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HERRSOMMER夏目
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novelistID. 69501
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恩寵と秘蹟の物語:マルス:文芸学夜話:ホフマンと幻想怪奇小説

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*
       
  【内容・一覧】: PV.853-

1. 恩寵と秘蹟の物語:
2. 老人と語彙: 断章: ビクセル 
             Bichsel より
+
* Sehr lecker! :美味しいわ ! 
+ Episode in Komagane;
* 創作 ;School days :Universität Zeit.
 
+ 断章:Prof.イモヌス先生文芸学・夜話 
 ) * )    
3. 乙女は 彼に首ったけ!:シャミッソー
           Schamisso  より 
4. うま鳥啼く音の こひしき節よ: 
          Hölty:ヘルティ より
5, エラリ・クイーン :Ellery Queen.

6.Es ist eigentlich eine gemütliche Zeit ! 
  桑子道之助氏の優雅な交遊・抄 より

* ) ) * ) 
*- (( ( ヴィーナス・マルス・メルクーア

この閨秀詩人には、恩寵と救済をテーマにした長編小説がある。
その他に短篇も何編か書いていて「悪魔の三幅対聖画像」というものがある。
ヴィーナス、マルス、メルクーアといった三編からなる作品だが、軍神を意味する「マルス」では、占領してきて宿を提供すると、兵士らが飲んだくれてはどんちゃん騒ぎをするやら、小さな駒を用いたゲームに熱中して騒動を起こすやらして、迷惑千万な一夜を過ごすというものだが、作家でもあるこの詩人の文章は緊密で、やはり 優れた作品だと道之助は思うのである。

   そんな彼女の作品には「トルソ」と題されて掌編がいくつも収められているが、その奥に隠され秘められた内奥は、どれもこれもナチスヒットラー時代における負の遺産、とはつまり、人間のこころの奥深くに刻まれた悲しみに満ちた事実が垣間見えてくる。
  そんな中には、羊の群れが家の近くにまでやってきて草を食む光景から、ようやく平和や穏やかさが戻ってきたことの証として、ドクトルに呼びかけ、モノローグ風に吐露する作品もあり、
   また他の作品には 戦争から戻ってきても「悪いのはわたしのせいだ、わたしに罪がある」Ich bin schuld darüber!と言ってきかない精神に異常をきたしている「囚われの男」や、
サナトリウム兼、老人施設に入れられ戦中時代に夫や娘や息子の死を回想し、懐かし気に話してやまない老婦人を描いた「一縷の望み」(或る精神異常な女)Glück haben などがあり、
文芸評論家のグレンツマンによって、その奥に隠された真実が読み取れて意義ある作品だと気づかされる。

* - )) )  老人と語彙: ビクセル より

きみ、ビクセルというドイツの現代作家を知っているかい。
短編というよりは日常の何気ない様子を捉えたショートストーリーが得意な作家なのだが、と道之助は徳丸くんに訊いたことがある。
いや、知らんな、現代作家は、皆目。
彼の作品には変わった老人を書いたものが何篇かあるのだが、それを訳しながら 少しアレンジしてバリエーションを加えて書いてみたのだがね、
 まともには 誰も食いついてこないと思ったものだから、どう、ちょっと、読んでみてくれないか、と道之助は徳丸くんに コピーしたものを渡した。:
*
 アルトゥール・ヴェーべリンクの様子が近頃、おかしいという噂が、俄かに起こった。
  2年前に夫人が出ていったときは、変わったところは みられなかったのだ。 が、近頃は人づき合いも、とんとなく、ひとり閉じこもってしまったというのである。
 ヴェーべリンクは歳も70歳近くになって、それなり老いてきてはいる。が、書物はよく読み、小説なども時折り、書くこともある。
だが、眼が疲れると、零していたものである。
 それが今となっては聴いてくれる相手もいない。だが、それほど侘しいとは思っていないのだ。
  ヴェーべリンクは変わった。
彼は小さな町だが買い物には困らない便利な場所に住んでいる。
 常日頃、出かけるのにはグレーのハットを被り、クラヴァッテは水玉模様の入った濃いグリーン系統のものを締め、冬になると、長い黒のマントを着ていた。髪の毛には白髪が増えてきている。
 が、歳は一回りも若いと思っているのである。

  二階に 彼の棲む部屋があった。
結婚したころはイケメンで、好んでケン・フォレットなどの外国の推理小説などを読み、原書で愉しんでいたものである。
  遙か昔になるが、学生時代には都会に棲んでいたこともある。
 朝方には、一時間近くの散歩を欠かさず、午後にもまた、気が向けば散歩に出ていた。そして夕方になると、ロッキングチェアーに腰をおろしては一杯の濃い珈琲を啜るのである。
 この習慣は殆ど、変わることなく、日曜日でも同じであった。
 そしてロッキングチェアーに座っては珈琲をすすり、グルックだの、バッハだの、ヴィヴァルディといったクラシックを好んで聴いていたのだ。

     * - ( ((
  何かこれを読まされていると、きみの好みや性格が垣間見えてくるようだな、と徳丸くんは にやにやして 云う。
そんな風に読んでいると、また、きみの改稿したものも面白く読める、と彼は斜に構え 面白いことを云う。
    なるほど、そんな読み方もあるなと 道之助は彼の分析好きな性格を感じて、いいものだな、知り合いに読んでもらうのも、と素直に喜んだ。

     * - ((
 ヴェーべリンクには一度、こんなことがあった。
何の変哲もない日々を細やかに繰り返し過ごしていたのだが、それは陽の光の眩しい日で、それほど暑くもなく 寒くもなく、近くからは子供たちの遊んでいる元気な声が聞こえてくる。
その日は不思議なほど、すべてが気に入っていた。 が、突如、高笑いをすると呟いていたのだ。
さあ、今日からが始まりじゃ。すべてが今日から変わるのぢゃから。 
   
     *- ( ((
ところで、きみはフランス語にも通じているようだが、例えば、「リ」litといえばベッドのことだし、「タブル」tableは スペルからも一目瞭然のテーブルだし、「タブロ」tableauといえば、と云うと、すかさず、それは 絵のことだろうと徳丸くんは反応した。
 それでは「シェーズ」chaiseはどうかね、と云うと、うん、分かる、椅子のことさ、だが、なんで唐突にそんなことをいうのかい、と彼は訊く。
  この掌編でだね、老人は独自の語彙に置き換えていくのだよ、まるで、外国語を用いるみたいに。
   例えば、こんな文はどうだろう。老人以外、誰にもerklärungなしでは分かるはずもない。それが老人の小さな異世界構築の目論見なのだから。: