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家庭それぞれ

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その11


彼女の夫は晩年から死ぬ間際まで財布の紐を握っていました。スーパーでの買い物も彼女は夫について行くだけ、安い野菜があると遠い場所から、こっちのほうが5円安いぞーとおらばれたときには顔から火が出そうだったと、そのことも何度も聞いた話です。

彼女は翅をもぎ取られた鳥のように、ただ家の中で夫を立てて暮らす幾十年を過ごしました。それでも私が彼女の家を訪ねたときは活き活きした表情だったので、いつも鬱だ鬱だと言っているのが嘘のような気がしたものです。

夫から何もかも取り上げられて、夫が亡きあと趣味もなく寂しく老後を暮らしているのはすべて夫のせいと言います。そう言いながら独りで居るのは初めてだから寂しくて涙が出ると、電話の向こうで涙声になっています。

趣味を満喫して独りで安定して過ごしている私を見て悔しい気持ちになるようです。
彼女の私に対する優越は、兄弟姉妹が沢山居たから可愛がってもらって成長した、六年間の社会人の生活が生きる源となっているから貴女とは違う、ということらしく、そのことを念仏のように言う彼女は今どのような脳の状態なんだろうと客観的に観察している自分がいます。



 完
  


  





作品名:家庭それぞれ 作家名:笹峰霧子