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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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メイドロボットターカス

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第60話 地下室の取引






「テロリストとしての国際指名手配なら世界連も動けるが…」

「それはまだ未遂です。確固たる証拠がない。準備罪にも問えません。オールドマンの行ったのは、あくまで人体実験と殺害、誘拐です」

「それにしたって国際的な規模だ。凶悪犯として世界連に応援を仰ぐのは?」

「可能かもしれませんが、世界連には内通者も居る場合があります」

「それならポリスにだって」

「そうですね。私達はあまり安心出来ません。まあ、ロペス中将と、私達三人、アームストロングさんだけなら、心配はないでしょうが…」

私達は、オールドマンを捕らえるにあたって、出来る事を議論し続けていた。

結果として、やはりメキシコ軍と、ポリスの本部、メキシコシティ支部のみで当たる事になった。


しばらくしてターカスが家から帰ってくると、我々は、バチスタ博士の自宅へ赴いた。




博士の遺体にはシートが被せられ、その悲痛な姿が見えないようになっていた。だが、顔だけは露わにされ、苦悶に歪んだ最期の表情は浚われて、安らかに彼は眠っていた。

ターカスは献花をしたが、彼にはやはりバチスタ博士の事もよく分かっていないのか、腑に落ちない表情で、葬列に並んでいたように思う。

“オールドマン邸のターカスがここに居たら、どのように思うのだろう”

私は、「ターカス」という存在をまだあまり知りもしないのに、彼が居なくなったのだと、はっきりと分かっていた。


斎場を出てターカスはシップに乗り込むと、我々もそれに続いた。彼は、すぐにオールドマンの話を始める。

「それで、オールドマンの居室を攻めるにあたって、人員はいかほど?」

私は、話についていくのが一歩遅れた。ビニルのシートの下にあった博士の体がどうなっているのかを、まざまざと思い出していたからだ。

「あ、ああ…中将」

私は、後ろからついてきた中将を振り向き、説明を促す。彼はすでに気持ちを切り替えていたのか、ハキハキと話した。

「俺の大隊が一つ、その中にはロボット80機、ヒト20人だ。大体エンジニアだけどな。即戦力はたった2人だ」

「ロボットが80機ですか」

「ああ、なまっちょろい風貌はしているが、君と同じく、戦術ロボットだ。とは言っても、水爆まで操れるようなパワーはないがな」

「ええ」

“ええ”と、まるで当たり前のように返事をしたターカス。私はその様子を見て、ホーミュリア邸で出会った、思いやり深くヘラ嬢に接していた「ターカス」を思い出した。彼なら、こんな事を聞いたら、仰天して尻込みしそうだ。

ただ、戦術ロボットとしての機能を扱うのだから、今のターカスの方が、都合は良い。我々はそれを利用している。

“平和な世が盤石となる前に作られたロボットなのです”

マリセルの言葉を思い出す。もしオールドマンのような者が現れなければ、ターカスに出番はなかったし、今は一時的に協力させられているだけで、この戦いでオールドマンの研究を根絶出来、もしターカスが自我を取り戻したとしても、それは即ち彼の廃棄の運命を後押しするだろう。それでいいのだろうか。

前例のないロボットだ。自我を持つなんて。しかも、それが武力を持っている。桁外れの。ダガーリア氏はやむなくGR-800001を選ばざるを得なかったのだろうが、ややこしい事になった…。




「本当にここの下なの?覗いても、何もありゃしないわ」

アルバが地下をスキャンしようと歩道から真下を覗き込んでいるが、彼女の目は何も捕らえられないらしい。また、ステルス化が施されているのだろうか。念入りな事だ。

「ええ、ここに間違いありません。設備の程は確かめられませんでしたが、もしオールドマンがメキシコに来ているなら、ここしか居場所はありません」

シルバはウィンドウを閉じて、体をシールドで守る。彼は非戦闘員なので、軍からシールドが支給された。

その後、中将が軍用車で人員を運んでくると、ターカスは各々のスペックを聴きたがり、中将は大して興味もない風に答えていた。


ロボットが80人。後方にはそれらを操るエンジニアが20人。先頭を切るのはもちろんターカスだ。アルバやメルバは、中将に参戦を止められた。オールドマン邸でまともに戦闘で役に立ったのは、ターカスだけだったからだろう。

「なんでだよ!オレ達だって戦える!」

「そうよ!ちゃんと武力ならあるわ!」

彼らはそう息巻いたが、場合が場合だ。中将はこう言った。

「お前さんらの武力は、あくまで「ポリス」が必要とする枠を出ない。軍人とは違うんだよ」

その言葉に二人は何も言えず、そのまま、まずは入口を探す事になった。




「建物の入り口なら普通は扉だが…シルバ、入口の場所はわからないか」

中将がシルバに声を掛けると、シールド越しに、くぐもった声が返って来る。

「競売で競り落とした当時は、そちらの教会の下になっていました。今もそうかは分かりません」

「教会、ねえ…。まあ、行ってみるか」

私達は、無人の教会の中へ踏み入り、絨毯をどけたり、聖像を動かしたりして、入口を探していた。


「ないな…そう簡単には見つからないのはわかるが…」

その時、ターカスが声を上げた。彼は床に向かって屈み込んでいて、ある場所を指でなぞる。

「こちらに、接合した痕跡があります!中将!ここです!」

よくよく見ると確かに、人為的に入口を接合した痕があった。我々はそこを、ロボットの手で溶かし、中へと潜入した…。




そこは、長い長い、螺旋階段だった。

まるで鍾乳洞のように静かで暗く、壁は剥き出しのコンクリートだ。しかし、加工された物なので、腐食はしていないし、ヒビも入っていない。国家予算は大して使えなかったが、充分に気を配った、といったところだろうか。

ザッ、ザッ、ザッ…と、100人程の人員が全員階段に掛かるだろう頃になっても、まだ螺旋階段は続いていた。

「気味が悪いぜ…ずいぶんなげえな…」

中将がそう言うと、シールド越しにシルバが答える。

「そろそろ居住空間に着くはずです。皆さん、心して」

「ああ…」