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田 ゆう(松本久司)
田 ゆう(松本久司)
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三峡ダム下見帳

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三峡ダム下見帳 中国旅行記(第2報)

2020年中国大洪水
 三峡ダムは毎年満水である175mになるまで試験貯水を行っており、この試験貯水は毎年増水期に入る前に放水が行われて水位が下げられており、2020年6月8日には水位は144mにまで引き下げられた。
 2020年6月には長江流域で豪雨が発生し、洪水が懸念されていた。これに対し、三峡ダムは2020年6月29日に事前放流を行い増水に備えたものの豪雨は継続し、7月19日にはふたたび増水のピークを迎えた。このときは下流の洪水抑制のため放流を制限しダムの水位は上昇したが、ピーク後に放流が行われて水位は下げられた。しかしこの放流によって下流は洞庭湖(湖南省)を中心に警戒水位を超え、避難が行われた。
 さらに7月29日から8月20日までの間に数回の増水ピークを記録。これを受け、三峡ダムの航行が中止された。8月22日には水位がピークとなる167.65メートルに達し、増水期の水位としては過去最高となったが、8月25日には水量減少により、三峡ダムの閘門を再開。運用停止期間はダム完成以来最長の174時間(7.25日)に達した。
 
 2019年には世界中から三峡ダム決壊騒動が噴出したが、上記の記録を見る限りピーク水位は満水位に達しておらず設計上決壊することはない。しかし水位調節のためにダムの放流量を増やし続けたことにより下流域に大きな被害をもたらしたことは事実である。特に市街地の浸水を避けるために農地や村落が犠牲になったことは許されることではない。いずれにしてもぎりぎりのところでダムの決壊を防いだ点は中国の威信をかけた戦いであったと言える。

治水目的は果たせることができたのか
 三峡ダムのもっとも大きな目的は、長江の洪水の抑制である。三峡ダムの巨大な貯水量は、水量調節を容易にして洪水を抑制することが期待されている。この洪水抑制能力は非常に高いものであり、10年に1度のペースで起きていた長江流域の洪水を100年に1度にまで抑制することができるとされている。完成後、2010年には長江で大洪水が発生したものの、三峡ダムは増水を抑制し、下流の洪水を緩和したと三峡集団は表明しているらしい。今回もそのような調子のいいことを言うつもりであろうか。決壊を防ぐために放流に放流を重ねた結果、下流域に多大な被害を与えたことを隠蔽し、下流域の損害を最小限に抑えることができたなどと詭弁を弄するのであろうか。

水運は中国政府の思惑どおりにいくのか
 ダムによって水位がかさ上げされることにより、10,000トン級の船が四川盆地の玄関口である重慶市中心部にまでさかのぼることができるようになるほか、これまで三峡に多く存在していた航行の難所がすべて消失し、航行が容易になることによって航行可能な船舶の数も増加する。長江の輸送可能量が増加することによって物流が円滑になり、中国政府の進める西部大開発の起爆剤となることが期待されていた。27年前、重慶市から宜昌市まで長江遊覧のため、水中翼船(水翼飛船)で川下りをしたが、当時はあまり貨物船を見たことがないように思う。
 閘門の運用開始後、この水域の通過貨物量は激増し、2019年には運用開始前の約8倍に達したと報じられた。一方、中国の経済成長によって三峡の航行量は増大し続け、三峡ダムの通過に遅延が生じるようになった。
 今回の豪雨による水位上昇により閘門は閉鎖され運航ができなくなった。7.25日間足止めされた船舶は上下流で何隻にのぼったであろうか。1台の大型船が閘門を通過するのに、4時間かかるがすべての渋滞を解消するのにさらに多くの日数を要する。水運に重要物資の輸送のすべてを任せるわけにはいかない。水運の成否は閘門の能力にかかっていると言っても現在の技術水準ではこれ以上の改善は難しい。何よりも洪水時におけるダムの安定した貯水量管理に委ねられているといえる。
 ところで閘門と言われても聞いたことはあるが、その構造までは知らない人が多い。どうしたら水位差のあるところを航行することができるのか。三峡ダムの場合、満水位175mから下流の水位60mまで、水位差115mを閘門内で調節して、船舶を上流から下流へ、下流から上流へ移動させるのである。

発電の思惑
 水力発電所は中国の年間消費エネルギーの1割弱の発電能力を有し、電力不足の中国において重要な電力供給源となる。また、火力発電と比べ発電時のCO2発生も抑制することができる。ここで発電された電力は、中国政府の「西電東送」(西で発電して東へ供給する)計画の一環として、上海市などの長江デルタ地帯へと送られる。

水利と観光の課題
 2014年に完成した、漢水の丹江口ダムから北へと延びる南水北調計画の中線ルートに三峡ダムからのルートを接続して、北京や天津といった水不足に悩む華北平原の諸都市へ水を送る計画も存在している。
 名勝である三峡(三つの峡谷)は水位がかなり上昇することで、風景が大きく変化することが懸念されるが完全に水没するわけではなく、渓谷自体は残るため、交通の便の改善に伴い観光客の増加も見込まれている。観光に関してはダム自体が新しい観光名所となりつつあり、経済効果を生んでいるようだ。