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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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第29話 許さない






「エリック、大統領を今亡き者にしたところで、開戦はまぬかれないかもしれません。この争いに関わっている者の企みをすべて明るみに出すまでは、安心出来ないのですよ」

私がそう言っても、エリックは聞いてくれなかった。あくまで、「大統領を殺す」と言って息巻いて、情報収集に乗り出した。

エリックは、様々に用意した偽のアカウントを持っていた。彼は、例えば、世界連職員の中で、死亡した者のアカウントを復刻させ、システムに弾かれないように認証を得て、内部情報へのアクセスをする権限を得ていた。

私を探す時も、ポリスのアカウントで探しても分からなかったので、世界連の権限を使って衛星で私のチップを探し、過去都市ケルンに居ると分かってからは、そのまま自動射撃システムが止まる時間を探ったと言う。

私達は、地下収容所の一角にある小部屋で、そんな話をしていた。

「よく、そんな事が上手くいきましたね。数分間違えば、あなたは黒焦げですよ」

「なあに、知っていりゃあ怖くねえよ」

「ふふ、大した方だ」

「知らなかったか?俺は大物なんだぜ」

「ご自分でおっしゃる方がいますか」

私達は、そんな冗談を言い合うようにもなっていた。しかし、私は依然として、大統領暗殺には反対した。

エリックが自分の冗談に機嫌よく鼻歌を歌っていたタイミングで、私はこう切り出す。

「…エリック。大統領一人を殺しても、戦争は止められないのです」

エリックは私を見なかった。彼は、大統領府が公表しているスケジュールを、仮想ウィンドウに引き出し、大統領が訪れる施設や近辺の地図などにアクセスしていた。私は、彼にはねつけられない内に、また続ける。

「いいえ。もしかしたら、大統領が殺されたとなったら、向こうは、報復のつもりでもっと酷い戦争を始めるかもしれません。予定していたより、酷いものになるかもしれません。そうは思わないのですか?」

私がそこまでを言うと、エリックはウィンドウをいじるのをやめて、くるりと振り向く。そして体を前に倒してぐぐっと私を覗き込むと、私を睨んでこう言った。

「じゃあ、ほかにどうしろってんだよ」

私は戸惑ったが、初めて彼が意見を聞いてくれそうだったので、こう話した。

「まずは、合衆自治区に居る、戦争の恩恵に与る者が誰なのか、明らかにすべきです。そして、それを世界に知らしめ、大統領についても同じ事をするのです。世界連についてもです。そうすれば彼らは裁かれ、戦争も起きるはずがありません。ポリスがあなたのご主人をどうしたのかも、明るみに出れば、グスタフも刑を逃れられるはずがありません」

私がそう話している間で、エリックはどんどん俯いて、落ち込んだような表情になっていった。だから私は、話の終わりには、口調に熱を込めるのもやめていた。

エリックは、俯きながらも脇を向いてウィンドウを見詰めていて、彼は小さくこう言った。

「ターカスよ。何が正しいのかは、俺は分かっているつもりだ。だから…俺は犯罪者になるさ」