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ペインギフト

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ペインギフト

作者:ェゼ


【ペインアウト】







   民間事業部推奨動画



『あなたの痛み、前ならえ』

『全体!! 構え!! はい!! 始め!! はい!!』

『軍事開発。ペインアウト』

『輸血にワクチン。ペインアウト』

『兵士の未来。ペインアウト』

『民間事業部。募集中』



「ねえ、起きてよ。ねえ! 京平きょうへい! 痛いのは私よ! 目ー覚ませよ!」

 痛くない。頭がうまく動いてないんだろう。恵理香えりかの声が響く。きっと痛みを感じてたら相当痛いんだろうな。

「ねー! 私の声聴こえてるのわかってんだからね! 私の声! うるさっ!」

 正解だ。よく理解したな。お前の声はうるさい。眠れる獅子も起きることだろう。目を覚ましてやるか。

「あ、京平! 気がついた? 早く起きなよ」

 薄目を開けてみた。なんだ、結構心配してる顔だな。「はぁ、お前、もうちょっと加減しろよ。脳が揺れすぎて意識とんだよ」

「知ってる。私が蹴ったとこ、かなり痛いかも」

 俺の手を引いておこす梅林恵理香うめばやしえりか。この訓練所のシンパサイザー。つまり、俺の痛みを味わいながら格闘訓練を行う同調者。俺を攻撃するってことは、恵理香がどんなダメージがあるか、痛みを感じて身を持って知る事ができる。

 回りを振り返ってみれば、恵理香にノサれる直前とかわらず、迷彩パンツに薄汚れたノースリーブだけ着衣した身軽な着こなしで拳と足で相手を一蹴するを繰り返す。

「シンパ乱取り終了だ!! 間もなく『ペインアウト』は解除される!! そして、新情報だ!! 潜伏先が明らかになった!! 明朝決行!! 各自準備を怠るな!!」

「はい!!」

 テロリスト討伐部隊の最前線。テロリストの組織名、グリーバンス。名称通り『怒っている組織』ということになる。

 グリーバンスのグリーバンス(怒りや不満)は、グリーバンスが行ったテロ行為によって捕まったテロ組織員に対して、トランジスタの強制注入。

 グリーバンスの拷問によって重傷となった者の痛みを、ペインアウトによってテロ組織員に痛みを転送している事に関して、同朋の尊厳を奪ったという理屈。

 勿論、トランジスタを注入する前に、司法取引により、減刑を視野に入れた内容で元テロ組織受刑者は同意はしているが、グリーバンスからみれば、時間を掛けて懐柔させ、同意せざる終えない状態でトランジスタ注入を強要したという重罪が怒りや不満だという。それによって再び発生するテロ行為に拷問負傷者と組織員の逮捕、そしてペインアウト。このいたちごっこを終わらせるには、グリーバンスそのものを壊滅させるために我々はいる。

「しっかし、グリーバンスって頭弱いのかなぁ。だって、奴らの組織って、団結力を保つために、手のひらを切りつけて、その血を仲間と重ねる習慣でしょ? それって、衛星使って地区ごとにペインアウトしたら特定されちゃうわよね」

 恵理香の言う理由はよくわかる。今は特に若い人間には同意がなくてもペインアウトを実行することは可能だ。輸血をした者。ワクチンを摂取した子供。これからの人間には特に了解なく、いや、書類に書いてあっても読まない事を視野に入れて半強制的に注入している。

 針を刺した血中から脳に流れる時間、タイミングを計算して、ナノメートルレベルの赤血球並みの大きさしかないトランジスタ(半導体集積回路)を脳に定着させる。グリーバンスのメンバーは基本的にそれらを拒否、または含まれていない血液を輸血している。テロ原資も、それを利用して、ジャングルの奥地の近代的なものに非接触な部族や村から集め、貴重な血液として密輸することを収入源にしている。それだけに、ペインアウトに引っかからない者は多いが、トランジスタをすでに有している者がグリーバンスに入信している場合も少なくない。その可能性を仮説として、今回潜伏先を特定したわけだ。

「ああ、衛星で勝手に探られる事もカンに障って、組織幹部が集まっていればかなりテロを鎮静できるだろう。お、やっと自分の痛みが戻ってきた。なかなか正確な打撃だな」

「でしょ? 自分で痛みながら有効打確認してんだから」

 そんなじゃれ合いのような恵理香との会話。周りをみれば、それぞれシンパになったペアの者が第二の自分のようにお互いの体調を確かめ合う。

 大抵は汗を流すためにシャワー室へ全員が向かう。その途中、訓練長でもある指揮官が俺に近寄ってきた。

「上村。お前には明日の突入前に、今からジャーナリストとして地域に潜入しておいてほしい。その間、梅林にペインアウトをしてもらう」

「このタイミングで、大丈夫でしょうか。潜伏先ですでに身構えてないですかね」

「それはいつでも同じ事だ! まだ日が暮れるには時間がある! 潜伏先への人の出入り人数や予想人数、見張りの有無を知らせてくれ!」

 シャワーを浴びるのはお預けになった。小綺麗な状態でここまでの長距離を旅してきたと思われるよりは汗臭い方がいい。それも知って訓練長もシャワーを止めたに違いない。きっと通訳と運転手とかは手配済だろう。俺が元々政治系の記者をしていたのも簡単に決める理由だろう。そりゃあ、カメラをもつ佇まいを今初めてカメラを持つ者には荷が重い。断る理由のない俺はすぐにそれらしい格好に着替える。



ーTwo hour laterー 2時間後



 あと1時間程度だろうか。オフロード車に俺を含めた4名は、迷いなく潜伏先へ向かう。通信機とカメラ以外、ろくに装備のない車内では、俺を含めて無言のドライブが続く。

 岩や僅かな樹木が所々まばらに散らばった地平線のロードウェイ。見通しが良すぎる一本道はどのようなジャーナリズムな目的でこの道を選ぶだろう。保護対象の野鳥? 環境破壊の景色? 幸い目的地より先の村では貧困と医療不足で困窮している。もし途中で何者かに止められても、その取材が一番の通行許可になるだろう。せめて車中では、その村の知識を最低限頭に入れておく付け焼き刃。

 そんな学習中に、俺の頬は、痛すぎない程度の痛みが感じる。それはきっと訓練長より事情を聞いた恵理香が、なぜ先に話さなかったと言わんばかりに自分の頬をつねっているんだろう。続いてデコピンの小さな衝撃。数秒経過して、大きなデコピンの衝撃。相当頭にきているだろうが、その嫌がらせは30分程度で終わらせてほしい。

 覚悟はしていた。もしこの先にグリーバンスの潜伏先があるのなら、そいつらが警戒しない方がおかしい。恵理香に痛みの合図はいくつか用意してある。これから何者かに車を止められる時は、目の周りにあるツボを押す。それは眼球の真下にある小さく鋭い痛みがくる承泣しょうきゅうのツボ。これでここまでの距離、時間、警戒地点が梅林に伝わる。伝わった合図に、承泣のすぐ下の四白しはくというツボがジンジンする。これで嫌がらせも終わる事に胸をなで下ろすと共に、新しい緊張に覚悟する。
作品名:ペインギフト 作家名:ェゼ