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狐鬼 第二章

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白白しい
白紙の世界

細波立つ、海面
魚鱗のように散らばる光が眩しくて堪らない

砂浜に足を取られながら海際迄、辿り着く
波 飛沫(しぶき)を巻く潮風が頬を濡らす

其れ以前に彼女の頬が濡れていたのは気の所為ではない

もう嫌だ
もう「ちどり」はいないのに

もう嫌だ

「ちどり」を思うと涙が出る
然して「ひばり」を思うと矢張り涙が出る


月白色の狐火を自ら身に纏い
幾つにも分かれ伸びる尻尾を主人である、巫女の周囲に張り巡らせる

伸びた髭を震わせ、翡翠色の眼で人人を睨め付けては
深く裂ける口元を歪め鋭く尖る牙を剥く

其の姿は正しく、白狐


彼の夜の二人は迚(とて)も神神しかった

なのに
自分といる事で人間の振りをする羽目になった
みや狐に如何、詫びればいいの?

ひばりに如何、詫びればいいの?

「すずめ」

朗朗と自分の名前を呼ぶ声に
弩(いしゆみ)にでも弾かれたように走り出すも悲しい哉(かな)

鼻を鳴らす
白狐に簡単に後ろに付かれて抱き抱えられる

突如、「きゃあきゃあ」大騒ぎする
すずめを容赦なく持ち上げる白狐が其のまま座り込む

「何故、一人で泣く?」

問い掛けるも
自身の胡座の上で今も「きゃあきゃあ」騒ぎ続ける
すずめの手を取ろうとするが振り払うので大人しく引っ込める

だが、捕まえた以上
逃(のが)す訳にはいかないので腰に回した腕は緩めない

然(しか)し如何やら
すずめは腰に回した腕こそ解(ほど)いて欲しいと必死になっている(?)

まあいい
解放して欲しければ(問)答えればいいだけの話だ

「何故、一人で泣く?」

再度、問い掛ける
白狐の口調に「圧」所か「冽」を感じ取った結果
(無駄)騒ぎを止めるすずめが諦めて答える

「(うぅ)、泣いてない、です」

「本当か?」

「(うぅ)、本当、です」

途端、腰に回した腕をぐいと引き寄せる

再度、「きゃあきゃあ」叫ぶ
すずめが此方の顔を覗き込もうとする
白狐を避けながら如何にか涙塗れの頬を拭って答える

「本当ですから!」

「其の、」
「其の、手を放してください!」

「きゃあきゃあ」騒ぐ所為なのか
全く(感情が)読めない白狐としてもすずめの(其の)感情はなんなのか
思わなくもないが其れこそ必死に踠(もが)くので素直に従う

(腰に回した)腕を解(ほど)くや自身の胡座の上から飛び退(の)く
すずめの行動に口をへの字に曲げる

(其の態度に)不満がない訳ではないが
砂浜に両手の平を突く白狐が澄み抜ける青天を仰ぎ見る

彼の夏の日
我ながら意味不明な対抗心を燃やした


其れ如(ごと)きで褒められるのなら
お前は俺を何(ど)れだけ褒めてくれるんだ?


結局、俺が「神狐」である限り
結局、お前が「巫女(仮)」である限り有り得ない

有り得ないが

「すずめ」
「褒めてくれないか?」

寸劇(コント)の一場面のように
「ちょっと何言ってるのか分からない」とボケそうになるくらい
白狐を振り返える、すずめは意味が分からない

更に

「「上手上手♪」と、褒めてくれないか?」

と、続ける白狐の言葉に
先程迄の怒り等(など)何の其の益益、意味が分からない

「神様」である白狐を褒めろ、と?
然(しか)も有ろう事か「上手上手♪」としゃこのように褒めろ、と?

軈(やが)て相手 (すずめ)の返事を待ち侘びる
白狐が翡翠色の目を頭上の青天から目の前のすずめに移動する

不本意ながら身体ごと向かい合う
藍媚茶色の目を伏せるすずめが呆れて呟やく

「(私が)怒ってるの分かってますか?」

薄笑う
白狐が吐き捨てる

「「俺」にか?」

何とも憎たらしい狐だ

苦苦しく顔を歪めるも(確かに)白狐の言う通りだ
自分が腹を立てているのは「人間風情」の自分自身に、だ

其れでも(感情が)筒抜けの挙句
飽く迄、何食わぬ顔をする態度に腹が立つ

腹が立つが

「神様なのに」
「私(人間)なんかに褒められたいんですか?」

何とも可憐(いじら)しい事を言う
白狐を許してしまう

其れは巫女(仮)効果で
其れはお互い様なのだろうか?

返事の代わりに苦笑いをする
其の翡翠色の目を深く覗けば、透ける目の奥に映り込む自分の目と合う

「「上手上手♪」って」

「しゃこみたいに?」
「しゃこみたいに褒めればいいの?」

然うすると
白狐の頭頂部を撫で撫でする事になるのだが
以前、はつねの真似をして撫でようとした際(さい)に
威嚇(笑)されたのを思い出し躊躇するすずめが今更ながら気が付いた

「、(伊達)眼鏡は?」

上着の襟元に引っ掛ける伊達眼鏡を見留め訊(たず)ねるも
白狐の返事は「止めた」の一言

其れ以上は語らない
胡座の膝に手を置く白狐が頭を下げて待ち構える

「え?」
「ええ?」

恐る恐る(白狐の)短髪の黒髪を撫でる
夜な夜な毟(むし)る毛皮とは違う感触だが指先に触れる
其れ等(ら)は矢張り気持ちがいい

「いい子いい子」

思わず口を衝(つ)く
言葉に

「すずめ」

「はい?」

頭を下げたまま
屹度(きっと)、半目を呉れているであろう白狐が言い直す

「「上手上手♪」だ」

素で間違えたとばかり
舌を出すも「でも」と、すずめは弁解する

「「上手上手♪」も」
「「いい子いい子」も似たようなものですよ?」

にやにやが止まらない
「撫で撫で」も止まらないすずめがぽろり、と漏らす

「前回は嫌がった癖に(ぃ)」
「はつねさんは「OK」だった癖に(ぃ)」

途端、顔を上げる
白狐の所為で「撫で撫で」が(強制)終了する

「彼(あ)れは違う」
「彼(あ)れは単に「餓鬼(がき)扱い」されただけだ」

くろじにとってすずめが「妹」のように
はつねにとっては白狐が「弟」になるのだろう

「はつねさん」
「きっと、「いい子いい子」したかったんですよ」

(何だ其れ?)
満面の笑みを浮かべるすずめを見遣る
白狐が胡座の膝に頬杖を突いて問い返えす

「そうなのか?」

「そうなのです!」

思い切り胸を張る
目の前のすずめに対して
思い切り腑に落ちない様子の白狐だったが

巫女(仮)が然(そ)う宣(のたま)うのなら然うなのだろう

溜息を落として〆(締め)る

然うして

「はつねが心配してる」

故(ゆえ)に帰ろう、と矗(すっく)と立ち上がる
白狐が差し出す手に(自身の)手を重ねて立ち上がる、すずめが頷く

一歩、肩を並べて歩き出す
吹き抜ける海風に「寒くないか?」と繋いだ手を引き寄せ訊(たず)ねる
白狐に首を横に振るすずめが逆に訊(たず)ねる

「あの、」

「なんだ?」

「あの、」
「私、重たくなかったですか?」

一歩、先を歩いて振り返える
白狐が立ち止まる(背後の)すずめの顔を此れでもか!と、覗き込む

何の話だ?、思うも
否(いな)否(いな)、筒抜けの感情から何の話かは分かるが
何度も(?)か(?)担いできたのに「何を今更?」とばかり顔を顰(しか)める
白狐を余所に恥じらう(今更?)すずめが続ける

「ほら」

「はつねさんの料理が美味しくて」
「最近、太った気がして」

(白狐の庇護の下)甘えに甘えて
作品名:狐鬼 第二章 作家名:七星瓢虫