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レッド・ノーベンバー・ヘリングを追うな!


 
画像:四方修の画6枚
 
おれはこないだ、上の四方修の画のうち、
「キツネ目を追っかけて行ってそっちが手薄になって」
うんぬんかんぬんとこいつが言っているのは正しい。このおっさんがNHKの取材に応えて言ったこととのちの反論はどれもがみんなどうしようもないけれど、ただこの一点、
【大津サービスエリアの〈F〉】
についてだけは四方が正しくNHKが間違っているとおれは思うと書いた。けれどもそれを話すのは別の機会に譲ると書いた。
 
長い話になるからね。今回がその機会である。長い話に付き合ってもらうことになるけどよろしいでしょうか。
 
大津サービスエリアの〈F〉。『罪の声』の映画版はそれを、
 
   *
 
水島「あのとき、電話ボックスにキツネ目の男がおって、観光案内版を監視しとった。それに気ーついた捜査員が職務質問しようとしたんやけどなあ、犯人の一網打尽が目標やった上層部が許可せんかった」
阿久津「結果逃げられた」
水島「そないなワヤな話ばっかりや。大阪府警は京都府警とも滋賀県警とも縄張り争いで揉めとった」
阿久津「大津は滋賀県警の管轄ですよね」
水島「そやのにその日、大阪府警は滋賀県警に『名神高速とインター付近には近づくな』って不介入を指示しとったんや」
 
画像:大津サービスエリアのF
 
小栗旬によるナレーション「犯人の次の指示は、『名古屋方面へ向かえ。高速道路の左側の柵に白い布がある。その下の空き缶を見ろ』。犯人は、高速道路からの現金投下を狙っていると思われた。だが、いくら探しても空き缶は見つからず、指示はそこで途絶えた。ちょうどその頃、真下の県道で、巡回中の滋賀県警のパトカーが不審なライトバンを発見した。現金の受け渡しを知らされていなかった警官隊は、犯人グループだと気づかないまま、逃げられてしまう」
 
画像:白い布の地点

水島「府警と県警がガッチリ手ぇ組んどったら犯人逮捕できたかもしれへんのや!」
 
画像:松重豊演じる水島 アフェリエイト:罪の声映画版

と、こう描く。ひとつ間違いがあって、滋賀県警が下の道でクルマに近づき逃げられたのは【ちょうどその頃】でなく【その30分ほど前】だ。現金を運ぶクルマが着いたときにはその場からライトバンは去ってたわけで、これは結構重要だが、しかしとりあえず置くとして、今回は何よりもまず〈F〉である。
 
この〈名神ハイウェイ〉の件で、〈F〉――〈キツネ目の男〉はなぜ大津サービスエリアにいたのか。その琵琶湖を臨む場所でどんな役割を持っていて、そこで何をしていたのか。
 
画像:高速道路の図 NHK未解決事件番組タイトル
 
映画はそれを探ろうとはしていないし原作小説もまたそうである。前にスキャンして見せたページをまたもう少し長く見せると、
 
画像:罪の声324-325ページ生島と青木が……
アフェリエイト:罪の声
 
こう(緑で囲ったのが前に見せた部分)で、主人公の阿久津が見つけた〈主犯〉の男、曽根達夫も〈Bグループの人間〉であり、Aグループの者達が何をしてたか詳しく知らないことになってる。
 
だから〈キツネ目〉についてもわからん、で済まされてしまっている。この本をお金を出して買った方、いますか。ならば訊きたいが、あなた、これに納得してるわけですか。
 
ふうん、ならいいけどさ。しかし〈F〉もそうだけど、上のページの赤で囲って見せたように、生島というキャラクターもこの小説の論調では曽根と同じくAグループの者達より〈プロ〉なのに、
《大柄で目立ち過ぎるという理由で》
という、それ理由になってんのかよ。だったらなんで誘拐に赤い2ドアのクルマなんか……と言いたくなる理由で現場から遠ざけられたことになっている。寝屋川、いや、〈淀川アベック襲撃〉でも同じ理由で加わってないわけなのだろう。
 
実際の〈F〉も再三書いてきたように【180センチに近い長身】だ。対してグリコの脅迫で二度、現場に出てきた三人の男達は160から170センチ。よって生島と同じく〈F〉もこのひとりとすることはできない。
 
そして当然、同じ理由で青で囲った、
《ベンチなんかに指示書を貼ったり、青酸菓子をばら撒いたり》
というのもやってないことになってるわけだろう、この話では。すべて曖昧にぼかして書いちゃいるけどさ。
 
だがそうなると、〈F〉はどうして必要とされて一味に加えられたのか、ほんとのほんとにわからないということになる。又市=丸大の脅迫で初めて出るけどなんで出たのかわからないということになる。反省会で前に見せたように、
 
画像:鍋を突っつくキツネ目
 
ひとりで黙ってメシ食ってるが、真の親玉であるAグループの青木にここで、
 
 
   「こいつ要らねえ」
 
 
ってんでズドンと撃ち殺されて埋められでもしてよさそうに見える。映画も原作小説も、
 
   *
 
曽根「イヤな予感はしてたんです。生島は血気盛んな男で、青木は人の命などなんとも思うてない」
 
アフェリエイト:罪の声映画版
 
という具合で、話の中で青木は仲間の生島を殺す。【後で邪魔になった】という理由で。
 
〈生島〉はこの話では、【どっかの社長を誘拐する】という計画を最初に思いついた人間で、そのため曽根と青木を選んで話を持ちかけ、AグループとBグループそれぞれのアタマとした人物とされる。けれども青木に【邪魔になったから】というので殺されてしまう。
 
ひどい話だがそれよりも、〈キツネ目〉の方は邪魔じゃないのか。こいつはなんで必要とされて一味に加えられたのか、その説明がなんにもない。【謎のまま】と言うにしてもいくらなんでも謎のまま過ぎる。再三書いてきたようにエンデンブシはまともな推論も立てられないから【謎のまま】としてるとわかるが、ミステリとして作られる話がこれでいいのかというもんじゃないのか。
 
「グリ森事件の真相はこれだ!」という小説が〈キツネ目〉について【謎のまま】。片手落ちもいいところというもんじゃないのか。ねえ。
 
そう思いませんか皆さん。『罪の声』原作小説の〈キツネ目〉は、ギンガ=グリコの脅迫では何もしてない。それで最初は【ひとり2億】ということになっていた分け前に預かることになっていたのか。
 
映画版の反省会でひとりで鍋を食ってるこいつに、
「お前、要らないよな」
と言う者が誰もいない。この映画をカネ出して見た人、本を買って読んだ人、これで納得してるんですか。
 
映画で小栗旬演じる阿久津は、宇崎竜童演じる曽根を見つけて、
 
阿久津「メンバーはこの人達ですか」
曽根「はい。他にタニという男がいました。電話会社に勤めていて、無線にも逆探知にも詳しい」
 
画像:一味のメンバー
 
と言うのだが、他のメンバーはともかくとして、この通り〈ハヤシ〉はただ《キツネ目の男》と書いてあるだけで、一味の中でどんな役を持つ者なのか説明がない。小栗演じる阿久津は訊かぬし映画の中で一度たりとも、
 
「こいつ、一体なんなんだろう」
 
とかいうことを言う者もない。完全に、
【それは言わない約束】
で話が作られてるのがわかる。
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之