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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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324.「好き」



 私の旦那はとあるプロ野球チームの熱狂的ファンだ。

 その愛好っぷりは凄まじく、寝ても覚めても野球のことばかり。恐らく仕事をしている最中も、ひいきの球団のことを考えているのではないだろうか。

 例えば、夜、試合があったとする。旦那は当然のごとく仕事を早々に切り上げ、わが家に帰ってきてディスプレイの前で待っている。昭和でも平成でもない、令和の世だ。もちろん令和の世にそんな男がいても構わないのだが、これだけ娯楽があふれている今、少しはスマホなどに目をやってもいいんじゃないだろうか。
 そうこうしているうちにゲームが始まり、選手がバッターボックスに入る。すると旦那は、傍らにいる私にその選手の説明を始める。やれ出身高校はどこだ、やれキャリアハイはいくつだ、何年後にFA予定だ、とそんな情報を延々と語るのだ。赤の他人なのによくそんなことまで知ってるなとつくづく思う。ちっとも興味のない私は、適当にうなづいて受け流すが、彼はそんなことには一向に頓着せずその選手の魅力を語り続ける。
 さらに驚かされるのは、相手チームにも詳しいことだ。相手投手が投げているスライダーとかいう球のヤバさから、センターという場所を守る選手の走力や守備力、外国人選手の調子や、その選手がいつケガから復帰したか、なんていう情報まで本当に事細かに覚えていて、好きな球団がとてつもない難敵を相手にしているんだということをしっかりと伝えてくる。好きな球団だけでなく、プロ野球全体に詳しいのだ。
 ここまで熱狂的だと、試合に負けた日なんかはさぞかし機嫌が悪いだろうと思われるが、案外そうでもない。すぐに切り替えて明日以降のことを考えているし、優勝を逃したような日ですらその態度は変わらない。こんな時、熱狂的なファンなら相手チームへの恨み節の一つも飛び出しそうなもんだが、とにかく野球に関しては否定的な言葉を使わない。だからこそ私も彼のこの趣味を否定せずに許容していられるのだけれど。
 そんな旦那は、オフシーズンの今も、大人しくはしていない。ドラフトや年俸交渉、FAの行方を詳細に私に伝え、野球ゲームをプレイしてはひいきの球団を全勝させている。

 さて、そんな野球漬けの生活を送っている彼を見ていると、奇妙な考えがわき起こってくる。もしかして、私と彼の中で「好き」が違うのではないかということだ。私はあまり物事にのめり込まないタイプで、好きなものもどこか一歩引いて見るようなところがある。例えば、好きな映画とかもどっぷりとのめり込まず、どこか冷静に分析してしまうのだ。
 彼にとっての野球ぐらい好きなものが、私にはあるだろうか。おしゃれも好きだし、読書も好きだし、甘いものも好きだ。でも、どれも「にわか」で彼の野球好きには遠く及ばない。これはもう、私と彼の「好き」が違うものだからとしか思えない。

 そして、こうやって「好き」っていうのはどういうことなんだろうと考え始めると、必ず旦那のことに行き着いてしまう。私は旦那を愛してはいるが、間違いなく彼の野球ほど熱狂的ではない。何か、自分の愛が揺らいでくるような気がして、いつも怖くなって考えるのをやめてしまうのだ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔