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ヤブ田玄白
ヤブ田玄白
novelistID. 32390
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女の歯医者さんだった

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 私は主賓として招かれた。
祝辞を述べるのは、会議に比べると楽だ。
終わった後、内容について、誰からも質問されることがないからだ。
重要なことは、褒めたたえることである。
ふだんから、手に負えないと思っていても、その日だけは、この世に二人といない素晴らしい才媛と言い換えるのが普通だ。
言ってはいけないのは、まあ、例えばの話だが、
「ご両親が宇宙人の可能性がある」とか、「家族の中にテロリストが混じっているかもしれない」とかいうことである。

 昔、一度だけ弔辞を述べたことがあるが、これはなかなか気を遣う。内容はともかく、決して笑顔を見せられないところが辛い。
結婚式ではできるだけ笑顔で、明るくやるのがコツだ。

 ただし、祝辞も注意しなければならない事がある。
本当のことでも言ってはいけないこともあるからだ。
例えば、
「今、幸せそうな顔をしているが、実はサラ金に追われている」とか、
「美人だが、本当は、ほとんど全身整形している」ということは黙っていたほうがいい。

 その日、新婦は純白のウェディングドレスがよく似合って大変美しかった。
新郎も新婦に相応しい人間性豊かな好人物だった。
両家の人々もいい人らしかった。
どこもケチをつけるところがない。大変残念だった。

 私は予定どおりの言葉を述べると、ホッとして次々にご馳走を平らげた。
披露宴は順調に進んで、予定の時刻にお開きになり、私は、新郎新婦、ご両親にあいさつして、大変よい気分で結婚式場を後にした。