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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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330.!



 道路標識に、「!」とだけ描かれたやつがあるだろう。あの黄色くてひし形のやつだ。

 その他の危険というあいまいなネーミングのこの標識は、恐らく標識界でも非常にレアだと思う。うわさではそこで幽霊が出るなんて話もあるが、本当かどうかはもちろん定かではない。


 いや、すごい偶然なんだよ。定年間際の大先輩に聞いても、こんなことが普通、同じ場所で連続して起こるはずがないっていうんだ。

 最初は、40年近く前だった。当時、近所に住んでいた男が、たまたまそこを車で通りがかったときのこと。運転をしていた彼は、ふと、何の気無しに歩道を歩く人影に目を向けたんだ。そこには、なんと、家にいるはずの妻の姿があった。しかも、知らない男と腕を組んで歩いているじゃないか。運転中の男は、当然、激高したよ。どう考えたって不倫なんだから。そこで衝動的にハンドルを切り、車ごと二人に突っ込んだ。結果として、三人とも、生きて帰らぬ人になってしまったんだ。

 次は、その翌年だった。今度は、婚約をしたはずの女性が、運転手の親友と路上で口づけを交わしているところを車上で見ちゃったらしい。運転手はやっぱり怒りに任せて、その二人に向けてハンドルを切る。このときは運転手だけは助かったそうだが、重い後遺症が残ったって。

 次はその3カ月後。今度の運転手は女性だった。彼女が歩道を見ると、仕事をしてるはずの旦那が若い女と話し込んでいる。後で問いただそうと思って通り過ぎようとしたら、突然、女のほうが旦那を振り切って道路に突っ込んできた。どうやら不倫の清算がこじれ、死んでやろうとして飛び出したらしい。でも、まさか飛び込んだ車の運転手が、不倫相手の奥さんだなんて夢にも思わなかっただろう。

 この他、約40年の間、この場所で愛する者の不貞を発見してしまい、怒りのあまりハンドルを切ってしまう人間が後を絶たないんだ。上司と部下だったり、社長と秘書だったり、教師と生徒だったり、パートと店長だったり……、その関係性はさまざまだ。ハンドルを切ってしまった結果も、全員が亡くなった場合や、誰かが生き残る場合といろいろある。全員が生き残ったこともあるけど、修羅場を目撃してしまった以上、泥沼の争いは避けられないそうだ。

 でも、さすがに「不倫目撃注意!」とは書けないからね。やむなく「!」の標識を掲げているんだ。でも、知ってる人は知ってるから、後ろめたい人はもちろん、家庭を愛する人もそこは通らない。たまに、もう夫婦関係が冷めきった人が慰謝料を期待して通るけど、そういう人が現場を目撃したという話は、残念ながら (?)聞いたことはないね。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔