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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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第57話 森の中の木






「ターカス!策は!」

私は、目を覚ましてからすぐに状況を聴き取り、走りながらターカスに呼びかける。ターカスは振り返らずに叫んだ。

「大丈夫です!博士を見つけられさえすれば!」

「分かった!手分けしよう!アルバと中将は階段から上へ!私とターカスは奥へ!メルバは手前の部屋を潰していってくれ!」

「OK!」

そこは、建物の玄関から広い広い通路を抜けた階段前広場だった。全員が言われた通りに散り、私とターカスは、階段の向こうにある、奥へ続く扉を抜けた。その扉は開いていて、その先に灯りは点いていないようだった。

「警戒しよう。ここからは歩くんだ」

「分かりました」



私達は歩みを緩め、ひっそりと歩いていた。建物のあらゆる場所へ、ターカスは聴き耳を立てているはずだった。それに、アルバは熱感知などのあらゆるスキャンが出来る。だが、この建物がそういった探知に対策をしていないかと聞かれれば、愚問なのだろう。

「ターカス。何か見つかったか」

「いいえ、何も」

私達の足音は、毛足の長い、白い絨毯に吸い込まれていき、その分会話が廊下に響いた。周囲には誰も居ない。

「君が来た事は分かっているはずだ。それなのに襲われない」

「ええ。早く博士を救出しなければいけません。恐らく、博士を人質にして、逃げる気でしょう」

「それだけなのかね?」

「私の脳細胞が奪取され、もう数週間が経っています。それはたった一つのパーツです。研究解析にそう時間が掛かるとは思えません。次の手段を見つけたら、どこかへ雲隠れするはずです。今日捕まえなければ」

「そうかね…」

私は、“そんなに単純な話だろうか”と思った。もちろん、そんな単純に出来るはずもない事だが。

一流の研究者と言えど、そんなに早く終わる研究だとも思えないし、なぜ博士をさらったのか。もしくは、博士の事も目的としていた可能性もある。あの時、“エリック”は、ここに誰が来るのか、知っていたようだったからだ。

そう考えていると、廊下の端で、カチャン…カチャン…という音がするのが聴こえた。

私とターカスは顔を見合わせ、人差し指で合図を送り合い、廊下の一番手前まで抜き足で戻って、曲がり角の影に隠れた。カチャン、カチャンという音は、私達に近づいてくる。


ほんの少し顔を出して目を見張っていた私は、信じ難い物を見た。


そこに現れたのは、あのラロ・バチスタ博士のはずだった。だが、全くの別人だとすぐに分かった。

顔は博士のままだが、前に出した両手からは、様々な重火器がこちらへ向けられ、体のあちこちから、兵器らしき鉄の部品が歪にはみ出し、肉の裂けたところから、白い絨毯へ、血を引きずりながら、博士は歩いていた。

“どうする!?”

ターカスは一度頷き、やにわに廊下に躍り出た。そしてあっという間に手のひらを開き、その場に爆炎が上がる。

「ターカス!?」

「大丈夫です!」

煙の中から聴こえてきたのは、ターカスの声だ。博士の声はしなかった。博士を殺したのかと危ぶんでいると、今度は、壁の影に隠れた私に向かって、小型のロケットが飛んできた。

「あっ!!」

一つ、二つ、三つ、四つ。しゅるしゅると飛んでくるロケットを叩き落とす、青い閃光が私には見えた。目にも止まらぬ速さだ。その内にまたターカスの声がした。

「あちらの方が遅い!機能は永久機関ですが、取り押さえれば封じられます!」

「どうやって!」

「凍らせます!」

私の声に答えた時、青い影はもう私には見えず、気が付いた時には、あれだけ真っ白になっていた廊下の煙が、消えかけていた。