バトンを繋ごうRPG 『勇者の旅立ち』[小説コミュニティ]
勇者ノベリットの冒険
かざぐるま} かざぐるま |
勇者は村を出た。装備も魔法もまだ持っていない。とりあえず北の森に向かってノベリットは歩き出した。そこに突然!! |
2013-07-11 19:30:04 |
コメント (196)
匿川 名 2022-07-02 13:57
※閑話休題※
そんなわけで気がつけば2年7ヶ月ぶりに勇者がこちらへと戻ってきました。
なんと、2年7ヶ月ぶり!
どんな超大作なんだ!(爆
多分誰も読んでいない事は分かっているんですが、自己満足なので続けます(大爆
でも『作品コメント』とは違ってコミュニティは過去ログが読めるのでまだ助かります。
というか、過去ログが読めなくなったらその時点でこのスレッドは頓挫してしまう気が(汗
今日はお休みなので、夜にでももう2,3回分くらい書けると良いなあとと思っています。
それと、お暇な方がおられましたらお気軽に乱入していただけると嬉しいです。
話の腰を折ろうがなんだろうが全く構いませんので。
匿川 名 2022-07-02 13:47
薄目を開けた。
ひゅうと頬を撫でるのは受けて流れる風のそれだった。
ひりつく全身は指を動かすのすら気怠く思わせる。
だから薄目を開けたまま、止(とど)まった。
横たわり、ただ在るところから視線を廻らせる。
俯いたまま、女は唇を噛んでいる。
静かに、昏(くら)く、しかし遣る方ない憤懣は全てが己の方をこそ標(しるべ)として向いているかの如くだった。
男は座り、胡座をかいている。
その姿は彫像のような静けさを纏い、しかし服越しにでも微かに上下する胸板は
そこに一息毎の悔恨を感じさせるようで、痛ましい。
皇の姿は、無い。
それが何を意味するのか己に識る術も無く、胡乱に動かす眼の先に、白々とした朝日が見えた。
差し込むようなその輝きが、いっそこの眼から光を奪ってくれれば良いのに。
そんな風な事を考えていると、くるりと輝きの先で何かが動いた。
それは、竜の頭。
そうだ、自分は竜の背にいるのだ。
そして空を滑っている。
竜はその場の一行の中で、誰よりも早く彼の目覚めに気がついたようだ。
竜は首だけ傾げて彼を眺め、滑空を続けながら、ふと、
その眼を猫のように細めた。
其処に言葉は無く、竜はそれを束の間また前に向き直ったが、
言葉では無く、言葉を超えながら、
『御還(おかえ)り』
と彼に告げている。
強く、強く。そんな気が彼にはした。
匿川 名 2022-06-04 08:30
廻(めぐ)る。
怒濤が如く、影が、かがやきが、渦(うず)として坩堝(るつぼ)が如く、廻り廻る。
その中で勇者は翻弄され、喘ぐように口を開くも空気は流れ込む事がない。
乾きではなく、枯れでもなく、呼気が其処に無いのはこれもまた道理。
勇者は漠と理解する。
――此処は現世に非ず。
『夢』とは。
『もうひとつの世界』であり、己(おのれ)こそが創り上げた精緻極めた『まがい物』。
中に至りて、外を眺むること、けして能わず。
『夢』とは。
彼岸の一端であり、己が望むと望まざるとが驚異に一体化したおぞましき世界。
其処を抜ける時、ヒトは転生にも等しい魂の費消を強いられる。
ゆえに『夢』とは。
或いは魂を摩耗させる岩であり、時に優しい包布であり、かりそめに『骸の彼方に在るもの』を覗かせる恐怖であり、
そして『夢』とは、
螺旋の如く糾(あざな)われた、生死の把なる細い縒(よ)り糸の隙間の世界なのである。
匿川 名 2022-06-01 20:35
「ええっと」
ノベリットは目の前に立つ男を眺めながら、不審げに眼を細めた。
「今までの流れからすると、多分あなたが私の『勇気』とかそんなものの象徴なんですが」
そういうノベリットの目の前で、男はほじほじと興味なさげに鼻をほじって見せた。
痩せた体躯に、だらしなく伸びた髪の毛は前髪だけが剣のように尖り、右手にはそれを固めたであろう『ケ○プ』と書かれたヘアスプレーの缶が握られている。
「そうっすよね。ボクの勇気ってその程度ですよね。はは。はは。ははははは」
目の前の男のなんともだらしなく情けない体たらくに、ちょっとガッカリしているぞノベリット!
「ヒトを見た目で判断するもんじゃない」
すると、突然千年沼の水面の如く深みを帯びた声が、ずしんとノベリットの腹の底の方に響いた!
んにゃ?!と驚きキョロキョロするノベリットに向け、目の前の男が一歩前に足を進めてそっと近づいた!
なので、剣のような前髪がうっかりおでこに刺さりそうになったから、ノベリットは半身になりサッとそれを避けた!
「お前は小僧の姿になってもお前でしかなかった。
そして今お前は在るべき処を思い出しながら、世界と対峙する勇気を得ようとしている。
きっと途方もない労力を要するだろう。
お前に果たしてそれが堪えうるかオレは甚だ疑問に思う」
ずし、ずしんと響くのは、男の声。
目の前の男が発する、岩のような手触りをした単語の羅列。
ことば。
「だがオレは、不本意ながら其処に戻る。
なぜなら其処がオレの『あるべき場所』だからだ。
夢の世界を超えてオレは戻る。
内側からお前を支える心棒となる」
そう言って男は右手をすうっとノベリットの胸元に伸ばした。
その先にはノベリットの心臓こそがある。
「戻るぞ。還るために」
そして男はそう呟くと、すうっとノベリットの胸の中へと溶け込むように消えていった。
束の間男の目が細まり、ノベリットの瞳に向けて不敵に微笑んだ。
ノベリットの勇気が1上がった!
「・・・って、あんだけ思わせぶりにもったいぶってたった『1』かーい!」
匿川 名 2022-05-22 22:54
「まあ、そういうわけでオレも手を貸す・・・というか、在るべきところに戻るべきなんだろうな」
そう言って右手でガリガリと後頭部を掻きながらふらりと姿を見せたのは、背に大剣を担ぐ筋骨隆々とした男だった。
「オレはガッシ。お前の力を象徴する存在だ。帰るぞ。いろんな意味でな」
その男、ガッシはそう言い、ぶっきらぼうなまでにのそのそとノベリットの歩み寄ったかと思うと、レイと同じようにすうとノベリットの体内にまるでそれが当たり前であるかのように溶け込んだ。
ノベリットの攻撃力が3上がった!
匿川 名 2022-04-12 22:46
怒濤の如く甦るのは膨大な記憶の奔流であった。
それに弄ばれるが如くノベリットは頭を両手で抱え込み煩悶した。
そうだ、俺は、
ズボンを濡らした訳を分かっている。
許容量を超えた圧倒的な恐怖に包まれて、不随意筋が緩んだために違いなかった。
邪悪で貪欲な黒い霧と、魂を喰らわんとする魔法の気配と、絶望と、絶望と、絶望と。
身震いする中、ノベリットは抱え込んだ自らの両腕が大きくなっていることに気がついた。
いや、妖精郷で少年であった姿から、本来の自分へと回帰しているのに違いなかった。
何故に自分が少年の姿であったのか?
理由は単純でかつ決まり切っている。
何もかも忘れて無垢かつ純真な己(おのれ)へと立ち返りたかったのだ。
そんなものは何の救いにも成らず、万象を放棄した末の無責任な内向的逃避に過ぎないというのに。
しかし残酷に、腰に纏ったトランクスが柔らかく、だが同時に優しく主張する。
『今こそがその刻(とき)』だと。
――お前はあの地へ還(かえ)らなければならない。
「気がついたならそれで良いのです」
そう声をかけてきたのはローブの男だった。
いつの間にか辺りに満ちた闇の中に、青白く浮かび上がった男は恭しくノベリットに頭を下げた。
「私はレイ。あなたの知恵を象徴する者。あなたがあの地へ戻ろうとするのなら、私はともに参ります」
レイはそう言ってノベリットの眼を覗き込んだ。
そして、何かに納得したかのように優しげに微笑み、胸に向けて手を伸ばしたかと思うとそのまますうとノベリットの体内に溶け込んだ。
ノベリットの知力が2上がった!(それだけか!)
匿川 名 2022-03-28 21:24
白光に眼を細めながらアニエスは山間に登らんとする陽を眺めた。
悪夢のような夜が明け、竜の背に乗り滑空を続ける。
然してその背には、今では3人。
彼女と侍と、呆けて涎を垂らす勇者が――否、嘗て勇者であった者が、ひとり。
彼女は侍に目を向けた。
侍は腕の中に勇者を抱いている。
勇者は、開いた眼の中に虚空のみを写し、およそ魂と呼べるものを其処に宿している様子はなかった。
皇は朽ちた肉体とともに舞う闇の中に墜ちた。
姉妹は荒野の中に置き去りで、おそらくもう、頭を貫かれたあの様子などから、既に――生きてはいまい。
大地は低い唸り声を上げ続ける。
それは神の煩悶か。
寝返る巨人の体躯の背に在るかの如く、大地がうねり、揺れ、ひび割れる。
地面は嘗て遍く『いきもの』の母で在ったのが、今では断末魔の悶えに狂う呪われた何かのように、その上に在る者を翻弄し、斃し、或いは殺していた。
この様子では地に降り立つのですら容易では無いだろう。
何をすれば良いのか。
何をするべきなのか。
否、自分には、事ここに至りて、
一体何を為すことが可能であると言えるのか?
「『ノベリスト』の大地が震えている」
侍――種田はそう小さく呟いた。
アニエスは眼下に観る大地の様子に、『その言葉が是である』と呑まざるを得なかった。
彼女と彼らが住む大地、『ノベリスト』を遙かに眺めつつ、アニエスは鼻から一度細く息を吐いた。
そして、そのままそっと目を閉じた。
匿川 名 2022-03-23 22:44
「種田、何を!」
アニエスが叫ぶ。
皇の肉体であったモノは自由落下し、『闇』としか名指せないモノが『ぶわあ』とそれを追った。
しかる後に彼らを取り巻くのも夜の闇。
だが其処には邪さが明らかに薄まっている。
その機を逃さなかったのは彼らが乗る竜だ。
ばさりとひときわ激しく羽ばたくと、一度首をぐいと短くし、やおらそのまま正面へと突き出した。
紡錘体に近い格好で空を切る。鋭く斜め前、やや下降気味に空を切る。
まるでその様は猛禽が狙い澄ました獲物へと一斉に飛びかかるかの如き鋭さであった。
膨大で果てしないとしか思えなかった『闇』はその瞬間彼らを取り巻くのを止めた。
いや、『闇』は最早彼らから興味を失っていた。
『闇』が求めているモノは極論、彼らではなかった。
世界にとって存在が希そのものである竜ですらなかった。
『それ』が求めていたモノは朽ちたばかりとしか思えない巨躯の名残だった。
「今はこれが最善。否、これしか我らに取り得る術はない」
種田は前を向いたまま淡々とそう言った。
脇には呆けた勇者を抱えて竜の背からの落下を防いでいる。
アニエスは遠く成り行く皇の遺骸を眼を細めて視えるだけ追った。
闇はその肉体に纏わり付き、包み、
遠目に、微かに、しかし紛うことなく、
がつがつとさもしく『それ』を喰らった。
その余りのおぞましさにアニエスは胃に込み上げるものを覚えた。
しかし目は逸らさなかった。
眺め続けた。
『闇』が一点に凝縮する。
それは嘗てその者があった証。
眺め続けなければいけない。
だが、遙かな速度で飛翔する竜は彼方にその眺めを置いていこうとした。
しかし、
それでも。
アニエスはいつまでもその向きを眺めた。
眺め続けた。
やがて彼らは完全に『くらやみ』から離れた。
そして、その頃、
東の空から、微かに白む陽が昇り、彼らを捉えた。
匿川 名 2022-03-19 23:55
『視界が闇に落ちる』という感覚。
ふわりと閉じる視えざる緞帳。
アニエスは思わずごしと自分の目を擦った。
そして視線を種田の方に向ける。
種田は険しい顔をして空を――竜の背に在り、さらにその上なる空を――見上げていた。
たちどころに深くなりゆく闇の中ですら気配が分かる。
頬の皺が険しくなっている。
闇が纏わり付く。
圧倒的な邪(よこしま)が、あらゆる輝きを奪い去りながら彼らの身体に纏わり付いていく。
アニエスはそれまで感じたこともないような怖気(おぞけ)とともに、胃の奥から迫り上がろうとする熱い固まりを必死に堪えた。
竜の翼が今一度激しく羽ばたく。
其処から去るべく、強く、風を切り大気を滑る。
だが、
その邪(よこしま)には力が無い。
打ち払うべき手応えも、相対するための眼も、伸ばし触れてくる掌(たなごころ)もない。
そも、亡霊を相手に剣を揮(ふる)うような他愛なさ。
だから、それ故に、
祓い処が無く、手の施しようも無く、絡みつくに任せるほか為せる業は無い。
「やれやれ。我々を逃がす気は無い、ということか」
種田はそう呟き、
そして、
竜の背に在り、朽ちて解けゆく巨躯の肩を掴んだ。
嘗て人の肉であったそれは、砂のように解(ほど)け、種田の手中に握られた。
束の間、視えざる闇が、名指しがたい邪(よこしま)が、
揺らいだ。
それを『把握』と看るや、種田は掴んだ手を瞬間背後の虚空に向け振り、中の欠片を宙へと放った。
瞬間、
邪(よこしま)は、視えないながらに確かにその欠片を追った。
「やれ、予想はしていたがなんたる浅ましき執着かよ」
種田はそう呟き、
そして、
嘗て皇であった朽ちた肉の塊を、
蹴やり、彼らを乗せる竜の背後の空へと、ただ一撃の下に放り出した――。
匿川 名 2022-03-19 17:43
――それは、或いは誰かの嘗ての記憶――
薪が仄かな明かりをふりまくばかりで、漆黒に近い森の中に彼ら一行はいた。
概ね横になり眠っているはいるものの、持ち回りで見張り番を立てることにしていたので、今はひとり彼女だけが起きていた。
微かな赤い炎が放つ明かりの中に、布(きれ)を繕う。
辺りの音に耳を澄ませながら、手許の意識は針と糸と、布の重なりに集まっている。
出来は決して美しくはない。
何しろ彼女はそれまで繕いなどをしたことがなかった。
「あつッ」
針先で左手の人差指の先を突き、思わず小さな声を上げる。
瞬間、アニエスだけがぴくりと肩を揺すったが、『起きはしまいか』と心配して息を殺しながらしばらく眺めていると、その肩はまた規則正しく上下を始めた。
彼女は左手の人差指を見た。
そこには小さな赤い血の玉が出来ていた。
ぱくりと咥えそれを舐め取ると、それ以上はもう出血することはなさそうだった。
ふうと息をついてまた繕いを始める。
淡々と、いましばらく。
自分が此処で火の番をしている間だけ、続けるつもりだった。
ちらり、と彼女は勇者に視線を送った。
勇者はそこでかあかあと小さな鼾をかきながら眠りこけている。
「お気楽なもんねぇ」
と彼女は小声で独りごちた。
そのとき勇者の口元が緩み、笑んだように見えたが、それは決して彼女の言を汲んでのことではあるまい。
彼女もそれはよく分かっていたので、また手許に視線を移して繕いを続けた。
知ってか知らずか、そんな彼女の口元は、どこか柔らかく緩んでいた。