バトンを繋ごうRPG 『勇者の旅立ち』[小説コミュニティ]
勇者ノベリットの冒険
かざぐるま} かざぐるま |
勇者は村を出た。装備も魔法もまだ持っていない。とりあえず北の森に向かってノベリットは歩き出した。そこに突然!! |
2013-07-11 19:30:04 |
コメント (189)
匿川 名 2022-03-23 22:44
「種田、何を!」
アニエスが叫ぶ。
皇の肉体であったモノは自由落下し、『闇』としか名指せないモノが『ぶわあ』とそれを追った。
しかる後に彼らを取り巻くのも夜の闇。
だが其処には邪さが明らかに薄まっている。
その機を逃さなかったのは彼らが乗る竜だ。
ばさりとひときわ激しく羽ばたくと、一度首をぐいと短くし、やおらそのまま正面へと突き出した。
紡錘体に近い格好で空を切る。鋭く斜め前、やや下降気味に空を切る。
まるでその様は猛禽が狙い澄ました獲物へと一斉に飛びかかるかの如き鋭さであった。
膨大で果てしないとしか思えなかった『闇』はその瞬間彼らを取り巻くのを止めた。
いや、『闇』は最早彼らから興味を失っていた。
『闇』が求めているモノは極論、彼らではなかった。
世界にとって存在が希そのものである竜ですらなかった。
『それ』が求めていたモノは朽ちたばかりとしか思えない巨躯の名残だった。
「今はこれが最善。否、これしか我らに取り得る術はない」
種田は前を向いたまま淡々とそう言った。
脇には呆けた勇者を抱えて竜の背からの落下を防いでいる。
アニエスは遠く成り行く皇の遺骸を眼を細めて視えるだけ追った。
闇はその肉体に纏わり付き、包み、
遠目に、微かに、しかし紛うことなく、
がつがつとさもしく『それ』を喰らった。
その余りのおぞましさにアニエスは胃に込み上げるものを覚えた。
しかし目は逸らさなかった。
眺め続けた。
『闇』が一点に凝縮する。
それは嘗てその者があった証。
眺め続けなければいけない。
だが、遙かな速度で飛翔する竜は彼方にその眺めを置いていこうとした。
しかし、
それでも。
アニエスはいつまでもその向きを眺めた。
眺め続けた。
やがて彼らは完全に『くらやみ』から離れた。
そして、その頃、
東の空から、微かに白む陽が昇り、彼らを捉えた。
匿川 名 2022-03-19 23:55
『視界が闇に落ちる』という感覚。
ふわりと閉じる視えざる緞帳。
アニエスは思わずごしと自分の目を擦った。
そして視線を種田の方に向ける。
種田は険しい顔をして空を――竜の背に在り、さらにその上なる空を――見上げていた。
たちどころに深くなりゆく闇の中ですら気配が分かる。
頬の皺が険しくなっている。
闇が纏わり付く。
圧倒的な邪(よこしま)が、あらゆる輝きを奪い去りながら彼らの身体に纏わり付いていく。
アニエスはそれまで感じたこともないような怖気(おぞけ)とともに、胃の奥から迫り上がろうとする熱い固まりを必死に堪えた。
竜の翼が今一度激しく羽ばたく。
其処から去るべく、強く、風を切り大気を滑る。
だが、
その邪(よこしま)には力が無い。
打ち払うべき手応えも、相対するための眼も、伸ばし触れてくる掌(たなごころ)もない。
そも、亡霊を相手に剣を揮(ふる)うような他愛なさ。
だから、それ故に、
祓い処が無く、手の施しようも無く、絡みつくに任せるほか為せる業は無い。
「やれやれ。我々を逃がす気は無い、ということか」
種田はそう呟き、
そして、
竜の背に在り、朽ちて解けゆく巨躯の肩を掴んだ。
嘗て人の肉であったそれは、砂のように解(ほど)け、種田の手中に握られた。
束の間、視えざる闇が、名指しがたい邪(よこしま)が、
揺らいだ。
それを『把握』と看るや、種田は掴んだ手を瞬間背後の虚空に向け振り、中の欠片を宙へと放った。
瞬間、
邪(よこしま)は、視えないながらに確かにその欠片を追った。
「やれ、予想はしていたがなんたる浅ましき執着かよ」
種田はそう呟き、
そして、
嘗て皇であった朽ちた肉の塊を、
蹴やり、彼らを乗せる竜の背後の空へと、ただ一撃の下に放り出した――。
匿川 名 2022-03-19 17:43
――それは、或いは誰かの嘗ての記憶――
薪が仄かな明かりをふりまくばかりで、漆黒に近い森の中に彼ら一行はいた。
概ね横になり眠っているはいるものの、持ち回りで見張り番を立てることにしていたので、今はひとり彼女だけが起きていた。
微かな赤い炎が放つ明かりの中に、布(きれ)を繕う。
辺りの音に耳を澄ませながら、手許の意識は針と糸と、布の重なりに集まっている。
出来は決して美しくはない。
何しろ彼女はそれまで繕いなどをしたことがなかった。
「あつッ」
針先で左手の人差指の先を突き、思わず小さな声を上げる。
瞬間、アニエスだけがぴくりと肩を揺すったが、『起きはしまいか』と心配して息を殺しながらしばらく眺めていると、その肩はまた規則正しく上下を始めた。
彼女は左手の人差指を見た。
そこには小さな赤い血の玉が出来ていた。
ぱくりと咥えそれを舐め取ると、それ以上はもう出血することはなさそうだった。
ふうと息をついてまた繕いを始める。
淡々と、いましばらく。
自分が此処で火の番をしている間だけ、続けるつもりだった。
ちらり、と彼女は勇者に視線を送った。
勇者はそこでかあかあと小さな鼾をかきながら眠りこけている。
「お気楽なもんねぇ」
と彼女は小声で独りごちた。
そのとき勇者の口元が緩み、笑んだように見えたが、それは決して彼女の言を汲んでのことではあるまい。
彼女もそれはよく分かっていたので、また手許に視線を移して繕いを続けた。
知ってか知らずか、そんな彼女の口元は、どこか柔らかく緩んでいた。
匿川 名 2022-03-19 01:31
カタカタと音を立てて白いカップが揺れる。
弾みで縁から茶が溢れてテーブルに伝った。
その様子を残念そうに見つめつつ、ヴァンダールは取っ手を摘んでひょいとカップを持ち上げた。
底のところからさらに一雫の茶が溢れテーブルの上でぴたんと広がったが、彼女はそれを空いた方の手ですうと拭った。
その次の一瞬でさらに大きく、ヴァンダールの隠れ小屋はゆさっと激しく揺れた。
「やれやれ…此処が紛い物であればこそ、それは現実から最も遠いところであるのに。その意味では寧ろ『理想郷』に最も近かったはずなんじゃがのう」
そう呟きヴァンダールは茶を一口啜った。
「さりとて夢はやはり夢か。どれほど美しくとも夜明けと共に消える影、幻、うたかたの宴に過ぎぬというわけじゃな。寧ろ夢を観る者が絶えて仕舞うようなことがあれば、瞬きをするよりも早く此処は失われるが道理」
そしてヴァンダールはすっと小屋の天井を見上げ、次の瞬間、手にしていたカップを床に向けて叩きつけた。
カップは床の上で四散し、そして、そのまましゅうと泡の如く細かく霞み、魔法のように消えた。
「ああ、我儘が許されるならば…我も夢の住民であるとは重々承知の上で、もう一度『純令Ⅱ』のコンサートが見たかったのう…」
遠く呟きながらヴァンダールは壁に貼られたポスターを愛おしげに眺めた。
そこには4人の男が立ち並び、白い歯を剥いた野生味のある笑顔で各々がポーズをとっていた。
中でも一際背の高い男のことを、ヴァンダールはそっと見つめている。
メンバーの足下にはそれぞれ名前が書かれている。
キヨシ、ヒョウマ、タダテル、そして、
ヴァンダールが一心に見つめている、
むんずと腕組みをしている仁王立ちのメンバーの下には、
『カイザー』と書いてあった。
匿川 名 2022-03-16 21:20
「まあ、何となくマジな展開なのは分かる。うん」
ノベリットはそう呟いた。
「とりあえずコレを穿けば良いんだよな、きっと」
そして手の中に握りしめたトランクスをもう一度広げてみる。
あのとき、あんなに欲したモノが、今この手の中にある。
(↑詳細はまたもや2013年11月20日の投稿を参照)
なんてしんみりしていても仕方がない。
とりあえず今自分に分かることといえば、コレは誰かが彼のために縫ってくれたモノに違いないということだ。
彼がそれを欲していると知っていた、誰かが、きっと。
――あのとき?
――誰かって、誰?
まあ、いいや。
ではでは、ありがたく穿くとしますかねえ。
・・・もそもそ・・・
「うそ、ジャストサイズ」
そのトランクスはノベリットの股間に対し、イヤンなくらいジャストフィットのベストサイズだった。
「穿いた」
虚空を漂いながらノベリットはぼそりとそう宣言した。
「穿いたよ-?」
しかし、意に反して何も起きはしない。
さて、どうしたものか。
今頃あちらはどうなっているのか。
種田さんは、チビドラは、カイザーにアニエスは・・・。
――そこで、ノベリットの背中にぞおっとした冷たいモノが一気に駆け上がった。
・・・種田さん・・・?チビドラ・・・?
カイザーにアニエス・・・?
俺は、一体、今まで何を忘れていたんだ?
それに、それに、
カナ、
マナ。
匿川 名 2022-03-12 09:52
我、思う故に我在り。
だから私は実在しているのだと思う。
だって私はここでこうして、思い、考えているのだから。
だから私こそが私という存在の証明。
世界に打ち込む存在の楔(くさび)。
ならば、と思う、
私が打ち込む楔の礎、世界とは果たして何であるのか。
陽炎のような曖昧な何かに打ち込める楔とは、『そもそもが脆弱』な何かではないのか。
混濁する意識と記憶。
閃きと、冷たい死の感触と、邪悪な闇。
揺らめくのは世界か、それともその上に立つ私そのものなのか。
頭蓋を巡るたぷんとした感覚。
それはきっと私の血液。
赤黒く濁る虚無へと続く内側の海。
溢れ、零れ、なお内側から満ち、私をせり上げていく。
空へ、空へ、浮かぶ心地は未だ地に足が付いているのを忘れさせるほどで。
さて、とふと私は自分に問う。
そも、『私』とは?
揺れ惑う狭間で、背中の羽が力なく揺れる。
「――。」
誰かが私を呼ぶ。
ゆらりと崩れる足下に、折れ、曲がる膝と前のめりに引かれる肉体と。
誰かが呼ぶ声がする。
誰かが私に呼びかけている。
強く、ひたむきに。
何度も、何度も、何度も、何度も。
――『ノベリン』
――『――リン』
――『――ナ』
――『カナ――』
閉じゆく世界にひとりきりは嫌なので、私はその呼び声に背の羽を揺すって応える。
ああ、何かが――ひどく暖かい。
匿川 名 2022-02-24 22:48
何故に、何故にと問うた時、漠と甦るのは忘れかけていた記憶だった。
「ノベリット・・・あなたは復活するために、新しいパンツにはきかえなければいけません」
(2020-03-20 20:59参照)
あ、そう言えばそうだった。
だからか、だからなのか。
手にしてることのトランクスが、どこか暖かく懐かしいのは――
いや、違う。
暖かいのは、縫製した者の心がこもっているのを、其処に強く感じるからだ。
だとすればコレは、誰が、一体――
――などと考えるまでも無い。
答えはひとつしか無いのだ。
彼がそれを求めていることを知っている者、そして絶えず彼の側に在った者。
きっと、あるいは彼が眠りに落ちている時、きっと、彼が空を眺めて安らぐひととき。
そんな時々を盗み、少しずつ、少しずつ作り上げた優しさと、暖かさが満ちた、どこか不器用な丁寧さが織り込まれた下着。
それが、それだった。
だが、だけど。
ノベリットは想った。
コレを纏うことが、ここから去ることへの足がかりだとするならば、
――否、そもそもだ。
――ここはどこなのだ?
『妖精郷』?
そんなものは幼い頃の伽の話以来に聞いたことすら無い。
――ここ?
――去る?
――どこへ?
分からない。
何も、まったく、分からない。
今、ノベリットの中で確かなことはたったひとつに集約されていた。
それは自分の肉体のことでも、それを取り囲む世界のことでも無い。
手の中の感触、暖かな下着。唯一枚それだけのことだった。
匿川 名 2022-02-18 21:09
遙かに彼を包むのは、遠く置き忘れた記憶だった。
遠く、遠く、それに果ては無く。
否、『果てが無い』のも当然である。
彼はそもそも『其処(そこ)』には最早居なかったからであって、
その意味でここは『彼方(かなた)』ですら無い。
彼の中にふわり、ふわりと蝶の羽ばたきのように、
揺らぐ陽炎のような光景が戻っては、去る。
(――嗚呼、何故自分は此処でこうしているのだろう)
気がつけば、世界はその姿を大きく変えて、
それまでの当然は雲散し、
落下していたはずの身体は、何時しか虚空にくるくると舞い、上下の別すら不明瞭となった。
何もかもが曖昧模糊としているのは、ここが云うならば『虚数』の世界で在るからなのか。
どこまでも、『とある概念』の中の世界で在るが故なのか。
呆(ぼう)とする『彼』と、その儚く薄らかな存在は、
口と思われる何かを動かして、ただ呟く。
『ノベリン』
全(まった)き曖昧の中で、全(まった)き輝きが、ゆるりとした瞬(またた)きを見せる。
それは茫漠とした概念の中で、『ひとつの矢印』で在るかのように。
それに応じて彼が気づいたのは、この世界の中で『唯(ただ)ひとつの完全』の存在で在った。
あらゆる夢よりも遠く、あらゆる現実よりも彼に添い、
今、未来、過去、全ての時間とともに、それはただ閉じた手の中にこそ。
名指すなら、それは究極の概念。
――『トランクス(←ガチ手作り)』
匿川 名 2022-02-14 21:32
ノベリットは絶叫した。
身体はみるみる、ぐんぐんと大地へ引かれた。
今度こそ絶望したノベリットは目を閉じ、せめて来たるべき衝撃に備えようと頭を抱えて身を丸くした。
しかし、『最早そんなものは何の助けにもなるまい』と頭の奥底で当の本人が理解している。
している、はずだったのだが――
「ノベリット!諦めちゃだめ!」
落下に伴い空を切る耳に、切れ切れに届いたのはノベリンの絶叫だった。
「だめ!こんなの間違ってる!あなたはこんなところで死ぬ運命なんかじゃない!」
その声は悲痛だったが、説得力が皆無だった。
ノベリットには空を舞う術など何もない。
ノベリンのように羽が生えているわけでも、魔法で体躯を浮かせることができるわけでもなく、そして、
――さりとて、竜の背に乗るわけでもなく――
「思い出して!
ただ、思い出すの!あなたがなぜここに居るのかを!」
――夢幻の果てに産まれしは、まことの陽炎と、陽炎のまこと――
「ごめんなさい。
私は、本当はいつまでもここに居たかった!
でも、でも――あなたが死ぬのはもっといや!」
――現(うつつ)を忘れしは、包布の中の微睡み故、也(なり)や――
落ちる身を解いて、首を傾けたノベリットが見たのはノベリンの姿だった。
「これを――纏って!」
ノベリンはそう叫んで、痛切な面持ちでノベリットに布の固まりを差し伸べた。
落下しながらノベリットがそれを掴む。
ノベリンの体躯からするとどこに隠していたのかというような大きな布ではあったが、ノベリットの体型からすると、ほんの一掴みほどの代物だ。
――バンダナ?
そう思いつつ、ノベリットが布を開き解く。
そしてノベリットは『それ』を見て、何であるかを知り、激しく驚愕した。
それはどこか懐かしい感じの、手作り感が漂う――
――青白のシンプルな柄が美しい、一枚のトランクスだったのだ。
匿川 名 2022-02-13 16:56
その未曾有の『揺らぎ』は世界を完全に包み込んだ。
単なる地震というにもあまりに苛烈。
水晶が見せる幻影の中で、三鬼衆はゆらゆらと足元すら覚束ない様子で逃げまどい、ある者は野生の獣のような恐怖の絶叫を上げていた。
成程とノベリーナは膝を打つ。
先程の三人の様子はこの揺らぎの幕間に過ぎなかったということか。
現実逃避と、次々襲う絶望と。
だが、ノベリーナは奇妙な印象を受けていた。
それは寧ろ世界の崩壊を思わせるような過酷な揺らぎの連鎖なのに、どこか果ての世界で観劇をするかのような。
次の瞬間、はっとノベリーナは気付く。
「お分かりになりましたでしょうか」
側近の声が低く、深く、空から注ぐ。
そう、そうなのだ。
――この未曽有の揺らぎは、『ここ』で完結している。
自身が真に存在する宮殿には、真実の体躯には、何らの揺らぎを覚えることがない。
「ど、どういうことじゃ?!」
ノベリーナは訳も分からず空へと、引いては側近へと問い返す。
「それは、簡単なことです。貴方は実は『観測者』に過ぎない。『そこ』も『ここ』も同じ妖精郷の大地ながら、あなたは実はそのどちらにも『いない』。」
「な、何を言っているのか分からぬ!」
絶叫するノベリーナの前に、ふわりと青白い手が浮かび上がった。
その上には深い青色をした水晶玉が掴まれ、ぼうと淡く輝きを放っていた。
ノベリーナは吸い込まれるようにその中に目を凝らす。
その中に映し出されていたのは、遠く彼方の大地。
飛ぶ竜と、その背に乗る幾人かの者たちの姿。
そして、ちかっと小さな火種が見えたかと思った次の瞬間、それは世界を包む業火となって一息にノベリーナを包み込んだ。
恐怖のあまり、ノベリーナが声の限りに絶叫する。
そこに、側近の声がまたどこからともなく降り注いだ。
「実は端的に、ここは在る者の『心の世界』なのですよ。
それら『三鬼衆』の正体とは、その者の弱まった『知恵』、『力』、『勇気』を象徴する存在なのです。
そして病んだ『世界の盆栽樹』はその者の『心の幹」。
それが振りまく『花粉』とは、心の内に深々と、絶えなく積もる『絶望』の姿なのです」