バトンを繋ごうRPG 『勇者の旅立ち』[小説コミュニティ]
勇者ノベリットの冒険
かざぐるま} かざぐるま |
勇者は村を出た。装備も魔法もまだ持っていない。とりあえず北の森に向かってノベリットは歩き出した。そこに突然!! |
2013-07-11 19:30:04 |
コメント (196)
匿川 名 2019-06-06 22:49
揺らぐ、
陽炎のように、
頼りなく吹けば消えるかのように、
『ゆらあ』と揺らぎ、それでも白刃を薙ぐ。
「カイザー」
とアニエスは背中を預ける男の名を呼んだ。
「応(おう)」とカイザーが気安く、実に気安く応じる。
旧知の友人から『煙草が切れたので一本くれ』と頼まれでもしたかのような、底抜けの気安さだ。
例えばそれまでの智を総動員してなお説明のつかない事象を、ヒトは奇跡と呼ぶ。
或いは魔法と、或いは祝いと、或いは呪いとこそ、呼ぶ。
世界の総てが己達に呪詛を向ける瞬間を前にして、正気を保つことは難しかろう。
だからこそ討たれ伏して動かぬ少女二人は――――喩えいま、死の川を渡ろうとしていたとしても――――『絶望と合い面することが最早無い分』だけ、この場においては幸せであるとすら言えるのかも知れなかった。
だが、
緑の闇の中から一際濃い『滾り』がくねり、ひゅっと音も無くアニエスを襲った。
反射的に身を翻したアニエスは『滾り』の奥の汚れた白を刃で打ち逸らす。
そこには『狼の牙』があった。
上目に睨み付けると、牙の先に伸びる緑の煙で形作られた曖昧な狼が後ろに飛び戻りふわっと虚空に消えた。
ふふっと鼻から抜けるような微笑みがアニエスの耳を打った。
それに導かれるように、視線は目前の敵から微塵も動かさず、気配だけを背後に送る。
「豪胆とは云わぬよ。足が震えている。だがそれでも主(ぬし)は『ひとかどの剣士』なのだな」
深く落ち着き払った青銅のような声音がアニエスの耳をまた打つ。
「――――恐縮至極」
アニエスが微笑みながらそう呟いた。
それまで信じていた世界の総てが敵に成ったように見えたその瞬間でさえ、
剣士はそのとき、間違いなく皇とともにそこに在った。
しかし緑の闇はふたりを完全に包み込み、
怒濤の如く押し潰さんばかりに、
『ぐうっ』と殆ど音を立てるかのように、
二人を極として、
点を結ぶかのように、
そこで閉じようかとでもするように、
『勇者』の見る前で、
内に向けて『収約』を始めていった。
匿川 名 2019-06-02 23:50
※閑話休題※
わあ、なんだかにわかにダークファンタジーっぽい!
・・・ような気がします(爆
しかしこの展開でノベリット大丈夫なのかなあ?
一応主人公なのに情けないぞ!
アニエスとカイザーだけ戦わせて良いのか?!
『緑の閃光』に貫かれた『なんちゃって二人っ子』のマナとカナのその後は一体?!?!?!
・・・まあ、懲りずに続けますが、実は脱線・超・上等です!
どなたでもテキトーに流れを変えていただければ私としては乗っかりますが、さて?
匿川 名 2019-06-02 23:44
その歪んだ頬の肉が引きつるようにたわむのを、ヒトは『喜悦』と判じるのだろう。
「かかっ」と金属質な音が漏れたのはその口の中からであって、ヒトはそれを『法悦』と呼ぶのであろう。
世界を『紡ぐ』のは何であるのか。
その問いに立ち返るなら、『人』と答えるべきなのだろう。
あらゆる命に意思があるなら、あるいは、
あらゆる存在に意思があるなら、
その観測する数多の事象は、ただそこに在るだけなのに、意味を見出そうとするものは、万物において『人』のみに過ぎないからだ。
―――ならば、
世界を詠むものは何であろう。
眺め慮り、在る姿からその様(ざま)を心に詠むものは、何であろう。
皇よ、
皇よ、
わが、皇よ!
――――我は汝の屍を踏み越えることで世界の頂に至らんとする者為り――――
歪んだ男は歪んだ微笑みをその貌(かお)に貼り付けたまま、ゆらゆらと両の掌を水晶球の上に揺らした。
我は我こそは――――世界を詠む者為り。
そして、その透き通る玉の中に、
その玉に満ち行く緑色をした虚空の中に、
男は骨張ったひょろ長い人差し指を呪いを込めるように向けた。
邪悪な玉の中にたちまち垂れ込めるような灰色をした暗雲が立ち昇る。
それは此処とは異なる場所で、世界を占める空の色。
ひひっ、と男が嗤う。
邪悪が満ちる水晶玉の中で、独り輝きを遺しつつ抗う屈強な男の頭上に、酷く邪悪な意思を持った暗雲が満ち満ちる。
――――雷が落ちようと、している。
匿川 名 2019-05-29 23:07
脱兎の如く彼が駆けたとして、誰がそれを責めることが出来たであろう。
彼を追いかけるのは遠い悲鳴で絶叫で、しかしそれはどこまでも彼の身に付き纏い、濡れた煙のように忌々しく、振り払いようもなかった。
恐れで心と肉体が乖離する。
しかしそれもやむを得まい。
圧倒的な絶望を前にして、『走れ、走れ、ひた走れ』と命ずる脳髄に、肉体のあらゆる機能が応答の遅れを見せたとして、つまりは――――
足がもつれ、転び、起き上がろうとするさなかにもその足は前へ前へと駆けようとするので、立ち上がることすら満足に出来ないまま――――
のめり、あえぎ、その双眸が不意に空を見上げたときに、緑色の闇がそんな彼をあざ笑うかのような満つり方で果てまでを占めたとき、
彼は身に纏う悲鳴の主が己であると初めて識った。
永く短く、しかし彼自身は遙か彼方まで駆けたと思った。
しかしそんな彼がぎょろりと振り返った先で、百間も離れてはいない処で、彼の『犬』は闘っていた。
無限の闇を、
世界を包む暗黒を、
祓うのは、
祓おうと足掻くのは、
眩さは儚く、しかし確実にそこに在ったので、
彼は、皇の状(ざま)を視た。
「なんだ」
と言葉が口をついて出た。
圧倒的なまでの絶望にとらわれながら、深夜の荒海の中で、揺れる小舟に差す松明よりも仄かなくせに、アレは明らかな胸の奥を震わせる『何か』だ。
何か。
なにか。
暗闇と悪意と絶望の中にほの輝(ひか)るそれは、
それを、
人はきっと『勇気』と譬えるのだろう。
闇に足掻き、堂々と叫(たけ)びを挙げる彼の側に、闇の中から陽炎のように揺らぐ何かが添った。
幽霊のように頼りなく、しかしそこに在るのは明確な意思であって、
それは『ともに抗う』と誓うかのように、白銀の刃をゆらゆらと閃かせ、
皇の傍らに侍り、叫(たけ)んだ。
「――――アニエス」
彼は、ノベリットは己が眼に写る影の名を呼んで、がくりと両の膝を地に着いた。
匿川 名 2019-05-26 23:36
犬はノベリットの方を振り返り、口角を上げた。
犬はその筋肉の構造から、微笑むことは出来ない。
ならば今、この犬が微笑むことが出来るのはなぜか。
その時、犬の肩がむくりと腫れた。
両の足の関節がまっすぐに伸びていき、毛がずるずると抜け落ちる。
カイザーが人の姿を取り戻そうとしているのだ。
「や、止めろカイザー!今人の姿を取り戻したら、お前は永遠に犬のままで生涯を過ごすことになるぞ!」
ノベリットが絶叫した。
しかしカイザーは変身を止めない。
肉の毛はずるずると抜け落ち、
身体は本来の男性的な巨躯を取り戻しつつ、
伸びていた鼻と口元は彫像のような鮮やか唇を取り戻し、
微笑みを浮かべながら、囁くように、言った。
「良い。良いのだ、ノベリット。
我は亡くなるわけではない。
我が我の姿をとこしえに失ったとして、お前が、お前さえが分かっていてくれたら、覚えていてくれたら、それでいいのだよ。
我はこれからもお前とともに在る。
ただ、そのためには少しばかり今ここで『しておかなければならないこと』があると言うだけだ」
『緑の闇』の根源に、一人の男が対峙した。
『闇』は『死の閃き』を男に向けて放った。
男は片手で難なくそれを跳ねて払った。
光が歪み、脇へと落ちる。
男の口角が歪む。
しかしそれは先ほどノベリットへ向けたものとは異なり、怒りと憎しみとたっぷりとそこに湛えていた。
唐突に、地を揺るがすような咆哮を男が上げた。
ノベリットはその後ろから緑の闇を盗み見た。
その『緑の闇』は、
『闇』に感情を認めることが狂気の沙汰で無いのなら、
ノベリットには、
底知れぬ『歓びの具現』、そのものにこそ見えたので――――
匿川 名 2019-05-26 23:35
「あ」
ノベリットはそんな声をどこかから聞いた。
しかしそれがどこから響いたものなのかが分からない。
前か後ろか左か右か。上か下なのか、今か過ぎた一時のことなのか。
その時はたと気がついた。
その声は、ひりついた阿呆の絶望は、
この喉こそが鳴らしたものだ。
詰まりは、
自分自身の中から知らず溢れた絶望そのものの具現としての音なのであって――――
弾けたのは何かが素早く地面を駆ける音だった。
呆けつつゆるゆるとそこまで考えていたノベリットの右側から、強烈な打撃が一撃加わった。
横っ飛びに吹っ飛んでいくノベリットがつい今し方まで立ち尽くしていた場所に、忌の緑色をした閃光が襲いかかり、じゅっと音を立てて地面を焦がした。
ゆるゆると朧な目を向ける。
ノベリットを押し倒しつつ、すかさず邪悪と対峙するのは、一匹の犬の姿だった。
――――カイザーだ。
匿川 名 2019-05-26 23:33
『ク』というのがそれに最も近かった。
ノベリットが『そこ』を向いていたのは偶然に過ぎない。
世界を覆いつくしたのは『光の触手』であり、
邪悪な意思であり、
蠢きであり、
『死』そのものであることは、
『それ』に触れ、
見ただけで一目に、
圧倒的に、
有無を言わさず理解させきるだけの圧力と迫力があった。
『ク』とはノベリットが聞いた音のことで、
目の前で折れ腹を抱える『マナ』の姿で、
彼女の身体を貫く緑の閃光に前後して『ぷしゅっ』とほとばしる血煙の姿で、
それはきっと透明を極めた憎悪の姿で、圧倒的な絶望の具現で、発せられたノベリットそのひとの呟きでもあった。
前のめりに倒れるマナの横で、カナが絶叫していた。
そのカナの頭部を『ク』が襲った。
僅かなひとときに響いた『ク』という音が側頭部を斜めに貫き、ガクンと頭蓋を揺らしたかと思ったら、カナは膝からくたくたと崩れるように倒れた。
匿川 名 2019-04-26 00:05
※業務連絡※
かざぐるまさ~ん!
最終投稿から5年が経過です!
もうここを見ていないのかなあ・・・。
終わらない物語は切ないので、そろそろ巻いちゃいますよ?
匿川 名 2019-04-25 23:56
死ね、死ね、死ね。
去ね(いね)、去ね、去ね。
汝よ、去ぬれば灰燼と帰せろよ。
もう我は容赦などは忘れた。
雷の轟きの彼方で焦がれ焼き尽くせよ、其の身を。
至る所で悔恨をまき散らし、永久の闇へとその魂を浮かべるがいい。
我が皇は衰え、畜生と化し、なお我を蔑む。
蔑み顧みず、至ろうとせず、
永久(とこしえ)に見下すためだけに、我の在り方を認めすらしない。
皇よ、皇よ、なぜに其方はそこまで横暴で傲慢なのか。
我の声が、今としては圧倒的に強大で、
汝の識るあらゆる世界を凌駕するこの我を、
万象を超えて佇むばかりの我を、
柳の影もかくやとばかりに顧みず、
忘我の果てでもあるまいに、
堕落と惰性と緩い朋とに囲まれる幻想の中で、
糞のような悪臭と嫌悪の中で、
浸り、浸かり、ただ漫と只管に溺れているのではないのか?
死ね、死ね、死ね。
去ね、去ね、去ね。
汝よ、彼方へ向け動けよ。
彼方へこそ向かい振り返るなよ。
我はもう汝を忘れることとした。
帳の降りた永久の夜の闇に、哀切を喚きながら彷徨うがいい。
彼方へこそ歩めよ。
盲いた灰色の瞳の中に、浮かぶはずも無い涙を晒して。
我が皇。
我が皇。
ああ、皇帝(カイザー)
我はもう汝を待つことは、金輪際有り得は――――しない。
匿川 名 2019-02-06 23:54
「あれは何だろう」
ノベリットはぽつりと呟いた。
一同が見るのはノベリットの視線の先、広がる大空の中の深緑色をした『しみ』の方だ。
それは日頃空を閉める蒼でもなく、鈍色の湿り気をたっぷりと含んだ雲の様でもない。
夜の漆黒でもなければ宵に入る際の燃え尽きる太陽がかざす紅炎でもない。
誰もが言葉を失っていた。
理由は他でもない。
それが常識を外れていて、およそ誰もが生涯で見たことがない異態であったからこそ、胸中にぐすりと燻るのは名指しがたい凶兆の印象と、それに端を発する陽炎のような不安であったからこそ、だ。
広がる深緑の様はある印象を一同に抱かせた。
クウ、とカイザーが犬の喉でうなる。
誰もがそこに押しつぶされそうな黒い不快を覚える。
それはそもそも『カイザー』が発すべき声音でも無ければ、誰もが聞くとは思っていなかった弱音のように響き、耳孔の深奥に届いたからだ。
漠然とした、しかし逃れようのない不安が心をかきむしるのを止められないまま、そこの誰もが彼方の空を見入った。
何が起きようとしているのか。
――――否、我らはそれを知っている。
逃れようのない、万物の至る極点。
その緑はそれを象徴している。
見ただけでそうと分かるのは、それが言葉や観念を超えた単純な真実だからだ。
それは『影』などでは無い。
『見えざる手』でもなければ『触れようとする概念』でもない。
例えば、こうした物事であり事象であるのだろう。
『死』という存在は、万物に等しく訪れて、
だからこそ、
彼らに対しても、一切の容赦が無くて―――
ノベリットがその不安について、
自らの内に折り合いを付けるために、
無理矢理に『名前を付そう』とし、
眼差しを強く、睨み返すそれに切り替えようとしたとき、
その『不安それそのもの』でしか無い緑は、
爆発的に広がり、一瞬で彼らを包み込み、世界を
完全なまでに、包括的に、支配した。