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テッカバ

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血祭オンステージ 6


「……また君たちか」
 くたびれた帽子を押さえつけるようにしながら信楽警部が言った。
 それはこっちの台詞である。
「また、刑事さんですか」
「だから刑事じゃなくて警部なんだが……」
 ため息をつく警部。もうこのやり取りもお約束である。
 警察が信楽警部を先頭に入って来たのは2、3分前。現れた方向的に私たちと同じゲームセンター側入口からやって来たらしい。いい大人がぞろぞろとゲーセンの中を大挙して通って行く光景はきっとかなり滑稽だっただろう。
 警部はもう一度大きくため息をついてから、死体のあるステージの上へ脇の階段を使って上って行ったが、そこに先客が既に居た。
「すごいすごい! やっぱルミノールってすご過ぎ! だてにC8H7N3O2なんて美しい化学式してないわぁ。吹きかけるだけで血痕を青く浮かび上がらせるなんて、あなた無しじゃ犯罪捜査は出来ない! どれぐらい必要不可欠かと言うと……」
「黒御簾君、何だね? この死体に薬品かけながら大はしゃぎしている子供は」
 ナイフが肋骨と水平方向に刺さった死体の胸元に薬品のスプレーをかけて青白く光らせている奈々子を見ながら、しかめっ面をして警部が訊いてきた。それをまったく意に介さず嬉々とした面持ちで奈々子は神田さんの死体にいろいろな薬品を使い始める。
 この子、いつの間にか白衣を着て完全に鑑識のおじさんの仕事を奪っている。「科学色の小悪魔」の異名は伊達ではないようだ。
 私に訊かれても困る。私だって彼女とは今日会ったばかりだし、彼女の奇人っぷりには閉口しているのだ。
「一応言っとくとその子大学生です。子供にしか見えないと思いますけど」
「黒御簾君、冗談は良いから早くこの中学生を退けてくれ」
 あー、もうしょうがないな。
 私はステージに上がって奈々子の両腕を後ろから掴んで客席に引きずり下ろす。入れ替わりで鑑識のおじさんたちが死体の周りに行く。
「何すんの! ミッスン!」
「次そのあだ名で呼んだら鉄拳制裁。可愛いからって何でも通ると思うんじゃないわよ」
 ブーブー不満を言う奈々子を唄方くんを呼んでなだめてもらい、私は警部との話に戻ろうとした時だった。一人の女の人がこちらにやって来た。
 受験者の一人、株トレーダーの京橋望さんだ。
「信楽先輩、マークするよう頼まれていた男が会場の外へ向かってます」
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎