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酔生夢死の趣意

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1.愛し愛されて



 ……うぃー、ひっく。んー。なんだぁ、おまえ? 俺になんか聞きてえことでもでもあんのか?

 んー? ぜひ、インタビューをさせてくれ? うーん。こんなどうしようもねぇ俺のような宿無しでいいんなら、話ぐらいしてやってもいいけどよぉ。でも、面白くなくても後悔すんなよ。

 げふーっ。で、インタビューだっけか。いってぇ俺に何を聞きてぇんだ。あ、なんで酒を飲んでいるのかだって? んなもん決まってるだろう。もう飲むより他に方法がねぇからだよ。酒を飲むってぇのは、俺に残された最後の手段なんだ。もう大抵のことはやっちまったからなあ。でも、これだけ毎日のようにがぶがぶ飲み下しても、俺の気持ちはどんどん切なくなっていくばかりだ。つくづく、人生ってのは薄情なもんじゃねえか、なあ。

 その大抵のことってのを具体的に? んー。具体的にねぇ。

 そうだな。まずは、見たなぁ。……え、何をって、もちろん酒をだよ。ひたすら、穴のあくほど見続けた。これでもかというくらい凝視したよ。見ていた年月は、都合で6年間だ。見つめていれば、見続けてさえいれば、何かが変わるってあの頃は本気で信じていたからなぁ。でも、結局、何にも変わりゃしねぇまま、6年という月日が過ぎ去っちまいやがった。

 見つめるだけじゃ駄目だと思った俺は、言葉として口に出す必要があると考えた。すなわち、酒に向かって話しかけたんだ。ああ、ひたすら酒に語りかけたさ。世間話や甘い言葉、嬉しいこと、悲しいこと、悩みから悪口に至るまで、どんなことも包み隠さず酒の前にさらけ出したのさ。これもやっぱり6年ぐらい時間をかけたな。何? モーツァルトを聞かせると、うまくなる、みたいな感じの理論? そんな上等なもんじゃねぇよ。話しかければ、声をかけ続けてさえいれば、いつか、絶対に夢はかなうって信念を持ってたんだ。でも、悲しいかな、やっぱり何もねぇまま6年がたっちまった。

 語りかけることをやめた俺は、浴びたね、酒を。浴びるように飲んだんじゃねぇ。文字通り浴びたんだ。もう頭からざぶりとかぶって髪を洗い、同じく酒で体を隅々まで洗って、風呂にためた酒につかった。こうすりゃ、目論見が成功するんじゃねぇかなって、それだけが当時の心の支えだったのさ。そんな生活をやっぱりこれまで通り6年続けたが、ひどく酒臭くなるばっかりでちっとも体はきれいになりゃしねぇし、酒くせぇからか、すっかり人も寄って来なくなっちまったよ。

 酒を浴びても思うようにいかねぇ俺は、今度は抱いてやることにした。さすがに液体を抱くのは至難の業だから、酒の入った一升瓶を抱くことにしたんだ、来る日も来る日もな。おまえさん、酒を抱くのが殊の外つらい季節を知ってるかい? え、知らない? じゃあ、覚えときな。春と秋はどうとでもなるんだ。きついのは夏と冬だよ。
 夏といやぁ、うだるような暑さの上にのどがからからだろう。ついつい目の前にある酒をちょっと、失敬したくなっちまうんだよ。あの誘惑にはなかなか勝てるもんじゃねぇ。だが、冬はもっと厳しい。なんせ凍死の危険がつきまとう。自分が抱いている一升瓶の中身を飲めば、体はポカポカとあったかくなるが、抱くと決めた以上、そんなことはできねぇ。まさに地獄の様相だ。でも、そんな生活もやっぱり6年間続けたけど、意味がなかったなぁ。

 ここまで来たら最後の手段だ。もう飲むしかねぇ。そういうわけで、かれこれ6年ほど酒をがぶ飲みして暮らしてやがるんだ。だから、酒とはもう都合30年の付き合いさ。でも、悲しいことに俺は、大抵のことをやり尽くしちまって、他にもう思いつかねぇ。もう酒を飲むことしか残されていないんだよ。

 ん? 他に思いつかねぇというのはどういうことか? それに、そんなわけの分からないことをせずに、素直に飲んで酔っ払えばいいじゃないか、だって?

 おまえ、分かってねぇなぁ。いいか。俺は、酒を一方的に飲むだけの関係にはなりたくないんだよ。それだと、俺が酒を一方的に愛してるって、それだけのことになっちまうだろう? 俺はそういう片方だけしか得をしない関係は嫌なんだ。そうじゃなくて、酒のほうも俺を愛してほしいんだよ。俺と酒、お互いに意思疎通して語り合ったり、愛し合いたいんだ。だから、俺は酒に愛されたくていろいろなことをやったし、今もこうやって最後の手段としてグビリとやっているのさ。そこんところをよく理解してくれないと。
 なあ、おまえさん。おまえさんはもしかして、酒が人を愛してくれる方法を知ってやいないか。酒が口づけしてきたり、抱きしめてくれたり、めくるめく熱い一夜をプレゼントしてきたり、そうでなくともちょっとした反応を示してくれるような方法、もしも知っているようだったら、ちょっと教えてくれねぇか?

 なに、インタビューありがとうございました? おい、おまえ。やけに帰るほうは足早じゃねぇか。さてはてめぇも、俺のことをきちげぇだと思ってからかいに来やがったんだな。このやろうっ。てめぇ、今度、来やがったら覚えてやがれっ。……ひっく。


作品名:酔生夢死の趣意 作家名:六色塔