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端数報告5

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誰かさんの悲劇


 
「わたし、おじいさまを殺してしまった!」
 
と言うのは薬師丸ひろ子主演の『Wの悲劇』。おれが高校生だったグリ森事件の頃の映画のセリフである。と言っても、見てないけどね。『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』に『ターミネーター』、『ランボー2』に『マッドマックス サンダードーム』『ロッキーIV』『コブラ』『スター・トレックIV』。そしてもちろん『エイリアン2』に『トップガン』。などなどといった映画は見たが、日本の映画なんかおれは見ない。いやもちろん『天空の城 ラピュタ』は別だが、あれくらいなもんで、おれの学校にウヨウヨといたトサカ頭どもと違って『ビーバップハイスクール』も見なかったしテレビ放映とかでも見てない。中山美穂は別に好きなアイドルでなく、W(ダブル)ラジカセで聴いていたのは荻野目洋子――なんて話はどうでもいい。
 
まずは前回のおさらいと補足だ。『罪の声』の映画版で小栗旬演じる主人公の阿久津は、
 
   *
 
「ギン萬事件で使われた声は3つ」
 
画像:罪の声CM小栗旬ギン萬事件で使われた声は3つ アフェリエイト:罪の声映画版
 
と言うが間違っている。実際のグリ森事件では、
【現在公開されている声は3つ】
だ。声は他にいくつもあり、公開されたが今では聴けなくなっているのや、存在と内容は明かされてるが音声は非公開のもの、江崎勝久氏の声を録音したものに、〈彼ら〉はテープを使ったらしいが受け手が録音してないために残せていないものもあって総数も定かでない。
 
ことによると警察や脅迫された企業が存在を明かしていないものもあるかもしれないのだが、とにかく、【使われた子供】もだから3人ではない。他にふたりが確認できるが、中でも特に重視すべき、
【最初の男の子】
について『罪の声』は映画も原作小説もなかったことにしてしまっている。
 
エンデンブシという作家が本をちゃんと読んでいなくてわかっとらんのかもしれないが、NHK『未解決事件』の本にそれは、
 
画像:捜査員300人の証言321-322ページ他の声
アフェリエイト:捜査員300人の証言
 
こう書かれている。このうちマル5の、
《昭和五十九年七月六日、丸大食品役員への電話
「茨木市上穂積のバス停看板の横の電話ボックスの物置台の裏」
(男児の声)》
というのがそれで、
《中には言語障害とみられる子どもの声があったと証言する捜査員もいた。》
ともあるがこれがその【言語障害とみられる子どもの声】だ。見てわかるようにこれは存在と内容は明かされているが公開されず科学的な分析はされず、テープがいま残っているかも不明であるらしいのだが、聴いた人間の話によれば異様な唸り声のようなものだったという。
 
だから【言語障害とみられる】とされているのだが、『罪の声』には映画も原作小説もこの声のことは出てこない。現在公開されている3つを【最初からそれで全部】として話が作られ、使われた子供もだから【3人】となっている。
 
うちひとりが映画で星野源が演じた曾根俊也というキャラクターだ。原作はそのプロローグで、ホープ=ハウス食品の脅迫で使われた声を聴き、
《これは、自分の声だ。》
と思う。しかし実際のグリ森事件で、その声について〈彼ら〉は手紙に、
 
画像:ハウスが 小学2年の 女のこや
画像:闇に消えた怪人表紙
 
と書いている。小学2年の女の子。ここであなたに、
「えーっ!?」
と思ってほしいわけだが、おれも「そんな」と思いながらに聴き直すとなるほど女の子のように感じなくもないのである。「女の子だ」と言われて聴いて初めて、
「うーん言われてみればそう聞こえないこともない」
という程度のものなのだが、文の読み方がちょっと女の子っぽい。【公開された3つのうち男児ふたりの声】とされるもののうち、森永の脅迫で使われた声は明らかに男の子だが、ハウスの方はそうでもないのだ。
 
画像:公開された3つのうち男児ふたりの声
〈使われた〉でなく〈公開された〉  これは明らかに男の子  これは女の子のようにも聞こえる
 
そしてちなみにマル4の、
《昭和五十九年六月二十八日、丸大食品役員宅への電話
「高槻の西部デパートの三井銀行の南の、市バスおりばの観光案内板の裏」
(女性の声)》
というのはこのように、
 
画像:高槻のデパートの
警察が公開していた3つとは別に2011年にNHKがおおやけにした声
 
NHK『未解決事件』の番組の中で流された。だからこれを含めると現在聴けるグリ森事件で使われた声は4つということになり、エンデンブシは番組のDVDを持ってるはずだがちゃんと見てるんだかどうか。そして本には《女性の声》とあるけれど、おれが聴くに小学校高学年か中学くらいの男の子のような気もする。番組の録画かDVDなどお持ちの方は自分の耳で聴いて考えてみてください。
 
――が、ともかくまずは『罪の声』の声だ。曾根俊也が《これは、自分の声だ。》と思うホープ=ハウスで使われた声。〈彼ら〉はこれを《女のこや》と書いたが当時のマスコミに、嘘と決めつける報道をされた。この、
 
画像:音響研究所鈴木松美
 
鈴木という学者が森永の声とハウスの声のふたつを、
「同じ子の声」
と鑑定し、専門家の分析に間違いあるわけないのだからやつらは嘘をついている、ということにされたのだ。
 
しかしふたつはおれが聴いてもまるきり別の子に聞こえるし、ハウスの方などなるほど聴けば女の子のような気もするほどであり、当時に世間で、
「あれは本当のことを書いてんじゃないのか」
と言う声も結構あったようなのだが、忘れられていたところにまたその鈴木という学者が2011年になって今度は、
「ふたつは別人だ」
という鑑定をしたために、
 
   *
 
ナレーション「これまで、ひとりだと見られていたテープの声の男の子。今回初めて、ふたりいたと鑑定された」
 
画像:今回初めてふたりいたと鑑定された
 
NHKバンザーイ、ということにされてしまった。【別人と見ていた者もいた。当時の鑑定は疑われていた】という話は日本放送協会の手でなかったことにされたのである。
 
しかしおれが聴くところ、ハウスの、
「きょーとえ」
なんてあたり、やっぱりかなり女の子っぽい。聴けば聴くほど女の子らしく思えてくるほどだ。そしてどうやらこれらの声、子供の声をそのまま使っているわけではないらしい。
 
〈彼ら〉は音を編集し加工して使っているという。『罪の声』のプロローグを見ると、
 
画像:罪の声プロローグふたつの声
アフェリエイト:罪の声
 
こうあり、
《ばーすーてーい、じょーなんぐーの、べんちの》
というフレーズが繰り返されているのがわかると思うが、これは、
「京都へ向かって一号線を2キロ、バス停城南宮のベンチの腰掛の裏」
というのを何度も繰り返すテープを公衆電話の受話器に流したものをホープすなわちハウスの会社で受けて録音したのだ。ただこれだけの短い文を子供に一度だけ読ませたものを同じテープに連続で何度もダビングしているために、「バス停」が「ばーすーてーい」と同じ調子で繰り返される。
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之