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熱戦

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幕:打ち上げ



 試合が終了して2時間後。両チームの主要メンバーは近くの河原で、試合の合同での打ち上げということでバーベキューを行っていた。

 もともとは能信のコーチ陣の一人がアウトドアを趣味にしていたので、打ち上げに河原でバーベキューをしようと言い出したのが発端だった。だが、別のコーチが日我好のコーチと親しかったということもあり、ぜひご一緒しませんか、ということで食材や器具などの分担を取り決めて話がまとまり、今日の試合に出たメンバーでの打ち上げを開催する運びとなったのである。


「おつかれー」
「おつかれ。良いピッチングだったな。最後はお互い、へろへろだったけどな」
「いやあ、負けてちゃどうしようもないや。あ、そうだ。あのけん制、教えてくれよ」

 両チームのエース、中本君と上野君はジュースで乾杯し、お互いの健闘を褒め称えている。


「あのホームラン、すごかったな。うちはホームランあんま出ないからな」
「でもさ、3本ホームランが出たけど全部ソロなのよ。やっぱこういうとこだよなぁ」

 広尾君と登坂君も、キャプテン同士、野菜を洗いながら冷静に試合を分析する。


「流し打ちって格好いいよな、でも、やっぱ難しいの?」
「いや、慣れれば。バントをちゃんと決めるほうが難しいよ」

 流し打ちの名人と自己犠牲の鬼は、網の上の肉を引っくり返しながらお互いの長所を認め合う。


「うん。うまいな」
「……ん? ああ、うまい」

 佐藤兄弟は、お互い腹の底でいろいろな思いを抱えつつ、黙々と肉を食べている。


「7」
「ほい、6」
「じゃあ、5」
「リバース」
「ウノー」
「えー、早いよー?」
「ドロー4、誰か出せっ」

 富山君、山田君、井坂君、赤井君、村山君、糸屋君の6人は、屈託なくウノを楽しんでいる。


「ねぇねぇ。今度さ、映画、見に行かない?」
「えー。でも、練習したいしなあ……」
「じゃあ、映画を見た後、一緒に練習もしよ、ね?」

「…………」

 談笑しながら寺井君に口説かれる畑中さんを見て、本山君は自分の本当の気持ちに気付きつつある。


 彼らを眺めながら、日我好の監督は考えていた。
 今日、勝てたのは偶然がうまく積み重なったにすぎない。ちゃんと練習をしていたとは言え、バントやバスターバントがあんなにうまく決まったのも、中本がどうにか完投できたのも、ラッキーだったからだと言わざるを得ないだろう。ということは、もう一度、能信さんと試合をしたら結果はわからない。今後も、さらなる練習が必要だ。それに、今日の勝利は喜ばしいことだが、チームには大きな問題がのしかかっている。これをちゃんと片付けて、内憂のない状態で試合に臨める体制を整えなければならない。
 彼は近くの木陰に目をやる。そこには携帯ゲームに興じる神楽坂君と星井君がいる。

「あのライトゴロ、とてもいいプレーだったよ」
「うん。セーフティスクイズもすごくよかったね」

 二人は、木に寄りかかって座りながら携帯ゲーム機を握り、楽しそうにゲームと会話を交わしていた。
 彼らがのびのびと野球をできる環境を作らなければ。責任感で身が引き締まる思いを抱きつつ、日我好監督は関係者にあいさつ回りを始めた。


 一方で、能信の監督も今日の試合を振り返っていた。
 今日の敗北はもちろん残念だったが、勝負以上に人として大切なものがあるということを皆に示せた、と個人的には思っている。もちろんそれを知らしめつつ勝つことができればベストだったが、何も練習試合の今日、何が何でも勝つ必要はない。選手の置かれている状況や気持ちを大切にしつつ、これからもきちんと練習を積み重ねていけば、今後の日我好さんとの対戦で勝利することも十分可能だろう。バントや盗塁などへの揺さぶりの練習と、上野の考え込む癖を長所にする試みを考えることが、ひとまず今後の課題だな。
 能信の監督の視線の先には、遅れて到着したお父さんが合流し、久しぶりに家族3人で過ごしている小宮家の姿があった。

「あれから……いろいろ考えたんだけど」
「……ああ」
「やっぱり、女親がいないのはよくないわよね」
「うん……。こっちも至らない点はあった。反省する。だから……」
「うん……」

「お母さん、お父さん……」

 彼を打席に立たせたことでうまく収まるものがあるのなら、今日の敗戦など安いもんだ。能信の監督はそんなふうに思いながら、車から追加の食材を運び出し、みんなの元へと運んでいく。


 熱戦は終わった。しかし、もう次の戦いは始まっている。彼らはこれからどんな努力をし、どんなプレーを魅せてくれるのだろうか。

(了)
作品名:熱戦 作家名:六色塔