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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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第16話 ターカスがいない!






「おかしい。メルバたちの時には、爆撃をしたらすぐにターカスが現れたんだろう?」

銭形は首を傾げて、まだ何も見えてこない川辺の上で、専用艇から降りずに下を窺っていた。

専用艇の運転をしていたマルメラードフは振り返る。

「確かそうだったはずだよ。おそらくはターカスも遠隔監視ができるのか、音声認識が良好なはずだからね」

「それにしては遅い。すでに12秒が経っている。リチャード、私は下へ降りる」

「了解しました。こちらはエネルギーを充填し直します。30秒後に発射可能です」

銭形の言葉に、部下3人は頷いた。銭形は足の燃焼室を開いて滑空した。

「相変わらず、銭形さんの飛行は美しい。燕のようだ」

不意に、銭形の部下、ピーターはそう口走る。その声に、リチャードとジョンは彼を振り向いてから、物凄い速度で落下してからひょいと地上に足をつけた銭形を、じっと見つめた。

「人類は地下に潜ったこともある。でも空を諦めることはなかった。俺たちはコンプレッサーを背負えば飛べるようになった。ただ、銭形さんはどんな気持ちなんだろうな…」

ジョンがそう言うと、リチャードが口を挟んだ。

「無駄口を叩くな。充填は済んだぞ。ファインダーウィンドウを出せ」

「「オーケー」」

彼らはレーザー砲のファインダーウィンドウを出して1km下の川辺を映し出す。

そのウィンドウを見ていたジョンが、次の瞬間叫んだ。

「消えた!?」

ほかの2人も慌てて確認をしたが、銭形の姿は突如として煙のように地上から消えたのだ。

「見つけたのか…?ヘラ嬢の遺体を隠してある場所を…」

「そうかもしれない。警戒しろ。危険だ」





私が地上に降りた時、かすかな違和感を感じた。

「何かが風を遮っている」

私の近くにあった狭い空間だけ、空気の流れが遮られ、まるで小さな剥離流のようなものが起きていると感じた。

すぐに注意深くその空間へと手を伸ばすと、木のような感触があったのだ。

「ターカスは、よほど優秀らしい。私の目をもってしても見えない煙幕を張れる。破壊してしまうのは惜しいな…」

そんな独り言を言い、私はそのあとすぐに、おそらくドアノブであろう金属を探り当てて、それを開いた。




「ターカス!?また何かあった…の…」

私が振り返った先には、知らない人が立っていた。

その男の人は険しい顔で私とターカスの家に勝手に上がり込み、私へと手を伸ばす。私は床に座り込んでいて立てなかったけど、思わず腕の中のコーネリアを抱きしめて、少しだけ体を後ろにずりずりと下げる。

「ヘラ・フォン・ホーミュリア様ですね」

「…いいえ」

その人は顔を顰めてから、「帰りましょう」と言った。

きっと私とターカスを連れ戻すために、警察の人が来たんだわ。何よ、そんなに真っ黒ででこぼこのスーツなんか着込んで。

「叔母様に呼ばれたの?それともマリセル?」

私はその人を睨みつけて、そう聞いた。すると、その人は急に悲しそうな顔をする。それから私のところまでしゃがみこんで顔を下げ、とんでもないことを言った。

「あなたはターカスに騙されていたのですよ。私たちが捜索した時のあなたのパーソナルチップのステータスは、「死亡」でした。ここを見つけられたのはまったくの偶然です」

何を言っているのか、全然分からなかった。だって私は死んでなんかいないんだから、そんな検索結果が出るはずがないもの。ターカスにそんなことができるはずがないもの。

「ターカスはこの家を目視できないように、軍用のステルス化まで行い、ここを隠したのです。あなたを探しに来た捜査員ロボットを、エネルギー停止にまで追い込んだのです」

「すべてはあなたを手元に置くためだ。マリセルはあなたがお亡くなりになったという誤報ですっかり落ち込んでしまっています」

私は、わけがわからなくて首を振った。泣いてしまいそう。そんなことがあるはずがないのに。

「さあ、お屋敷に戻って、マリセルを安心させてあげて下さい」

その人は私に向かって差し伸べた手を少しだけ振って、「手を取れ」と目で訴えた。でも私はうつむいて首を振る。

「ターカスと一緒じゃなきゃ…帰らない」