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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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327.カプセル



 主が私を飲んでくれない。

 私は主のために調合を施された。私を飲み下すことは主のためになるはずだ。なのに、主は私を手に取ることはしない。

 もしかして、私は嫌われているのだろうか。

 かつて飲まれていった先達と私との間には何の違いもない。なぜ私一人だけが、ここに取り残されなければならないのだろうか。

 疑問を抱えながら、今日も主に付き従う。

 今日も主は私を服用するそぶりを見せない。なのに、常に身近に置いている。飲まないのであれば、なぜ私をそばに置き続ける? いっそのことくずかごへ投げ捨ててくれたら、どんなに楽になることか

 寂しさがかきたてられ、そこに生まれる自暴自棄の感情。


 そんな中、主にとって大切な人と思われる方がやってきた。

 主はその方と、二人きりで話し合う。どうやら相当に信を置いているようだ。そんな話ぶりの中で、ぽろっと、主が一言。

「もしものために、一錠だけ持ってるから大丈夫」

そんな声が聞こえた。

 自分のことだ、そう思うとともに、心を駆け抜ける安心感。そうか、私はあえて服用されていないんだ。そういう役割が、あっても良いんだ。

 すぐに消費されるものではなく、主の心の支えになっている。その事実が、今後、私の心の支えになるだろう。そんなふうに思いながら、主のバッグの中で私はころんと寝返りを打った。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔