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12:新星



 6回裏、泣いても笑っても最後の日我好の攻撃。打順は6番村山君から。

 村山君は、重い責任がのしかかるこの打順に苦い顔をしながら打席に立つ。彼はまたまた活躍しなければという義務感と、あまり目立ちたくないという内気な気持ちで揺れているのだ。

 最終回も能信のマウンドに立つのは上野君。レフトには交代した糸屋君の代わりに、涙をふいて立ち直った小宮君が守りについている。

 上野君は、肉体的には中本君ほど疲労はしていなかった。しかし、彼はこの場面でも当然のように考え込む。点数は6-4、2点差。何かあればすぐひっくり返ってしまう点差だ、油断はできない。最初のこのバッター、果たしてどのように対処すべきか……。

 考えに考え抜いた末、上野君は第1球を投げた。

「カン」
揺れ動いている気持ちのままの村山君が振り抜いたバットは、それほどボールを前には飛ばさなかった。ボテボテのゴロで、ピッチャー上野君の真正面に転がっていく。村山君は、2点差を追う最終回の先頭打者という重要な打席のプレッシャーに完全に押しつぶされてしまった形だ。彼は打席に立つ前以上に苦い顔をして1塁に仕方なく走り出す。上野君は転がってきたボールを確実にグラブに収め、落ち着いてファーストに投げた。これでワンナウト、ランナーはなし。


 次のバッターは佐藤(優)君。得意の俊足でなんとかここは出塁をしていきたい。

 上野君はゆっくりと振りかぶり、丁寧に第1球を投げた。
「ボール!」
低めの難しいところをつきたかったようだが、低すぎてバウンドしてしまう。

 呼吸を大きくはいて、仕切り直してから投げた2球目。
「ストライーク!」
今度はきちんと低めに決まり、カウントは1-1に。

 ストライクが入り気を良くしたのか、すかさず上野君は3球目を投げた。

 その瞬間、思わず目を見張ってしまう。今日、何度も目にしたこの景色。バッターが、バントの構えをしているのだ。

(またか!)
慌てて走り出すが、明らかにスタートが遅れる。バッターの佐藤(優)君はやってきたボールを、落ち着いてコツンと転がしてから一目散に1塁へ走り出した。

 ボールは1塁線を際どく転がっていく。切れるか切れないか微妙なところだ。スタートが遅れたことも手伝って、上野君は切れてファウルになるほうに賭けた。ボールを見守りながら、ラインから外れることを祈る。だが、その球体はラインの内側で完全に動きを止めた。

 最終回、日我好は意表をつくセーフティバントで、ランナーを出すことに成功した。


 次のバッターは佐藤(英)君。和解したい弟を1塁に置き、口を真一文字に結んでバットを構えている。

 上野君は、バントを警戒していなかったミスを悔やみながら、第1球を投げた。と思ったら、バッターはまたもやバントの構えを見せている。

(送るのか?)
上野君は再びホームへ走り出す。今度はスタートもいい。だが(英)君は、バットをすぐさま引っ込めた。直後にボールをキャッチした捕手の登坂君が、ものすごい勢いでボールを2塁へ投げる。

(盗塁……)
上野君が後ろを振り向く。すでにランナー(優)君は、2塁上に存在していた。

 おかしい。何かがから回っている。ここに来て上野君は不安を覚え始めた。だがあと2人。あと2人なんだ。ちゃんと考えればどうにかなるはずだ。上野君は思考を切り替え、マウンドの土を足で奇麗にして気を落ち着かせようとした。

 ワンナウトランナー2塁、ノーボールワンストライクで2球目。上野君はランナーに注意をはらいつつ、残った力を振り絞って投球する。その瞬間、(英)君はまたもやバントの構えを見せる。

(3盗? 送るか?)
上野君は相手の行動を予測しながら、三度ホームへと駆け出す。そんな上野君を確認しながら、(英)君はバットでボールを器用に3塁方向に転がし、走り出した。

「!」
上野君はサードの井坂君のほうを見る。しかし、井坂君のスタートが遅い。2塁ランナーの盗塁の可能性を考慮して、ベース近くにいたからだった。そうなると、転々とするこの球に一番近いのは上野君ということになる。彼は転がるボールを追ってどうにか捕球するとランナーを確認する。
 2塁ランナーはすでに3塁に到達。もう間に合わない。仕方なく1塁にボールを送球した。

「セーフ!」
1塁から意外な声が聞こえた。間に合わなかったのか。上野君は驚いて1塁を見返す。どうやらただの送りバントではなく、自らも生き残りを意識したバントだったらしい。

 ワンナウトランナー1、3塁。1打サヨナラの場面になってしまった。バント、バントと見せかけて盗塁、バント。小技ですっかりかき乱されている。だが、次の9番バッターはそこまで足は速くなかったはずだ。1番に回る前にダブルプレーでケリをつけてしまいたい、そう思った時だった。

作品名:熱戦 作家名:六色塔