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星に願いを:長門 甲斐編

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甲斐



「此奴(こいつ)、俺と「兄弟」だって言うんだけど本当?」

弟に「父親」の記憶はない

当然だ
弟が生まれる前に「父親」は死んだ

死んだが弟は「父親」が禄でなしだと知っている

何処も彼処(かしこ)も生まれた時から変わらない、見慣れた景色
何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も生まれた時から変わらない、見慣れた顔

幸か
不幸か

面白おかしく、「父親」の禄でなし談(ブルース)を語る御近所さんには事欠かない

勤務先の給油所(ガソリンスタンド)
忌忌(いまいま)しい程、群青の下

自車である、軽 貨物自動車(トラック)を洗車する中
原(動機)付 自転車(バイク)で乗付ける弟が、もう一人の「弟」を連れて来た

大柄な弟の半帽(ハーフヘルメット)は
小柄な、もう一人の「弟」には寸法(サイズ)が合わず手で押さえている

愈愈、半帽(ハーフヘルメット)を脱ぐ

「?え?」

水を垂れ流す蛇管(ホース)片手に突っ立つ自分を余所に
休憩所で転寝(うたたね)する経営者(オーナー)の爺様に挨拶 旁(かたがた)
煙草を御馳走になる弟を横目に目の前の、もう一人の「弟」をまじまじと見詰める

其れでも目の端で捉える、弟の喫煙行動に
勧めた相手が爺様でなければ蛇管(ホース)の水を打(ぶ)っ掛けたのに、と歯を噛む

亡き「母親」共共、世話になっている以上、文句は言えない

「母親」は彼(あ)の日以降
「愛人」と、もう一人の「弟」の話題を一切、禁止した

うっかり口を滑らせようものなら烈火の如(ごと)く怒り出す
「母親」に不満がない訳ではない

理不尽だが
理不尽だが今更ながら分かる

自分とは弟とはかけ離れた
もう一人の「弟」の、其の姿に今更ながら分かる

二層に分かれた、液体

何処迄も澄(す)んだ上の層
何処迄も濁(にご)んだ下の層

共に「魚類」だろうが実用と観賞用は違う

何(ど)れ程、恋しくても
何(ど)で程、恋しがられても「此処」には戻って来させない

其(そ)れ程、「母親」は
「愛人」と、もう一人の「弟」の幸せを願っていた

「母親」の想い等、露知らず
枕を濡らす自分も少なからず願っていたのに

「甲斐(かい)?」
「甲斐(かい)、君?」

半帽(ハーフヘルメット)を胸に抱え、笑って頷く
目の前の少年は紛れもない弟の、「半身」

如何見ても目の遣(や)り場に困っている様子だ

此の時期の洗車は気持ちが良い
ずぶ濡れるのもお構いなし、蛇管(ホース)の水を撒(ま)き散らした結果
透け透けに透けた上着(シャツ)の下、下着が丸見え

と思っていたのか
生憎、此の時期は「水着」を着用している

其れでも、もう一人の「弟」には下着も「水着」も変わらないのか

余(あま)りにも初(うぶ)な反応に此方の方が申し訳なくなり
傍(そば)の脚立に掛けていた、手拭(タオル)に手を伸ばし羽織(はお)る