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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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青と黄色とサラバンドじいさん

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 7月中旬のある日。都内のとある駅前で、1台のストリートピアノが、私の目に留まった。
(これがうわさのストリートピアノか…)
 もし私が中高生だったら、「エリーゼのために」とか「乙女の祈り」をこの場で演奏したかもしれない。駅近くを通る人たちも、誰かが弾くのを待つかのようにそのストリートピアノを眺めたり、チラ見するにとどまっていた。

 そうしていると、青い服を着た恰幅の良い老人が、バイク運転用と思われる手袋を外して胸ポケットにしまうと、ピアノの椅子に腰掛けた。通行人たちは、「えっ?」と言うような顔をして、その老人を不思議そうに見つめた。何と、彼はゲオルク・ヘンデルの「サラバンド」を演奏し始めた。メロディーの感じから判断して、曲の後半だろう。それでもしっかりと曲になっている。その外見からは想像できないほど上手に演奏する彼の姿が珍しいのか、聴衆は次第に増えていった。
「えっ、やば」
「おじいちゃん、すごくね?」
小声ながらも、ギャラリーはその高齢の演奏者を口々に褒めた。スマホで動画を撮る青年や、恋しているような眼差しを送る女性二人組も居た。
 私?私はと言うと、勝手に撮るのは失礼だと考えて、演奏を聴きながら、彼の両手と顔を見つめていた。彼は左手に青色と黄色のシリコン製のリストバンドを着用しており、それぞれに「Pray for U」と書かれていた。また、今日会ったばかりの人のことは何も分からないけれど、二重まぶたと厚めの唇から、この人も昔は美男だったのかも…と想像した。
 それはともかく、彼の演奏はメロディーの強弱が絶妙で、緩やかでありながら荘重、そしてどこかドラマチックな雰囲気を感じる。
(このおじいさん、若いときから「サラバンド」を弾いてたのかしら…)
 そんなことをぼんやり考えていると、クレシェンドと同時にリタルダンドになり、曲は静かに終わった。

 青い服の老人は鍵盤から手を離すと立ち上がり、右、前、左と向きを変えながら3回ほどお辞儀をした。私をはじめ聞いていた人々は、「あなたの演奏を聞けてよかった」という気持ちを込めて大きな拍手を送った。
「いいもの見たわ~」
 私は自分にしか聞こえない声でつぶやき、一人でふふっと笑った。

 ― しかし数分後、和やかな空気はもろくも崩れ去ることになる。