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狐鬼 第二章

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「そろそろ昼飯時か」

何や彼や
開店(十時)直後からサーファー仲間と駄弁(だべ)り続けた

お互い屋外(アウトドア)椅子から立ち上がる
其れが終了の合図のようにくろじが店内の壁掛け時計を見上げて提案する

「はつねん所(トコ)で飯、食わねえか?」

「冗談」
「彼奴(はつね)、怒ってんだろ?」

(サーファー仲間)自身、何気ない返答だったのだが
満面の笑みを貼り付けたまま硬直(こうちょく)する相手 (くろじ)を前に噴きだす

『良く言えば「正直」』
『悪く言えば「馬鹿正直」』

「無理、怖えわ」

苦笑交じり店を後にする
相手(サーファー仲間)を見送るともなく連れ立つ

(サーフショップの)向かい側、古着屋の店先で商品を物色している
古着男子に「毎度」と声を掛け立ち話を始めるサーファー仲間は此の店の店主だ

然(しか)し「お互い暇だな」と思うも
今現在、接客している彼奴(サーファー仲間)は俺より増しか、と思いなおす(笑)

然(そ)うして

三姉妹の話の根多(ネタ)として捕捉(ロックオン)されたのだろう
未(いま)だ戻らぬ「妹 (すずめ)」の存在を思いだし(おい)手を打つ

「然(そ)うだ、迎いに行こう(棒)」

空(から)の珈琲 茶碗(カップ)を載せた盆(トレー)を持参して
「波女」に出向けば案の定、仕事(給仕)其方退けですずめが腰掛ける
卓子(テーブル)席に齧(かじ)り付く三女の姿を見留める

カウンター越し、サイフォンを眺める長女にこぼす

「ずっとああなの?」

目線だけを動かして「弟」にうなずく
長女が笑みを浮かべる

「今更?」
「彼(あ)の子(三女)は貴方(あんた)が生まれた瞬間から兄弟愛(ブラコン)だよ?」

嗚呼(ああ)、然(そ)うでした
と、溜息すら出ない「弟」から盆(トレー)を受け取る長女が吐き捨てる

「貴方(あんた)も」
「はつ(ね)ちゃんも大変だ」

面白がる口調 処(どころ)か
高みの見物を決め込む長女の態度に「今更?」と返えす「弟」も大概だ

途端、豪快に笑いだす
長女に構う事なく(店に訪れた)目的である
すずめを迎えに卓子(テーブル)席へと手を打ち鳴らしながら近付く

「お仕舞いお仕舞い」

ぶっちゃけ

大した情報もないのに
大した情報を聞き出そうとする三女相手に殆、困り果てた様子のすずめに
「申し訳ない」と思いつつ、二人の間に入り込む

然(しか)し、遅かれ早かれ
斯うなる事は必然なのだから仕方がない

仕方がないが

「めんごめんご」
「でも最初で最後、金輪際相手にしなくていいからね」

取り敢えずの通過儀礼は済んだ(筈)

すずめに謝罪する「弟」の発言に多少、唇を尖らす三女が
「はつ(ね)ちゃんは強敵よ」等(など)と宣うもくろじがはっきりと言う

「すずめちゃん」
「其れは其れは格好良い彼氏がいるから」

新たな燃料投下(話題)に黄色い声を上げる三女に好い加減、腹が立ったのか
瓦斯(ガス)式銅板蒲餅焼き器で焼く生地と睨め競(くら)していた次女が鋭い眼光で射抜く

一瞬、怯む三女を気の毒に思うも
すずめの手を掴んで「波女」を後にする「弟」の背中に長女が声を掛ける

「今度、はつ(ね)ちゃん連れて遊びに来なさいよ」

「其れ」に対して
くろじが悪態を吐くも此の状況のすずめには聞こえていない

唯唯、繋いだ(くろじの)手と(自分の)手を見詰めたまま
此の状況の「後始末」の事で一杯一杯だ

暴露(バレ)てる
何(なん)なら即時(リアルタイム)で暴露(バレ)てる

只管(ひたすら)、「何でもない何でもない」と頭の中で繰り返えす
すずめの隣でくろじが後頭部を掻き上げる

「馬路(マジ)、「姉」って(有り得)ねえわ」

くろじの言葉に立ち止まる
すずめが背後の「波女」と隣から一歩、前方に進んだ「弟」を見比べる

「ああ、「姉」?」

再度、背後の「波女」と前方に進んだ一歩、戻ってくる「弟」を見比べる
すずめに目の前のくろじが

「ああ、「姉」」

然(そ)して訊ねる

「若しかして気付いてなかった?」

思えば

根も葉もないのに
根掘り葉掘り聞いてくる相手(三女)は多分、念頭になかっただろうし
自分 (すずめ)に於(お)いては名乗る暇すら与えられなかった

思えば

サーフショップで会った(此方も名乗り合わず)
サーフィン仲間同様、地元 (くろじ)の幼馴染関係だと自己完結していた

自分 (すずめ)を見下ろす
相手 (くろじ)の顔面を繁繁見て「ああ、似てる似てる」
一人うなずき「ああ、かも?」と首を傾げればくろじが笑いだす

「彼奴等(三姉妹)は「父親」似」
「俺は「母親」似」

兎に角、道端に立ち止まっているのもなんだし
夏場(オンシーズン)以外、ログハウス喫茶店(カフェ)は混む事はないが
(自身の)腹の虫に責付(せつ)かれ歩き始める
くろじに手を引かれてすずめも歩き始める

「全員、お姉さんなんですか?」

何気なくくろじが放った
彼奴「等(ら)」の「意味」を確認する

「そう」

「長女が珈琲(コーヒー)担当で」
「次女が蒲餅(パンケーキ)担当で、三女が給仕担当」

「全員、お姉さん…なんですね」

改めて繰り返えす
すずめの脳裏に三女「はつ(ね)ちゃんは強敵よ」の台詞(セリフ)が甦える

同情する訳ではないが
無情にもなれない

思うところがあると言えばあるが
矢張り、下衆の勘ぐりと言われれば其れまでだ

途端、くろじが
俯向くすずめの両肩に勢い良く両手を置く

「そう!」
「だから俺、!」

此処で「青年の主張」を仕掛けるも
何処からか「おおい、おおい」と呼ぶ声に視線を飛ばす

見れば、(商店街)通りを挟んだ向かい側、いぶし瓦屋根の酒屋
其の店先、縁台に杖を片手に腰掛ける老人がにこにこ顔で話し掛ける

「くろ(じ)」
「どしたあ?、そのこ?」

すると、くろじは
すずめの両肩に置いたままの両手を引き寄せ、自分の前に立たせる

有ろうことか

「髭(ヒゲ) 爺(じい)!」
「此れ「妹」!、俺の「妹」!」

自分 (すずめ)の頭上で、大声で宣言する
「妹」発言に驚いたが
「髭爺」発言にも驚いた

何故なら

愛想笑いを浮かべる自分 (すずめ)が見遣る
相手(老人)の好好爺然とした顔には髭一本すら生えていない
所か、頭髪すら…だった

「そうかそうか」
「母ちゃん、頑張ったなあ」

満面の笑みで親指を立てる
くろじに「しっかり親孝行しろよ、くろ(じ)」と説く也、(店の)奥に目を遣る
老人が家族に報告する

「おおい、おおい」
「くろ(じ)ん所、「妹」が生まれたそうだぞう」

刹那、家族の怒号が轟く

「じじい!」
「ボケんのにも限度があんだろうがあ!」

先程の仄仄展開から
空気が一変する展開に当たり前だが当惑するすずめの前で
更なる予期せぬ展開が起こる

「ああん?!ああん?!」
「だれがボケとんじゃい?!だれが?!」

矗(すっく)と立ち上がる
「なにこら!たここら!」喚きだす老人が手にした杖を足下に叩き付け
腰は曲がっているものの確かな足取りで(店の)奥へと消えていく

「じじい!お前だお前!」
作品名:狐鬼 第二章 作家名:七星瓢虫