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父と子とアギャーの名の下に

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「ぼくはジョセフ。日本人はぼくのことを何て呼ぶの?スペイン人はぼくのことをホセって言うし、ドイツ人はヨーゼフっていうし、フランス人はジョゼフっていうし、イタリア人はジュゼッペっていうでしょ。」
 成田空港の税関職員は少しだけ間をおいて答えた。
「君のお父さんが君をジョセフっていうなら、日本人は君をジョセフって呼ぶよ。ほら、これが君の名前だよ。日本にようこそ。」
 税関の人はメモ用紙にさらっとカタカナで「ジョセフ」と書いて渡した。
「ありがとう。」
 ぼくは日本人が大好きだ。機内食はおいしかった。大好きなコーラも三本くれた。

 生まれ育ったアメリカの基地にはいろんな国の人がいた。母さんは黒人だけど、父さんは白人で、ぼくは白人。父さんはアメリカ海兵隊の大佐だけど会ったことはない。ぼくは息子ではなくてバスタード(隠し子)というらしい。
 母さんはヤク中毒で死んだので、ぼくは13歳で父のいる日本の沖縄に行くことになった。知らない人がサンフランシスコ空港まで送ってくれた。飛行機に乗って、成田空港で飛行機を乗り継いで那覇空港に着いた。飛行機で知り合った親切なおじさんが嘉手納基地のヘッドクウォーター:司令部に連れて行ってくれた。バスの中で寝ている間に着いていた。

 司令部での手続きを一人で済ませた。父は迎えにこなかった。父からの手紙では陸軍獣医部隊というところに行けとある。手書きの地図をもらって基地内を2時間歩いた。
嘉手納基地の中には、かっこいい飛行機がたくさん置いてあり、芝生の上には見たことのないエジプトの遺跡のような大きな石の塊がおいてあった。植物もモンスターのように曲がりくねったものがある。見るものすべてが珍しい。そして暑い。
 アニマルクリニックと書かれている建物が獣医部隊なのだろうか。受付の女性に大きな声で言った。
「ハロー!ぼくはジョセフ・ニューマン。父のニューマン大佐に言われてここに来ました。」
 受付のアジア系の女性は眉をひそめ、何人かの人々と議論を始めた。1時間もたったころ、背の高い金髪の女性が現れた。ぼくはこんなきれいな女の人を見たことがなかった。
「ここの院長です。初めまして。お会いできてよかったです。貴方のお父さんはここにはいません。しばらくロッカールームでおとなしく待っていてね。」と冷たいコーラの缶を渡して足早に去っていった。
 悪魔のような残忍な顔をした犬たちがうなり声をあげる地獄のような通路をぬけて言われたロッカールームを探した。ドアを開けると、狭い部屋にベンチが向かい合わせに置いてあり、八人の少年がひざを突き合わせるように向かい合って座ってぶつぶつと何かを言い合っている。ぼくの座る席はない。
 目つきの鋭い少年が「お前は誰だ?」と言った。
「ぼくはジョセフ。疲れているからもう少し詰めてくれると座れるので嬉しいんだけど。」
「じゃあ、コーラをよこせ!」とコーラを奪われてしまった。そして座らせてくれなかった。
「あの、皆さんここで何してるんですか?」
「バカにしてるのか!みりゃわかるだろ!」と怒鳴られた。
「わかりません。沖縄に来たばかりなので。」
 軽蔑の笑いが起きた。
「勤労奉仕だよ。ちょっとしたことをやらかした少年は裁判所の判決でここに来るんだ。」
「働いていないのに勤労奉仕ですか?」
「犬小屋の掃除の時間が来たら労働するのさ。おれたちゃそれ以外には使えないから、ここで一日のほとんどを待機して過ごすんだ。お前は何しに来たんだ。」
「ここに行けって言われただけでぼくもよくわからないんだ。アメリカから沖縄に今着いたばかりです。誰か沖縄の事を教えてくれませんか?」
「おい、濡れた背中(メキシコ系に対する蔑称)!教えてやれ!」
「俺はカルロス。クズ野郎に命令されたからでなく、ここにもまともな人間がいることを示すために教えてあげよう。日米安保条約に基づいてアメリカはどこにでも日本に基地を造ることができる。その維持費は日本政府が日本人から搾り上げた税金から出す。沖縄の特に大きな基地は、空軍の嘉手納基地、海兵隊の普天間基地。この獣医部隊は陸軍所属だけど空軍の嘉手納基地にある。軍曹以上の妻帯者はバラック(兵舎)ではなくて日本政府が作った庭付きの住宅や高級アパートメントに住むことができる。だから上の人はみんなご機嫌だ。沖縄にはアメリカ人が軍人だけで五万人住んでいる。家族や軍属合わせれば十万人くらいいる。アメリカ人だらけだ。日本人はバカだからほとんどの人たちは英語を喋れない。アリガトウ、コンニチワとかは覚えた方がいい。嘉手納基地の東側のゲートを出るとコザという町があってライブに行ったり酒を飲んだりできる。仲良くしようぜ。」
「仲良くなんかできるかよ。こいつ黒人の臭いがするぜ。くせーくせー。」
黒人の少年が言った。
「これは黒人がよく使う洗剤の臭いだ。別に悪い匂いじゃないだろ!黒人を馬鹿にするやつは許さねえぜ。おい、お前は黒人と一緒に暮らしているのか?」
「うん。ぼくの母さんは死んじゃったけど黒人。」
「ひゅーひゅー。こいつはびっくりだ。もっとましなウソをつきやがれ!」
周りからたくさんの手が伸びてきてぼくの頭を激しく叩き始めた。
「ひーやめてください!」
 その時、ドアが開いた。
「そこまでだ。少年たち。ミスターニューマン、こっちに来なさい。」
巨大な体格の軍人が私を呼び寄せた。
「送ってあげよう。乗れ!」
大きなピックアップトラックに乗せられた。
「私は軍曹のボブだ。よろしくな。この獣医部隊でおもに軍用犬の管理をやっている。ドッグマスターだ。軍用犬は気が荒いから俺の腕は傷だらけだ。この腕を見ろ。すごいだろう。だれにでもできる仕事じゃない。今日から君が暮らすのは、ここから五km南にある、ヒガペットショップだ。あそこのエリザベスはクセがあるけど悪い人じゃない。時々、うちの事務所にも来るだろう。よろしくな。」
車がペットショップの前で停止した。
「さあ荷物を持って降りなさい。グッドラック!!」
 ぼくは車を降りて、店の黄色いドアの前に立った。深呼吸をした。
知らないことだらけの沖縄でぼくはこれからの人生を生きていく。ぼくは自分の意志でこのドアを開けなくてはならない。犬に腕を噛まれるのだろうか?また叩かれるのだろうか?膝ががたがた震え、掌は汗でべっとりだ。明日はぼくの十四歳の誕生日。
 ドアを開けると、太った女の子がこっちを凝視していた。自己紹介をしても反応は無かった。「ここに座ってもいいですか?」と聞くと小さくうなずいたような気がするので椅子に座った。目の前が暗くなった。時差ぼけと極度の疲労で寝てしまったようだ。
 いきなり頭を叩かれて目覚めた。何時間寝たのだろう。
「食べなさい。」と一言。となりの椅子に黙々とピザを食べる白人の中年女性が座っていた。
「コーラは冷蔵庫にあるわよ」とぶっきらぼうに一言。
 無言の女の子もピザを食べていた。
「すみません。寝てしまって。すみません。」
「食べろって言ってるだろ!わからないの!」また怒鳴られた。
 ぼくは次から次へとピザを食べた。三人の夕食はあっという間に終わった。