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【後編】哀レは己レの為メ成レど

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「哀レは己レの為メ成レど」
後編

まなみ:26歳、O L 
カナコ:20歳、法学部に通う女の子。明るくて人当たりが上手。
ユウキ:21歳、医学部。知的な面とユーモラスな面を備えている。モテる。
いさむ:まなみが片想いしていた


<カナコ宅 夜>
洗い物をしている音→蛇口が締められる
タオルで手を拭いている音
床を歩く音(台所から居間へ移動している)

カナコ「洗い物ありがとね」

まなみ「うん(「おん」みたいな感じのニュアンス)」

まなみ「っしょ。(床に座る)  何読んでるの?」

カナコ「こいはな!すっごい面白いよ!」

まなみ「…少女漫画は苦手」

カナコ「えーどうして?面白いのに」

まなみ「どんな苦難があっても、結局は主人公に都合のいい形になってるような気がして」

カナコ「そうかなぁ」

まなみ「私は主人公よりもこういう脇役の女の子に共感しちゃうかな」

カナコ「まなみさん変わってるね」

まなみ「そう? てかずっと同じ服ね、この子」

カナコ「ほんとだ」

まなみ「苦手な理由のもう一つは…(パラパラ)こういうセリフ」

カナコ「『私もう、会えないのかな…』大好きなシーンだよここ!」

まなみ「私は…仲の良い友達だとしても、人前でこんな弱音吐けないなって思っちゃう」

カナコ「どうして?」

まなみ「…どーしてだろ」

カナコ「まなみさん考えすぎだよ」

まなみ「…それに、私にはこのセリフが好きな人と会えるためのフラグが立つセリフにしか見えない」

カナコ「フラグ?」

まなみ「あー…まあいいわ。 てか明日早いんじゃないの?」

カナコ「そうだった! おやすみ!」

まなみ「おやすみ」


<カナコ宅 朝>
カナコ「行ってきまーす!」

まなみ「行ってらっしゃい」

玄関の閉まる音バタン

まなみ「ここまでシナリオ通り」

包丁を取り出し、フライパンをコンロに置く音

まなみ「絶対落としてやる」


<水族館>
二人の足音
徐々にカナコの心臓の音が大きく早くなる

カナコ「(うー…顔が見れない…)」

ユウキ「久しぶりに見たなー、イルカショー」

カナコ「ふぇ!?」

ユウキ「最近忙しくてさ、」

カナコ「す、すいませんそんなタイミングでデートしてもらっちゃって」

ユウキ「そこは全然いいよ笑 あんまどっか出掛けるって思わなかったし。 だから今日はすげー良い気分転換になった」

カナコ「私も…です…」

ユウキ「ありがとね」

カナコ「私の方こそ!ありがとうございます!」

ユウキ「…」

カナコ「先輩!…あの……明日も、会ってくれますか?」

ユウキ「うん、いいよ」

カナコ「ありがとうござます!」

ユウキ「6時半には講義も終わるから、7時くらいからまたカフェで勉強しようよ」

カナコ「はい!お願いします!!!」

ユウキ「なんか帰る流れになってない?笑 ちょっとあそこで座って休もっか」

カナコ「はい、」

ユウキ「…」

カナコ「…」

ユウキ「俺、高校ん時さ」

カナコ「はい」

ユウキ「マジで、ずーっと勉強しててさ。 だから第一志望落ちたやつ見てすげー見下してたんだけどさ」

カナコ「そうだったんですね」

ユウキ「でも最近、こんな忙しい生活するくらいならいっそ…こいつらみたいな、水槽で刺激を受けずにゆっくり過ごしてる方が勝ちなんじゃねぇかって思えてさ」

カナコ「…」

ユウキ「ごめんごめん、何話してんだろ俺」

カナコ「いえ、全然」

ユウキ「最近研究が忙しくってさー、ゼミの教授からもめっちゃプレッシャー食らってて。
どーしたら良いのかちょっとスランプ中」

カナコ「(先輩が悩んでる…何かいいアドバイスを出さないと…!)」

カナコ「その、もっと広い視野で見てみると良いと思いますよ!」

ユウキ「あー…そうだね」

カナコ「…」

ユウキ「…」

カナコ「(…あれ、私なんかまずいこと言っちゃったかな)」

ユウキ「そろそろ行こっか」

カナコ「あ、はい」

足音、遠くへ向かっていく


<公園>

ブランコに座るユウキ
ユウキ「はぁ…」

まなみ「お疲れ」

ユウキ「…どうしたんですか?」

まなみ「今日は外でお酒でも飲もうかな〜と思ってブラついてたら、見覚えのある人がいるなと思ってさ」

ユウキ「ははっ、すごい偶然」

まなみ「ね。  飲む?」

ユウキ「俺、ビールはあんまり」

まなみ「ビールは私の。 ユウキくんには、はいスミノフ」

ユウキ「ありがとうございます」

缶ビール開ける音(カシュッ)

まなみ「(ズビッ) あーうま」

ユウキ「…」

まなみ「…あの子、なんか変なこと言わなかった?」

ユウキ「…あはは」

まなみ「一緒にいるときも、何も考えずに言葉を発しちゃうからさ、
こっちもついついムカつく時あるんだよね笑」

ユウキ「そうなんですね」

まなみ「なんか引っかかること言ったんじゃないかと思ってさ」

ユウキ「…俺が気にしすぎなだけだと思うんですけど」

まなみ「うん」

ユウキ「俺が愚痴こぼしたのもいけないと思うんですけど」

まなみ「別に悪いことじゃないよ」

ユウキ「ありがとうございます。 いま研究のことで悩んでて、ゼミの先生からもプレッシャーかけられてて、その…どうしていいかわかんないって言ったら」

まなみ「うん」

ユウキ「もっと広い視野で見たらどうですか?って言われて」

まなみ「うん」

ユウキ「カナコちゃんはたぶん、必死で考えてくれたんだと思うんですけど。なんかイラッとしちゃって。」
まなみ「うん」

ユウキ「そっから無言で、帰ってきちゃいました」

まなみ「なるほどね」

ユウキ「大人気ねーなーって、今になって反省してます」

まなみ「ユウキくんが反省しなくても良いんじゃない?」

ユウキ「え?」

まなみ「反省すべきなのはカナコでしょ」

ユウキ「そうですかね…」

まなみ「この前もユウキくんとカフェ行った話を延々としてきたし」

ユウキ「カナコちゃんなんでも話すんですね」

まなみ「自分の話はずっとするくせに、こっちの話はほとんど聞かない。 自分が主人公って感じが強いのよね」

ユウキ「そう…ですね」

まなみ「ま、その引き立て役をしてるって感じなのかな、私は。」

ユウキ「…俺はまなみさんのこと、素敵な人だと思ってます」

まなみ「またまた」

ユウキ「だから今日ここで会えて、 すごい嬉しかった」

まなみ「(ズビッ)…酔ってるでしょ」

ユウキ「わかんねぇっす」

まなみ「今度はちゃんと居酒屋行ってお酒飲みましょ。奢るわよ。」

ユウキ「ありがとうございます。…明日の夜、俺空いてます」

まなみ「…じゃあ明日の夜7時に、ここ集合ね。」

ユウキ「はい」

まなみ「今日は一旦帰って、落ち着いた方が良いんじゃない?」

ユウキ「……そう、します・・・・・・。」

まなみ「ご飯まだでしょ?」

ユウキ「あ、はい」

まなみ「よかったらこれ食べて」

ユウキ「なんですか?これ」

まなみ「ハンバーグ」

ユウキ「ありがとうございます…」

まなみ「じゃあね」

ユウキ「…あの」

まなみ「ん?」