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狐鬼 第二章

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差し仰ぐ空は海底のように澄み物憂げな陽光が降りそそぐ秋日和

擦れ違う知り合い(サーファー)に「妹(分)」とすずめを紹介する
ご満悦のくろじと連れ立って歩行(ある)く、国道沿い

漸(ようよ)う

海岸に面した小ぢんまりだが目を引く
ログハウス喫茶店(カフェ)が視界に入るや否(いな)や、白狐の姿が飛び込む

赤色(立入禁止)のロードコーンを小脇に抱えて仁王立つ
威圧的な態度で出迎える其(白狐)の姿に脱兎の如く駆け寄る、すずめが耳打ちする

「(ゼーハー)誤解してない」
「(ゼーハー)ですよね?」

「誤解?」
「誤解とはなんだ?」

素知らぬ振りで返えす
白狐の面前、肩で息をするすずめには眼も呉れず
(すずめに)釣られて小走りで此方に向かって来るくろじに釘付けだ

益益、嫌(面倒)な展開しか想像出来ない
すずめが其(白狐)の腕を引っ張るが矢張り微動だにしない

諦めるしかないすずめは仕方なく白狐の質問に答える

「(ゼーハー)手を」
「(ゼーハー)手を繋いだ事」

「ほう?」

何とも素気無く、吐く

「何奴(どいつ)と?」

等(など)と飽くまでも白白しい会話を続けるつもりなのか
此処で漸(やっ)と呼吸を整えるすずめが歯を噛む

自分 (すずめ)の思考は
自分 (すずめ)の感情は
自分 (すずめ)の行動は筒抜けなのに

本当に、何とも憎たらしい狐だ!

苦苦しく、顔を歪めるすずめは
「もう一度、其の毛を毟ってやろうか」等(など)と少なくとも考える

然(そ)うして

二人(白狐とすずめ)の元へと辿り着く
くろじと(一方的に)対峙する白狐が腹の中で愚痴(ぐち)る

俺(白狐)に言わせれば
御前 (くろじ)等(など)、赤子も同然だが

すずめに言わせれば
俺(の年齢)は自分 (すずめ)と大して変わらなく見えるらしい

故(ゆえ)に何も知らぬ
御前が俺を下位(した)に見るのは致(いた)し方ない

致(いた)し方ないが

「「弟(分)」とは御門違いも甚だしい」

と、質(ただ)すのは容易い
容易いが俺(白狐)は「兄(貴分)」の余裕で受け流す

当然、兄(貴分)の胸の内 等(など)、察する事もない
くろじが満面の笑みで弟(分)の両肩を其(自分)の両手で堅(がっちり)と抱く

「みやちゃん!、見違えたよ!」

途端、勢い良く(自身の)胸元に白狐を抱え込む
くろじの身長は若干、相手(白狐)よりもある

当然、思い掛けない
行動に固まる白狐の額(おでこ)に頬擦りするくろじが心の中で歓喜する

流石は(俺の)はつねだ!
御令息様(みや狐)を見事、導いたんだな!

出来の悪い「弟」擬(もど)き程、可愛い
彼女 (はつね)が抱いた感情を此の瞬間、くろじも抱いていたのかも知れない(笑)

精神的衝撃(ショック)の余り、相手 (くろじ)のなすがまま状態の白狐を余所に
「見違えたよ!」と発したくろじの言葉の意味にすずめも気が付いた

何故、(白狐は)はつねと色違いの前掛(エプロン)を着けているのか?

ついと手を伸ばす
前掛(エプロン)の裾を摘まむ気配に白狐は
抱き付くくろじを引き剥がし満更でもない顔で其(前掛)の姿を披露する


『「出来る出来る!」』
『「屹度(きっと)、すずめも見直すわよ!」』

『「、見直す?」』

『「然う然う!」』
『「屹度(きっと)、褒めてくれるわよ!」』

『「、褒める?」』


はつねとの会話が思い出される

「似合うか?」

返事を待たず
白狐は何故か言い換える

「似合ってないか?」

自分(白狐)自身、「今」の暮らしには慣れない

此の(白)毛を隠す黒髪も
此の(翡翠色の)目を隠す伊達眼鏡も

何より獣の姿を偽わる、此の姿形にも慣れない

良くも悪くも

ひばりとはちがう
お前 (すずめ)との暮らしは「人間」らしく、何とも言い難い

「すずめ」

朗朗と名(前)を呼ばれて
白狐を見上げるすずめが慌てて頭を振るが
其 (すずめ)の胸中は複雑だ
其 (すずめ)の胸中を読み取る白狐も複雑だ

蚊帳の外のくろじは
二人 (すずめ・白狐)の世界に興味津津だったが

其れ以上に白狐が小脇に抱える
赤色(立入禁止)のロードコーンの存在が気になって仕方ない

「どゆ事?」

自身 (くろじ)の頭上に疑問符を浮かべたまま
ログハウス喫茶店(カフェ)の駐車場を見遣るくろじが素っ頓狂な声を上げる

「何事か?」と反応する
すずめと向かい合う白狐は無反応所か、明白(あからさま)な溜息を吐(つ)く

くろじの視線の先

海岸に面した小ぢんまりだが目を引く、ログハウス喫茶店(カフェ)
乗用車十代程、駐車すれば一杯になる駐車場が「満車」になっている

ログハウス喫茶店(カフェ)開店以来、初めての出来事 (なの)だろう

目を白黒させるくろじの代わりに
すずめは事情を知っている(筈の)白狐を見遣るが
(白狐は)小脇に抱える赤色(立入禁止)のロードコーンを
駐車場入口を塞ぐようにどっかと置くと無言で二人 (くろじ・すずめ)を眺める

「そゆ事?」

解決した「ロードコーンの存在」にくろじは呟やくも
否否(いやいや)、解決じゃないだろ?自分 (くろじ)自身に突っ込む
くろじがログハウス喫茶店(カフェ)目掛け走り出す

是又(これまた)「何事か?」
其 (くろじ)の後に続こうとするも
其 (すずめ)の腕を掴まれて振り返える

「すずめ」

名(前)を呼ぶ
自分 (白狐)を見詰める相手 (すずめ)の心中は筒抜けだ

今は

「彼方(ログハウス喫茶店(カフェ))が気になるか?」

自分 (白狐)の言葉にすずめは頷いた


木製出入口扉、無骨な取手に手を掛ける
一旦、硝子(ガラス)越しに覗(うかが)う喫茶店(カフェ)店内は賑やかで
客席は満席、案内待ちの客も数人いるようだった

「どゆ事?」

再度、繰り返えすくろじが
若干、緊張気味(何故?)にログハウス喫茶店(カフェ)店内に足を踏み入れる

刹那

一斉に(客等の)会話が止(や)む
一斉に(客等の)視線が注(そそ)がれる

再度、素っ頓狂な声を上げそうになるのを堪える
くろじが目線のみを動かして喫茶店(カフェ)店内を見回した結果、気が付く

店内の客全てが「女性」

然(そ)して店内の女性客全てが
(視線を注(そそ)ぐ)くろじに爛爛と光る目を向けている

正(まさ)に「肉食動物の檻に放り込まれた草食動物」此れに尽きる

命の危険を感じたのか(笑)如何なのか
無意識にも後退りするくろじの耳にはつねの(自分の名前を)呼ぶ声が届く

「くろじ?」

我に返えり見遣れば
空(から)になった冷水筒(ピッチャー)を持ち此方(こっち)にやって来る
彼女 (はつね)に手を引かれて厨房に引っ込む

遅れ馳せ乍(なが)ら
ログハウス喫茶店(カフェ)の置かれている状況を理解したのか

「俺が(給仕)やるから調理に入れよ」

客席が満席なのに
暢気(のんき)に給仕(お冷)とか可笑しいでしょう?

言いたげに
冷水筒(ピッチャー)を其 (はつね)の手から奪い取る
くろじにはつねがこぼす

「ない」

「あ?」

「注文、(未だ)ない」

「あ?」
作品名:狐鬼 第二章 作家名:七星瓢虫