラさせて僕を見ている。
「うん。そうだけど・・・。」
「へぇっ!何の部活!?」
「・・・剣道部、だよ。」
「ふ~ん。すごいね~。」
「ははは・・・。」
僕は夏川さんが少し苦手だ。無駄に元気なところとか、共感できない節がいくつもある。・・・つまり、気が合わない。でも夏川さんは僕によく話しかけてくる。あんまり顔を合わせたくはないんだけどなぁ。まぁ席が前後だから仕方ないか。それと、僕は何よりも夏川さんが苦手な理由がある。それは・・・。
「めーちゃんは吹部だよ~。」
「へぇ・・・。」
自分の事を「めーちゃん」っていうところ。ぶっちゃけそーゆー所が苦手じゃなくて、嫌いだ。自然と自分の顔が引きつるのが分かる。でも、笑顔は崩さない。男としてのマナーではないだろうか、という勝手な思い込みなんだけど。
「森田。次この漢字読め。」
山本から命令が下された。
ホワイトボードに書かれた漢字を見る。
「無花果」
「あれは字ですか?」
「字だよ。字が汚ねぇとかないよな?だってプリントだし。」
むぅ、確かに拡大プリントだ。あの文字は・・・もしかして!?
「むかか!!」
「解体(バラ)すぞ。」
解体すぞ、って!!そんな!僕は自分の答えを言っただけなのに!?
「正解は・・・沖田、答えてくれ。」
「はい。いちじく、ですね。」
「正解だ。」
いちじくってなんだぁぁ!!知らないぞ、そんなモノ!
「いちじくって何ですか!?」
「不老長寿の果物だ。」
なんだって?そんなものがあっていいのか?神の食べ物だ!
「いくらですか!?」
「知らねぇよ。」
そ、そんな!・・・スーパーでは売ってない気がするな。そんな神の食料。
「あぁ・・・。」
山本が溜息まじりの言葉を吐いた。
「授業めんどくせぇ・・・。」
教師にあるまじき発言だ。
「いいや!めんどくせぇ。自習!決定!!」
そう言って、教室から出て行った。
「・・・ロビーに戻って塾長に怒られないのかな?」
「怒られないんじゃね?塾長テキトーだから。」
「やっぱ?」
教師がいなくなると生徒達はしゃべり始める。ここは少人数・10人くらいのクラスなのに、全員がしゃべり出すとこんなにもうるさい。
じゃあ、誰かとしゃべろうかな。銀太はもう寝ちゃったし。本当にコイツはバカのくせに勉強しないんだから。僕なんて勉強してもこれだぞ。ひどい出来だよ、僕は。さてと、誰と話そうかな。あ。前の席に男子がいたな。声をかけよう。
「ねぇ。」
「はい。」
それは、さっき「いちじく」を答えた沖田君だった。確か夏川さんと同じ高校だよね。何話そうかな。
「よく無花果なんて読めたね。」
「人間の常識ですから。」
うっ。常識か。それにしても、いかにも勉強できそうな子だなぁ。
「この前の1ヶ月テストの総合得点どうだった?」
1ヶ月テストっていうのは、1ヶ月に1回この絶対進学塾にある大ホールで行われるテストの事だ。そのテストの総合点でクラスが決まる。1万点満点テストで、S・A・B~F・Gまであって、僕らのクラスは最低のGクラスだ。え?僕の総合点数?1万点満点で72点だよ。
「総合は1250点だよ。」
・・・どうしよう。困ったな。もう目の前に自分のクラスのドアがたたずんでいる。逃げられない。ヤバイ。僕は一体どうしたらいいんだ!?
僕は、ゆっくりと自分のクラスのドアに手を掛けた。手が汗ばんでいる。このガラスの向こうには悲劇が待っているという事を実感した。
(よし!・・・開けるぞ。)
・・・ガチャ。
ドアがゆっくり開いた。僕の心臓はもう爆発しそうだ。冷や汗が止まらない。
教室にいる僕と同じ年の子たちが僕の方に振り向いた。
「あ!先生、洋来たぜ。」
1人の男子が僕を指差す。コイツは僕と同じ学校に通う斉藤 銀太だ。
やめろ。何で僕を指差すんだ!
先生が振り向いた。若い男の先生で一見ひょろそうな優男だけど、普段から無駄にピリピリしている体育会系の国語教師だ。
「さっさと席に着け。」
運がよく、今日はまだ不機嫌じゃないみたい。よかった・・・。
「はーい。」
さて、隣の銀太に聞かなきゃいけないことがある。
「銀太。」
「ん?なんだよ。」
「もう宿題提出は終わった?」
「・・・終わった。さては宿題やってないな?」
「うん。」
「山本は宿題してないと怒るぞ。」
「分かってるよ。」
確か、先週もやらなかった。日本語はしゃべれるんだ。国語なんて少し漢字覚えときゃいいんだよね。
「森田。」
「はい?」
山本先生に突然呼ばれた。条件反射で立ち上がる。
「宿題を提出しなさい。」
「・・・。」
クラスのドアの前でずっと怖かった事が起こる。山本はバカだから先に集まった生徒の宿題だけ集めて僕のは忘れるのかと思った。やっぱり色んな科目で態度悪いからブラックリストに載ってるんだろうな。
・・・さて。どう答えたものか。やったけど忘れた、はもう先週使っちゃったよな。裏をかいて、僕は嘘つきじゃありませんをアピるために「やってません。」って正直に言っちゃう?お。少しは株が上がるかもしれない。ナイスアイディアじゃん。さすが僕。
「やってません。」
「お前とは1回ちゃんと話さなければいかんな。」
そんなバカな!この言葉は決して異端児は使わないはず・・・山本の目が怖い。
「今日は宿題忘れたのは森田だけだな。」
嫌な予感がする。なんだ、この悪寒は。
「今日の授業の回答は全てお前に解いてもらう。」
「えぇ!?」
な、何で!?僕が国語を苦手なのを知ってて!?このクソ教師!!
「席に着け。」
「はい。」
目が怖いです山本先生。
・・・・・・・・・・・・・・。
文章・歩は、普段から怒られている親友の香織のために宿題をまわした。理由は、きのうみたいに香織に泣いてほしくなかったからだ。
「歩、ありがとう。」
まわした宿題が帰ってくるときに小さく香織がつぶやいた。
「何故、歩は香織のために宿題を見せてあげたのか。文章中から20文字で抜き出しなさい。・・・森田。答えろ。」
考える間さえもくれないのか。まぁ、落ち着いて文章を読み返すんだ。ここら辺に答えがあるはずだ。え~っと・・・。これかな。
「泣いてほしくなかったから。」
どうだ。これには自信があるんだ。
「腐れ。」
く、腐れだとぉ!?教師が生徒に言っていい言葉か!?
「斉藤、腐ったカビの変わりに答えてくれ。」
「へーい。」
腐ったカビ!?どんだけ不潔なんだよ!・・・カビって腐るのか?
「えーっと!きのうみたいに香織に泣いてほしくなかった。」
「正解だ。」
「え。僕も正解じゃないんですか?」
「あ?バカか。20文字だっつんだよ。てめぇのは12文字だ。」
「それくらいでっ・・・!?」
「まず、目潰しから始めるか。」
山本が右手をチョキにした。
「すみません。」
くそ・・・。こんなはずじゃなかったんだ。
「次行くぞー。」
ぶすっとしていると、後ろで誰かが僕の肩をたたいた。ゆっくりと振り向くと、1人の女子がいた。この子はちがう高校に通う夏川 明花。みんなに「めーちゃん」とか言われてたな。
「何?」
「今日も部活だったの?」
ツインテールにした茶色の髪の毛がしゃべる度にゆれる。いかにも元気そうな女の子だ。目をキラキラさせて僕を見ている。
「うん。そうだけど・・・。」
「へぇっ!何の部活!?」
「・・・剣道部、だよ。」
「ふ~ん。すごいね~。」
「ははは・・・。」
僕は夏川さんが少し苦手だ。無駄に元気なところとか、共感できない節がいくつもある。・・・つまり、気が合わない。でも夏川さんは僕によく話しかけてくる。あんまり顔を合わせたくはないんだけどなぁ。まぁ席が前後だから仕方ないか。それと、僕は何よりも夏川さんが苦手な理由がある。それは・・・。
「めーちゃんは吹部だよ~。」
「へぇ・・・。」
自分の事を「めーちゃん」っていうところ。ぶっちゃけそーゆー所が苦手じゃなくて、嫌いだ。自然と自分の顔が引きつるのが分かる。でも、笑顔は崩さない。男としてのマナーではないだろうか、という勝手な思い込みなんだけど。
「森田。次この漢字読め。」
山本から命令が下された。
ホワイトボードに書かれた漢字を見る。
「無花果」
「あれは字ですか?」
「字だよ。字が汚ねぇとかないよな?だってプリントだし。」
むぅ、確かに拡大プリントだ。あの文字は・・・もしかして!?
「むかか!!」
「解体(バラ)すぞ。」
解体すぞ、って!!そんな!僕は自分の答えを言っただけなのに!?
「正解は・・・沖田、答えてくれ。」
「はい。いちじく、ですね。」
「正解だ。」
いちじくってなんだぁぁ!!知らないぞ、そんなモノ!
「いちじくって何ですか!?」
「不老長寿の果物だ。」
なんだって?そんなものがあっていいのか?神の食べ物だ!
「いくらですか!?」
「知らねぇよ。」
そ、そんな!・・・スーパーでは売ってない気がするな。そんな神の食料。
「あぁ・・・。」
山本が溜息まじりの言葉を吐いた。
「授業めんどくせぇ・・・。」
教師にあるまじき発言だ。
「いいや!めんどくせぇ。自習!決定!!」
そう言って、教室から出て行った。
「・・・ロビーに戻って塾長に怒られないのかな?」
「怒られないんじゃね?塾長テキトーだから。」
「やっぱ?」
教師がいなくなると生徒達はしゃべり始める。ここは少人数・10人くらいのクラスなのに、全員がしゃべり出すとこんなにもうるさい。
じゃあ、誰かとしゃべろうかな。銀太はもう寝ちゃったし。本当にコイツはバカのくせに勉強しないんだから。僕なんて勉強してもこれだぞ。ひどい出来だよ、僕は。さてと、誰と話そうかな。あ。前の席に男子がいたな。声をかけよう。
「ねぇ。」
「はい。」
それは、さっき「いちじく」を答えた沖田君だった。確か夏川さんと同じ高校だよね。何話そうかな。
「よく無花果なんて読めたね。」
「人間の常識ですから。」
うっ。常識か。それにしても、いかにも勉強できそうな子だなぁ。
「この前の1ヶ月テストの総合得点どうだった?」
1ヶ月テストっていうのは、1ヶ月に1回この絶対進学塾にある大ホールで行われるテストの事だ。そのテストの総合点でクラスが決まる。1万点満点テストで、S・A・B~F・Gまであって、僕らのクラスは最低のGクラスだ。え?僕の総合点数?1万点満点で72点だよ。
「総合は1250点だよ。」