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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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テンマさんのたからもの

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 見ると、左手にはいつものようにこうもり傘を差し、右手の指には、一樹の自転車のカギがぶら下がっています。
 隼人が言いました。
「今なら、取り返せるよ」
「うん。でも、もう少しようすを見る」
 一樹はそのまま、あとをつけていきました。
 すると、テンマさんは港を通り越して、廃港のほうにいったのです。そして、今は使われなくなって、草ぼうぼうの船ひき場に放置されている、大きな廃船のそばまで来ました。
 廃船は、横に大きな穴が開いていて、洞穴のようです。テンマさんは、その中に入っていきました。
 ふたりは足音を偲ばせて近づくと、そっとのぞいてみました。すると、中には数え切れないほどたくさんの、自転車のカギが糸でつるしてありました。
 まるで、風鈴かモビールのように飾り、テンマさんはそれをゆすって、ちりん、ちりんとならし、子どものように無邪気な顔で笑っています。
 ふたりはしばらくの間、黙ってテンマさんの様子を見ていました。
 そのうち、一樹は廃船から離れました。あとを追った隼人が言います。
「いいのか。あのままで」
 一樹は笑って答えました。
「あんなに喜んでるんだもん。取り返せやしないよ」
 隼人は半ばあきれながらも、うなずきました。そして、
「ちょっと、待ってて」
と、廃船の方へもどっていきました。
「なんだよ。隼人……」
 一樹がそばに行くと、隼人はポケットからスペアキーを取り出して、
「テンマさんにプレゼント」
と言って、そっと投げ入れました。
 ちゃりん。という音で、テンマさんがこっちを見たので、ふたりはあわてて逃げました。
 
 隼人のこぐ、自転車の後ろに乗った一樹は、風に吹かれながらつぶやきました。
「今度、自転車にのせてやろうか。テンマさんを……」
 隼人は、ふふっと笑って、
「ああ、そうだな」
と、答えました。
                おしまい