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家庭それぞれ

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その3


彼女との付き合いは40年と書きましたが、その間三年前の三年間ほど疎遠になっていたことがありました。彼女が私との縁を切ったからです。
私の夫が生きるか死ぬか、それどころか、もう死にかけの状態のときに私は彼女の言葉でおおいに傷つき、必死で反発したからです。同じ前立腺癌で入院していた彼女の旦那様は手術を終えて退院し夫とすれ違いでした。

彼女は優しい娘ふたりと三人でスクラムを組み、当病院での手術をすることに決めて、体力のあった彼女の旦那様は成功したのです。成功した者と死にかけの者とのすれ違いの瞬間に、私はまざまざと自分の立場の哀れさを感じました。

私の子供は一度見舞いに帰省しましたがすぐ帰って行きました。毎日の通院に連れ添う人の居ない私は病院への行き帰りに涙を流しながら運転していたのを思い出します。
夫は何も食べられず点滴も中止されていたので、私が胃ろうをお願いしました。身内でないと胃ろうはできないと言われ毎日何度も病院へ出向き、胃袋に栄養食を流し込む作業をやりました。そのあと一時間は椅子に座らされて、疲れ切った夫が喚き散らすのを聞くのは堪えられないことでした。その状態で放置されている姿をあとに私は帰宅していました。

作品名:家庭それぞれ 作家名:笹峰霧子