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有双離脱

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。今回もかなり湾曲した発想があるかも知れませんので、よろしくです。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。呼称等は、敢えて昔の呼び方にしているので、それもご了承ください。当時の世相や作者の憤りをあからさまに書いていますが、共感してもらえることだと思い、敢えて書きました。ただし、小説自体はフィクションです。

            加算法と減算法

「相手のことを好きになったわけではないが、なぜか気になる人がいる」
 という話をしてきたのは、クラスメイトの如月達也だった。
 如月は、大学に入学式の日に、最初に話しかけてきたやつで、それが縁になって、ずっと友達でいる。今までにたくさんの友達ができたが、最初に声を掛けてきてくれた如月達夫が一番の親友であることに間違いない。意外と話も合うようで、気が付けばいつも一緒にいた。
 もっとも、最近では一緒にいて楽しいと思っている感覚は、五月雨俊介の方が強いようで、
「気が付けばいつもお前と一緒なんだよな」
 と笑いながらいうのが如月だった。
 高校時代まで友達らしい友達もおらず、大学に入れば積極的にまわりに自分の方から声を掛けるようにしようと思っていた五月雨だったが、最初に声を掛けてきたのが如月だったことで、すっかり自分の最初に決めていた計画が狂ってしまった。
 自分がなりたいと思っていた性格を地で行っているのが如月だった。
「俺もあんな風になれたらいいのに」
 という思いを抱いていて、
「如月と一緒にいれば、俺もあんな風になれるかも知れないな」
 と感じるようになっていた。
 いつも如月を観察していて、何とかマネができないかと思っているのだが、そのマネをうまくできないでいた。
 それはなぜかと考えていると、
「あいつも同じことを考えているんじゃないか?」
 と感じた。
 如月と五月雨は、性格的には似ていない。友達になるのは、似た者同士だということだけではないということを証明しているような二人だった。
 どちらかというと、似ているから友達になったというよりも、
「お互いに似ているところを探り合って、欠点を補い合っているような仲なんじゃないだろうか?」
 と感じた。
 つまりは、似すぎているとお互いに見えてくるはずのところが見えてこないことで、存在が薄くなってしまうのではないかと感じるところにあった。
 お互いに、相手が見ている時に自分が見合うのは嫌だった。見つめ合って、ニッコリと笑うなどということは、二人の間にはないと思っている。苦笑いを浮かべるだけで終わってしまう仲になるのではないかと感じるのだが、それを考えているのは五月雨の方で、如月がどのように考えているのかということは、よく分かっていなかった。
「お互いに、相手を意識していないようで意識しているという素振りは、見る人によっていろいろな意識を与えるようで、二人が仲がいいという人と、本当は仲が悪いという人とが結構半々くらいいるんだよ、これって面白い現象だよね」
 と言っているのは、五月雨の妹の恵子だった。
 恵子は、まだ高校三年生で、女子高に通っている。
 成績は優秀で、大学進学も普通にできると思われていたが、本人は短大でいいという。欲がないというのか、何かやりたいことがあるのか、いまだにそれを打ち明ける人がいなかった。
 ある意味、完全に人を信用するタイプではないのかも知れないと、兄貴の俊介は思っていたが、本当のところは分からない。ただ頭のいいのは間違いないことであり、一つ言えることは、
「人とは一線を画した考え、つまり奇想天外な考え方をする女性だ」
 ということであった。
 それが頭の良さに結び付いてくるのは、きっと恵子の性格がいいからなのかも知れない。
 恵子は、男の子から結構人気があった。まんべんなく人気があるのだが、最近は、少し過激な人がいることに悩みを抱いていた。
「最近、時々下駄箱に変なラブレターが入っていた李、靴に何か細工されていることが多いのよ。そのために、靴を何度か買い替えたりしているんだけどね」
 という。
「どういう風に細工してあるの?」
 と訊かれて。
「どうも、靴を舐めているんじゃないかって思うような、べたべたを感じることがあるの。最初は、そこまでは思わなかったんだけど、急にそれを感じるようになってくると、靴を持った時、また今日もそうなんじゃないかと思うと、余計に指先が敏感になってきて、最近では三日に一度くらい損な感覚になることがあるくらいなの。だから、今は先生に相談して、職員室で靴を預かってもらうようにしているのよ」
 ということだった。
「何、それ。それって本当の変態ってこと? いつも同じ人なのかしらね?」
 と言われて、
「それが分からないのよね。ラブレターに関しては、最初は一人だったんだけど、途中から複数になったみたいなんだけどね」
 と、恵子は言った。
「みたいって、相手が分からないの?」
「ええ、そうなの、署名をしていないのよ。それなのに、書いてあることは完全にラブレターで、あなたのことが好きだとか、自分のものにしたいっていうことを書いているんだけど、自分が誰であるか書いていないからなのか、付き合ってほしいとは書いていないのよ」
 と恵子がいうと、
「それは本当は付き合ってほしいんだけど、名前を出したくないから書いていないのか。それとも、付き合うとかいう発想がないから、名前を出す必要がないのかのどっちなんでしょうね」
 と友達が言った。
「付き合ってほしいという目的もないのに、ラブレターなんか出すかしら?」
 と恵子がいうと、
「だって、本当に付き合ってほしいのなら、そんなラブレターなど書かないでしょう。ラブレターを無記名で出すというのは、そもそも、自己顕示欲が強くて、自己主張が先にあるのが前提なんじゃないかしら? つまり、ラブレターを書いたことで満足する。でも、その満足する機関が短いから、またラブレターを出す。そのうちにラブレターを出すということが自分にとっての自己主張の形になってくれば、その行為に対して快感を感じるようになっているのかも知れないわね。でも、それも一種のラブレターを書く十分な動機だと思うの。気持ち悪いんだけどね」
 と、友達が解説してくれた。
「そういう話を訊くと、先ほどの靴の話にも繋がってくるんだけど、ラブレターを書く人の心理と、靴に悪戯をする人の心理って、似ているということなのかしら?」
「それはあるかも知れないわね。ラブレターなんていうものが、自己顕示欲と、普段は内に籠った鬱積した気持ちを、表に出そうとすると、わざと変質的な行動に出る場合もあると思うの。つまり、好きな人と、嫌いな人の区別がつかないということがあるなんて、恵子には想像がつかないでしょう? でも実際にはあるのよ。それが歪んだ精神になって、行動に出るということね」
作品名:有双離脱 作家名:森本晃次