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田 ゆう(松本久司)
田 ゆう(松本久司)
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いちじく賛歌

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2)  いちじく栽培は畝に沿って枝を両側に伸ばす一文字仕立が一般的である。一方、在来種である蓬莱柿は樹勢にまかせて上へ伸ばすやり方が取られているが、枝が高くなりすぎると収穫や管理作業に支障をきたす恐れがある。この一文字仕立を私はツウィンテイル(twin tails)と呼んでいる。一時期ハマってしまったボーカロイドの初音ミクのおさげ髪から命名したものである。
さて、転作畑に植えた30本のいちじくの苗木は全く同じ栽培条件のもとで管理したにも拘わらず生育進度にかなりの差が見られる。そこで私はいちじくの苗木自体に生育進度の差が生じる原因があったのではないかと購入先のN屋に文句を言いたいのであるが、N屋はそれには応じないだろうと考えている。あくまでも栽培管理上の問題として私の責任を追求してくることが分かっているからである。消費者は弱い立場にあるという意味ではなく生産者は自社の製品に対してはそれだけの自信を持つことが肝要だということである。

3)  私はいま30人の園児を預かる保育園の園長さんの気分になってきている。本当に不思議な気持ちであるが初めていちじくを植えようと考えたとき、どういう心構えで臨んだのかを何度思い返しても今では見当もつかない展開になってきたように感じる。確かに米作りをやめたあと水田を畑に作り替え転作作物としていちじくを植えることは当初から決めていたが・・。
そのためには造成工事や電牧柵設置にかかる費用も織り込み済みであった。さらに果実ができた場合の販売方法も一応考えてはいたが、一方でそう簡単には問屋が卸さない場合のことも考えざるをえなかった。つまり素人の手にかかっては育つものも育たないという通説が常に頭をかすめていた。
周りの人達から「これからが楽しみですね」と言われるたびにその楽しみを本当に実感できるのか不安でしかなかったが、楽しみは収穫のみにあらず生育の過程にこそ見出すものであるという保育の論理が薄々ながら分かってきたので、これでやっと百姓の仲間入りができるのかなあ・・そんな気分が私をして保育園の園長さんにさせるのではないかと思われる。
そこで30本のいちじくの木を生育正常や生育未成熟などと呼ばずに年長組、年中組、年少組に分けてみんなが無事に卒園するまで見守ることにしたいと思う。この場合の卒園とは実が熟して収穫できるまでの期間を指している。

4) いちじくの栽培管理を通して人間や世界のあり方を考えたいと言ってきたが、いきなり30本のいちじくを30人の園児に喩えるのは行き過ぎかもしれない。無茶は承知でいちじくの生育と園児の生育を同期させながら見ていくことにしたい。
いちじくの成長と園児の成長には、あるいは成長を寿命と置き換えることも出来るが、生物的な時間差が考えられるので人間の1年、365日がいちじくの成長単位にはならない。園児の1年はいちじくの半年ぐらいに相当するものと推定すればいちじくの3歳児の年少さんは1年で卒園となる見込みだ。
私の興味は次のような点にある。いち早く年長さんになったもののその後の発育状況によって年中さんに追い越されることもありうるし、年長さんの中でも収穫量の多少に差が出てくることも当然想定できる。これは栽培管理の濃淡によるものかいちじくの木自体の成長力の差によるものか明確な区分はむずかしいと思われるが、疫病や害虫による被害の発生や侵攻が進まないよう栽培管理に当って手を抜くことは厳禁である。
とはいえ素人が手掛ける初めてのいちじく栽培であるため試行錯誤が続くと思うが無事に実を結ぶかどうかは、一方では植物の生命力に期待するところが大きい。がんばれいちじく、こんなことでへこたれるなと叫びたくなる事態がいつ起こるか分からない現状ではいちじくの日頃の監視をしっかり行う以外にいい方法がないであろう。

5) いちじくのクラス別けを整理すると、両サイドに伸ばした2本の主枝の両端の長さが2以上の年長組は14本、1m〜2mの年中組が5本、1m未満の年少組が11本である。この年少組にはもとの苗木が枯死した2本が含まれるが、当初苗木を畑に植えたとき、50cmの高さで切り返した30本の上部の切り端を近所の人たちへ記念に配布したが、そのうち挿木によって芽が出たものを枯死の2ヶ所に補植した。1本は順調に生育したがもう1本は再び枯れたので再度植え直した結果かろうじて根付いたようである。
この結果から年少組には0歳児から3歳児までの苗木が含まれ、成長の進度により0歳児1本、1歳児1本、2歳児4本、3歳児5本に分けることができる。一方、4歳児の年中組にはカビによるさび病のためだと思われるが、本来は年長組に入るべきだが成長が遅れているものが含まれる。早期の回復を願いながらラリー水和剤を撒布しているところであるが、すこし手当の時期が遅れてしまった感が拭えない。
成長の進度は多かれ少なかれすべての生物に共通に見られるのでそれほど気にすることもないが疫病などにより成長が阻害されることは栽培管理の不備による場合が多いのでできるだけ回避したい。そこでいちじく栽培の先駆者が近辺におられるかどうかをJAめぐみの及び市役所農務課に問い合わせたところ、早速JA営農部から連絡が入り岐阜県農業改良普及員の情報から美濃市でいちじく栽培をやっておられる方がいることが判明した。近々その方をお伺いすることになったが、さてどのような知見が得られるのか今からいろいろ準備をしていちじく畑を見せてもらうつもりである。