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催眠副作用

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。今回は少し作家としての偏見が混ざっているところがあるので、お見苦しい点があるかも知れませんが、そこもご了承ください。

            やっと晴れての入学式

 K大学のキャンパスでは、今年もたくさんの入学制がキャンパスを所狭しと賑わせている。入学式を終えて、緊張の面持ちの新入生に、クラブやサークル活動の先輩が声をかけまくっている。
 今まで受験で孤立していた人生がここまで変わってしまうと、
「本当に受験勉強頑張ってきてよかったな」
 と、誰もが感じていることだろう。
 一年生の中には、すでに大学慣れしているかのような人もいて、予備校の時にも、輪の中心にいたいと思っているようなやつを見てきたが、大学の中で見ると、それはまた新鮮であり、同じ人物でも違った人間に見えることだろう。
 なにしろ、今までは、
「予備校生」
 これからは、押しも押されぬ、
「大学生」
 なのである。
 入学式が終わると、いよいよ大学生活が始まる。次の日からは、自分から受ける講義を決めていくことになる。
 高校を卒業し、一浪しながらも、何とかK大学に入学できた高橋つかさは、今までの暗かった予備校生生活を思い出していた。
「何も楽しいこと、なかったな」
 まわりから、カラオケに誘われたりもしたが、一切誘いに乗らなかった。
「たまには息抜きも必要だよ」
 と、男子に言われても、同じ予備校生、その言葉に何の信憑性があるというのか、
「信じられない」
 という気持ちを持って、いつも孤独をまるで正義のように思っていたのだった。
 中学時代までは、天真爛漫で、
「あの子、少し抜けてるんじゃないの?」
 とまで言われていたくらいだったが、高校に入ってからは、まったく性格が変わってしまった。
 友達がほしいとも思わないし、まわりから一人で孤立することも、嫌だとは思わなくなった。それはきっと高校生になってから、友達の目が気になりだしたからだった。
「あの娘、いつもヘラヘラ笑ってて、気持ち悪いわ」
 と言われているのが聞こえてきた。
 一番仲のいい子だったので、まさか自分のことではないと思っていたが、次の瞬間、
「つかさって、本当におめでたいわね」
 と実名が飛び出した。
 もうそれを聞いて、自分以外にありえないと思うと、それまでの自分がまるでまわりから置いて行かれているように思えたのだ。
 つかさの顔から笑顔は消え、今度はそんなつかさを皆不気味に思うようになった。つかさの方も、
「しまった」
 と思ったが、後の祭りで。完全に笑顔を忘れてしまった。
 完全に、、
「歌を忘れたカナリア」
 になってしまったのだ。
 笑顔が消えると、まるで別人だった。鏡を見るのも怖くなり、中学時代は毎日のように見ていた鏡に何が映っているのか、自分以外が映っているように思えて恐ろしかった。もし、映っているのが自分でなかったら、それは魔女ではないかと思えたほどだ。
「魔女のように鼻が高く、目がきつく、口が耳の近くまで裂けていたら、どうしよう……」
 そんな恐ろしい思いから、鏡を覗くことができなくなってしまった。
「鏡に吸い込まれたらどうしよう」
 そんな思いまであったくらいであった。
 とにかくつかさの中では、
「浪人せずに現役で大学に入学したい」
 という思いが強かった。
 進学だけは早くに決めていた。高校を卒業して就職するなどという考えは最初からなくて、進学できるのであれば、どこの大学でもいいと思っていた。それが滑り止めで受けた学校であっても、一つでも引っかかりさえすれば、喜んでその大学にいくつもりだった。
 しかし、現役での受験は、受験した学校すべてに失敗し、結局滑り止めにすら引っかからなかった。これは、かなりのショックであった。
「このまま、進学を諦めようか?」
 とすら思ったほどだったが、さすがに就職に今から切り替えるのは無理なことで、結局予備校に一年通って、来年の受験を目指すことにした。
 最初の数か月は、罪悪感で押しつぶされそうだった。まるで自分だけが大学に入れずに、一人だけ惨めな予備校生活。そんな気持ちに打ちひしがれるような気持ちになり、自分だけが、人生の落後者であり、一番底辺にいるということを自覚するようになっていた。
 今から思えば、鬱病だったのかも知れない。
 自己暗示がかかってしまい、どこか病的になってしまったことを自覚はしているが、すべてを鬱病という言葉で片づけてしまったのは、きっと、
「逃げの気持ちが強かった」
 ということであろう。
 だが、予備校に通っていても、高校現役の頃であっても、人と絡みたくないという思いに変わりはなかった。人と絡んでしまうと、きっと自分が惨めになっていくのが分かったからだ。いくら受験のためとはいえ。人と隔絶して、まわりがすべて敵であり、友達としてなど見ることができないくらいに自分を追い込まないと、またしても、どこの大学にも引っかからないという結果を招いてしまう。
「もう、あんな思いをするのは嫌だ」
 と感じていた。
 どこの大学にも引っかからなかった時、最初はいじけた気持ちになった。いじけた気持ちになった時は、それほど惨めではなかったのだが、意外といじけた気持ちが長続きしなかったことで、次に襲ってきたのが、現実を見つめることだったのだ。
 現実からは逃げることはできない。受験に失敗したという事実をいつかはどこかで真摯に受け止めないと、先に進むことはできないのだ。その時に感じる惨めさは、自分を他人事のように感じないと耐えられないほどの辛さであった。
「鬱病だ」
 と思ったのも、無理もないことで、そもそも、この思いが他人事を演出している証拠だったのかも知れない。
 予備校に入ってから、最初に二か月ほどは本当に他人事のような気持ちだった。予備校に通って勉強しているのが、何のためなのか、目標すら見失っていたほどである。受験というものが自分にとって何なのか、まずそこから分からない。どうして大学に行くというだけで、こんな思いをしなければいけないのか、そして、こんな思いをしてでも、就職の方が嫌だと思っているのか、ずっと頭の中の選択四にはなかったのだ。
 それでも、夏ごろになると、勉強していることに違和感はなくなってきた。単純に慣れてきたというだけのことなのかも知れないが、目標が分からないまま慣れてきただけであれば、自分が惨めな思いを抱いていることも、本当は消えていないのに、慣れてきただけなので、何を目標に生きているかということを考えることすら、なくなってしまっていた。
 ただ、成績はそれなりに悪くはなかった。
「これだったら、今年は大丈夫かも知れないですね」
 と予備校の先生から言われたが。考えてみれば、同じ言葉を高校の時の先生からも言われた気がした。
作品名:催眠副作用 作家名:森本晃次