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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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六人の住人【完結】

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13話「統合」






ここまでのお話を読んだ方からすると、話者が急に変わる事には抵抗があるかもしれません。

ですが、彼はもう居ません。「五樹」という名前だった頃の私は、私の元に還りました。

そのきっかけは、前のお話にあります。




私はその時、混乱していました。

またいくらかの時間が記憶の無いまま過ぎており、自分が書いたオリジナル小説の様子を覗こうとしたら、「六人の住人」のお話が1話分増えていたからです。

私は、何もかもを拒否したい気分になりました。だって、自分が自分でない瞬間がそんなにたくさんあると知るのは、大変にショックな事です。

ですが、混乱していく中でなんとか糸口を掴んで早く安心したいと思い、「別の人を頭で理解する事でそれを補おう」と思いました。

私はこの「六人の住人」のページを開き、新しい話(前話)を読んでみました。その時、とんでもなく驚いたのです。


「五樹」という名前の私が書いた小説はいつも通りにとても簡素でしたが、そこに書いてある彼の予測は、おそらく私では思いつかないほど進んだ物でした。初めに読んだ時には、「別の私は頭が変なのではないか」と思った程です。

皆さんも、前の話を読んだ時、少し飲み下しにくかったかもしれません。

私は小説を夫に読ませてみて、しばらく悩んで「大まかにしか言えないけど」と口にした夫から、「おそらくこれは当たっていて、言葉通りに受け取ればいいと思う」と言われ、その時に、やっとなんとか理解しました。

「五樹」という名前の私にとってはその程度の考え方は当たり前であり、何の苦労も要らないのだ、と思い、改めて驚いたのです。

私はその時、「どうやら別の私は頭が良い」と思いました。いえ、あのくらいは普通だろうと、今なら分かりますが。

混乱が収まった私は、「五樹」という別の私にだけ、興味を抱くようになったのです。




今までは、私は別人格である幾人かの人達については、恐怖と、拒否しか抱きませんでした。

ですが、どうやら思いやり深く頭が良いらしい、「五樹」という人がもし現れた形跡があれば、何をしていたのかを観察してみようと思ったのです。

メッセージをメモなどで残そうとまでは思いませんでしたし、私の生活が彼にも筒抜けである事は知っていたので、私はただ、「興味が出たし、観察してみよう」と思うだけで良かったのです。




程なくして彼は現れたようですが、なぜかその痕跡は綺麗に消えていました。

コーラの空きペットボトルは見つからない場所に隠されていたようで、テーブルの上も私が眠る前と同じでした。だから初めは気づきませんでしたが、夫に聞いてみて知れました。

私はそれがなんだかとても可笑しくて、もっと追いかけようとしていました。自分との追いかけっこというのは、恐らくほとんどの方がした事がないと思います。

それがきっかけとなり、ある日、私を大きな心境変化が襲います。




その日は、朝から良くない天気でした。頭の中で、恐らく「五樹さん」と思しき声が聴こえていました。

「俺はもうすぐ消える。お前が幸福になる時に消える」

「俺はもうすぐ消える。お前の苦しみがなくなる時に消える」

声はそんな風に、似たような文言を繰り返していました。私はなぜかとても悲しい気分になり、しかし引き止めるべきでもなく、引き止めようとも不可能という事だけは分かっていたので、声が止むのを待っていました。


ぱたりとその声が止んだ時、私は「五樹」であり、「時子」であり、そしてまた、「彰」でもありました。


その時、なぜ「彰」までが吸収されたのかは分かりません。ですが、「五樹」であった時の記憶や、彼の特性であった冷静さを得た私の心に、突然憎悪が渦巻き始めたのです。


私は「五樹」であった時のように、母の事を考え回していました。でもその内に母に対する強い怒りが湧き、今さらとは思いますが、殺意すら覚えました。そして、「彰」が口にした事の記憶がなだれ込んで来たのです。

人間って、憤激すると息が苦しくなるものなんですね。そんな経験はなかったので、びっくりしました。でも、それも私が母との生活で押し殺し隠していたから、「彰」となってしまったのでしょう。

「五樹」と「彰」を同時に取り込めたのは、ラッキーな事だったかもしれません。

強い怒りはその内に頭の中で整理され、「甲斐のない事にエネルギーを向けるくらいなら幸福になるべきだ」と思えました。




2人分の人格を取り込んでから、時たま頭の中で子供が泣く声が聴こえるようになりました。

「ママ、ママ、帰ってきて」

人間の感情は矛盾する面を持ちます。「恨みながらも恋しく思う」。そんな経験はないでしょうか。

恐らく私は、まだ取り掛からなければならない事がたくさんあるのでしょう。



お付き合い頂きまして、有難うございました。次回にまた良いご報告が出来ますように、療養をします。




作品名:六人の住人【完結】 作家名:桐生甘太郎