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自分の会社の株は下げても自分の株を上げたい人


 
【グリ森事件は株価操作のための犯行】
なんていう説があるけどおれに言わせりゃまったくバカげた話である。グリコはともかく、丸大では株は動いてなどいないし、次の森永の脅迫でも犯人達は最初マスコミを使わずにカネを出させようとしていた。ところがこれを毎日新聞の、
 
画像:吉山利嗣閉塞感を産んだと思う
 
この男が嗅ぎ付けて、スッパ抜きの記事を出す。森永と警察は初めは否定、
 
「また〈ぐっさん〉の早トチリですよ。〈寝屋川アベック襲撃〉のときと同じです」
 
画像:走る吉山利嗣 毎日の誤報と差し替え
 
なんて声明を出して取り繕おうとした。
 
吉山利嗣。『NHK未解決事件』の再現ドラマで池内博之が演じた新聞記者は、6月の件で誤報を出した。しかし『キツネ目』の本に、これはスキャンで見せなくても引用で信じてもらえると思うが、
 
   *
 
「幻のスクープ」となったことで、吉山はしばらく肩身の狭い思いを強いられるが、その後9月20日付夕刊で、かい人21面相が新たに森永製菓を脅迫している事実をすっぱ抜いた。名誉挽回に費やした時間は約3ヵ月だったことになる。
 
アフェリエイト:キツネ目
 
とある。この、
 
画像:毎日新聞9月20日夕刊
 
スッパ抜き記事は〈ぐっさん〉の手柄であるらしい。
 
 
   マスコミが派手に書き立てなければ
   株の値下がりは起きてくれない
 
 
なんてことをわかるのに、株の知識は要りませんよね。おれもまるきり株に関する知識はゼロだが、【株価操作はマスコミの報道ありき】というのはそもそも〈株の専門知識〉や〈基礎知識〉でなく〈それ以前〉の問題である。丸大では〈彼ら〉はマスコミを利用せず、警察も公表せずに秘密裡に捜査していたため、世には知られず株価が動くことはなかった。
 
〈彼ら〉はグリコで懲りたから、「あれはやめよう」と考えたのだ。そう見るのが自然だろう。森永でも最初はマスコミに手紙を送らず、こっそり事を運ぼうとしていた。
 
というのは、【株価操作が目的】という説と合わない。けれど〈ぐっさん〉のスッパ抜きで世に知られることになり、作戦を変えなければならなくなった。
 
と見るのが自然だろう。つまりこの下の男の余計なマネが、
 
画像:吉山利嗣あれがターニングポイントだったと思う
 
ターニングポイントなのである。こいつのスッパ抜き記事で事態が変わってしまい、森永に世の注目が集まった。上川主演の再現ドラマは、
 
   *
 
記者C「完全に抜かれてるやないか。なんも掴んでへんかったんか」
加藤「大体は掴んでました。福良(記者B)もネタ元から聞いてました」
記者C「ほう。掴んでてなんで書かへんのや」
加藤「『今度こそ捕まえるから絶対に書かんといてくれ』て。ぼくはそれでええと判断しました」
記者B「それは自分も――」
加藤「それに! グリコがあれだけやられてるのを見たら、書く気がしませんでした」
記者C「お前、それでも事件記者か」
加藤「こんなん、報道する意味ありますか? 警察の足引っ張って、企業いじめて。こんなんスクープしたかて、なんの意味もありませんよ! この事件でスクープしてええんは、犯人逮捕だけですわ!」
記者C「はいはい。おまえの言い訳なんか聞きとうない。すぐ取材行け」
加藤「犯人かてこの記事読んでるんですよ。こんな記事、警察と森永の動き、犯人に教えてるだけやないですか!」
記者C「負け惜しみ言うな! 抜かれたら抜き返す。さっさと取材行け」
 
画像:9月20日スッパ抜き記事後の読売ボックス
 
このように話を描く。どこまで本当かは知らないが、加藤譲や、かつて「絶対に抜きまくりましょう」と言った福良も書くのをためらうような記事を〈ぐっさん〉は書いて出したということになる。もちろん、世に知れたなら森永の株の暴落となりかねないのは、誰にもわかるはずのことだ。この記事なしにその後の展開はなく、株価操作もできないのがわかりますね。
 
加藤が〈ボックス〉を出ると、同じ府警本部ビル内の刑事部長室では大杉漣演じる鈴木邦芳が記者団に詰め寄られていた。
 
   *
 
記者団「これはほんまですか」「なんで毎日さんだけ特定できたんですか」
鈴木「これは嘘。毎日の誤報だ。偽グリコ犯が動いているが、真犯人は動いていない」
記者団「ほんならこの記事は!」
鈴木「特徴が違うとしか言いようがありません」
記者団「それ嘘違いますね」「ほんまに信じてええんですね」「どうなんですか」「ウチは信じますよ?」
 
画像:立ち聞きする加藤
 
というわけで「ぐっさんの間違い」ということになり、そう報道され、宅麻伸演じる記者Cが廊下で毎日新聞の者らを、
 
   *
 
記者C「毎日さん、かわいそうやな。偽グリコ犯にされてもうて。ははは。暑いなあ、暑い」
 
画像:毎日の記者を笑う宅麻伸
 
と笑うことになるのだが、その後すぐの9月24日、
 
   *
 
記者A「犯人からの挑戦状です! 森永の事件は、偽グリコ犯やのうて自分達やてゆうています」
加藤「そんなことわかってる。余計なことしおって……。警察は犯人を捕まえたいからマスコミに真相を隠す。すると犯人はこないして真相を教えてくれる。こんなことしとったら、警察と企業とぼく達の関係がますます悪うなる!」
記者D「それが犯人の狙いなんやないのか」
 
画像:9月24日の読売ボックス
 
ということになる。もちろんそれが〈彼ら〉の狙いに違いないが、間違えてはならないのは【最初からの狙いではない】ということだ。最初から狙ってたのなら最初からマスコミ各社に手紙を送りつけている。
 
それを、
 
画像:吉山利嗣あれがターニングポイントだったと思う この男のスッパ抜きをこの男が、画像:鈴木邦芳
 
否定するから〈彼ら〉としてもそうしなければならなくなった。警察とマスコミの関係を悪くしてやれば森永は追いつめられた状況となり裏取引するしかなくなる。
 
と考えたのだろう。〈彼ら〉はこのとき1億円しか要求してない。「しか」と言うのもなんだけど、次に2億になり3億になるのはグリコを見れば誰でもわかるはずのことだ。1億払って地獄を見ずに済むのであれば払ってケリをつけようと考えてもよさそうなもの。
 
前にも書いたが、ロッテのように払って隠しておくのがよくない。まず犯人らにどうにかして、
「わかった。払うがお客様の安全のためだ。そのうえで世と警察にすべてを明かす。払うのはこの一度きりであり、再度の要求には応じない」
旨を伝える。「それでええ」という答が返ってきたら、払ってその通りにし、後は警察に任せる。
 
というのが利口な道だ。マスコミには言いたいように言わせればいい。ロッテが払った話なんかも誰も憶えてなんかいないし憶えていても気にしてないでしょ。
 
当たり前だよ。それがわからなければいけない。だから本来、この森永の脅迫は〈彼ら〉の思い通りになってよさそうなもんでありさえするのだが、しかしそうはならなかった。
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之