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自分自身

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   自分自身

 僕の特技は人に合わせて自分を変えられることだった。いつでも人にいい顔を見せて、人の心を読みながら行動していた。皆に僕の事を良い奴だと思わせる為に、常に自分を演じて。少し前までは自分の身を守る為の手段にすぎなかった。その頃は体つきも小さく、臆病だったから、その位しか自分の身を守る方法を思い付かなかった。確かに僕は良い奴だと思われていた。でも、本当の自分を出していないのだから、見掛けだけの友達は出来ても親友と呼べる友達は出来なかった。僕はだんだんと自分自身を出せる場所が無くなっていった。自分でいられる一人の時間が一番ほっとした。しかし、すごく寂しかった。誰とでも仲良く見えるのに、気が付くといつも一人。このままではいけないと思った。なんとか自分をさらけ出して本当の友達を作ろう。そう思った。でも、もう遅かった。僕は何人もの自分を演じ過ぎて、自分自身を失っていたから。頭の中でどういう人間を演じるか考えなくては、行動することも喋ることも出来なくなっていた。すごく悩んだ。何日も、何日も。そして僕は気が付いた。悩まない人間を演じれば、ただの楽天家な自分を演じれば、こんな悩みは解決するのではないかと。思った通りだった。あんなことで悩んでいた自分が馬鹿に思えた。自分が無いというのはなんて楽なのだろう。今まで他人の目を気にして、小さなことで悩んで、なんて無駄なことをしていたのだろう。これからはくだらない悩みを抱えることなく、そして、くだらない悩みで人に心配を掛けているような奴等の事を考えず生きていこう。僕は嫌いだったこの性格が好きになっていた。そして周りの人間を見下すようになっていた。その時から臆病で気の小さい僕はいなくなった。
 『彼は自分自身が無いと本気で思っていた。ただ自己暗示をかけるのが少し上手かっただけなのに。確かに昔の彼は臆病で気が小さいところがあった。しかし、周りの事をよく考える良い奴だった。それなのに今はどうだろう。人を見下し、心にも無いことを口にする。なんて嫌な奴になってしまったのだろう。彼を何とかして昔の彼に戻す必要がありそうだ。』
 僕はこんなにも自分の思い通りになる世界があったことに浮かれていた。以前から人を見てきた僕にとって、人の心や行動を読むことはとても簡単なことだった。街をいい気になって歩いていると、前からとても綺麗な人が歩いてきた。僕は一目でその人を好きになった。何とかして喋る切っ掛けを作ろうと思っていた。彼女のことをじっと見詰めながら考えていると、視線に気付かれたらしく目が合ってしまった。僕は戸惑った。まだどういう自分を演じるか決めかねていたから。彼女は僕の目を見詰めたまま逸らそうとしない。すると彼女は突然足を止めた。僕もその場で立ち止まった。適当な距離を保ったまま僕らは見詰め合っていた。どちらが先に喋るのだろうか。とりあえず僕は、彼女が何故見詰めているのか、何故通り過ぎていかないのか、考えが読めない限り動けない。そのままかなりの時間が経った。僕は彼女の目を見詰めていて思った。人の目って綺麗だなって。今まで人の目を怖いと思っていたのに。ずっと怖いと思っていたから、人と話す時だってあまり目を合わせなかったのに。こんなことをずっと考えていたら、突然彼女が微笑んだ。その瞬間僕の緊張が解けた。僕も自然と微笑んでいた。彼女は僕に近付いてきて、
「その笑顔は演技じゃない、本当の笑顔なのね。」
 と言った。自分自身の本当の姿。臆病で気が小さかったけど、決して人を見下したり嫌いになったりしなかったあの頃。あの頃に戻ったような気がした。その後知ったのだが、彼女は僕の友人に頼まれたらしい。僕に出会って微笑みかけてくれと。それだけで良いからと。あいつは全て分かっていたんだ。僕が人に合わせて演技していることを。彼女に喋らせなかったのは僕に演技をさせない為で、意表を付いた彼女の笑顔は僕の本当の部分を出す為だった。あいつは僕のことを分かってくれていた。僕にはずっと友達はいないと思っていたけど、あいつは僕のことを友達だと思ってくれていた。確かにあいつには一番最後まで僕の本当の姿を見せていた。あいつだけは僕の本当の姿も、完璧だと思っていた演技も分かっていたようだ。僕は彼女と二人であいつに合いに行った。
 『彼は昔の彼に戻った。俺に本当の姿を見せてくれていたあの頃に。彼は俺の所に来て最高の笑顔で「ありがとう」と言った。しかし、本当に礼が言いたいのは俺の方だ。ありがとう、彼女を治してくれて。彼女もおまえと同じで自分自身を失っていた。俺は考えた。そして、もしかしたらと思った。自分自身が無いもの同士を会わせたら、お互い読む心が無いのだから本当の自分を出すんじゃないかって。思った通りだった。よかった、治ってくれて。でも、彼女が俺の恋人だって知ったら、彼はまた自分を出さなくなるのかな。それでも俺は構わない。彼女さえいてくれれば。』

 あの人達、何も分かってない。私が本気であなた達の相手をする訳ないじゃない。ちょっと遊んであげただけ。でも、本当の楽しみはこれから。私はずっと演じ続ける。それを知らずにあなた達は私を取り合う。そこには友情も何も無い。私が一番好きで見たかった世界が広がる。全て私の思うがまま。自分自身が無いって本当に素敵。楽しみだわ、これからがとても。
作品名:自分自身 作家名:もとはし