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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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第36話 ついに始まった






「エリック…」

私は彼に声を掛ける。でも、彼にはもう聴こえないだろう。私は彼を破壊したのだから。でも、彼を不名誉な殺人犯になどさせる訳にはゆかなかった。

目の前に、頭部と腹部をバラバラに破壊された彼の体が横たわっている。腹部のパワー供給機は、まだ発電をしようとしているのか、バチバチと火花が散っていた。それを私は、片手の小さな爆発によって、完全に止める。

彼を止めるには、こうするしかなかった。でも、彼に殺しをさせない為に彼を殺すなんて、どこの誰が許すのだろう。私は深い後悔を抱え、アメリカの裏路地を去った。



ホーミュリア家の屋敷へと飛んでいる間に、誰かが私のスケプシ回路へ、通信を寄越した。

“君はターカスだな?”

それだけ聞かれた。恐らく私はずっと探されていただろうと思い、“そうです”と音声通信を返すと、相手は矢継ぎ早にこう述べた。

“今見つかって良かった。私はポリスの次長、ジャック・アームストロングという者だ。ホーミュリア家で君を探す捜査をしていた。だが、令嬢が行方不明になった。恐らく、ミハイル・マルメラードフという人物に連れ去られたのだと思う。屋敷に停めてあったマルメラードフのシップと、令嬢が同時に消えたんだ”

「なんですって!?マルメラードフですって!?」

“知っているのか?”

相手に聞かれた事に私は答えなかった。

「お嬢様はどこへ連れられて行ったんです!」

そう聞くと、相手が慌てて何かをしている音がした。

“レーダーでは、ロシアクリミア部の、海岸に停まっているようだ。我々も追いかける。君はすぐ向かった方がいい”

「分かりました、すぐに」



そして私は、マルメラードフによって崖から突き落とされそうになっているお嬢様をお助けし、崖の上で動けなくなっている兎のコーネリアを見つけて、お嬢様を家に連れ帰った。




お嬢様は私の背に捕まって家に帰り、マリセルが用意した歩行器で廊下を通って、居間へと入った。お嬢様は嬉しそうで、でも、それを堪えて平静を装っているように見えた。

私は、お嬢様が椅子に座ってから、「ヘラお嬢様、お茶をお淹れ致しましょうか」と聞く。

「ええ、お願いするわ」

「どのお茶がよろしいですか?」

「今日はジャポネがいいわ。明るい方がいいから、お湯は多めにしてね」

「かしこまりました」

私達がそう話しているのを、アームストロング氏と銭形氏は黙って見詰めていた。一度見た事のあるメルバは、気に入らなさそうに私達を見ていた。白い髪の少年がメルバの隣に座っていたが、彼はこちらに疑わしげな視線を向けていた。

私は和紅茶をお淹れして、お嬢様の所まで運ぶ。お嬢様は切なそうに微笑んで、私に手を伸ばした。お嬢様の手は私の頬を撫でて、お嬢様は涙を流した。

「…不安だったのよ、ターカス。あなたが…あなたが、戦争に関わっているだの、地下でその準備をしているって、聞かされていたの…」

私は、すぐにその事を話さなければいけないと分かっていた。お嬢様にではなく、居間に居た、ポリスと、世界連の職員に。

「ねえ、ターカス。あなた、今までどこで何をしていたの…?」

お嬢様がそう言うと、アームストロング氏が、後ろから私の肩を叩いた。

「我々も、君に聞きたい事がある。すぐにだ」

私は戸惑った。事の詳細を、お嬢様にも聴かせていいものだろうか。お嬢様は心配しないだろうか。でも、これはメキシコ自治区の全員が知っていなければいけない事だ。私はこう言った。

「わたくしの話す事を、信じて頂けるのでしたら」