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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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245.ぐうたら



 風呂が面倒臭い。

 いや、風呂自体は嫌いではない。さっぱりするし気持ちがいい。決して不潔なわけじゃない。そこは信じてほしい。でも、なぜか風呂に入る時だけ、おっくうになってついつい腰が重くなってしまう。そうして、いつのまにか入浴を後回しにしてしまうのだ。

 この問題に対して対処法はないか、私は日夜考え続けた。その結果、一つの方法を考えついた。

 いっそのこと、入浴したまま生活すればいいんじゃないだろうか。そうすれば、浴室内で行う、髪や体を洗うといった面倒な行動もすぐに取りかかれる。それに、衣服代もおさえられるし、いいことずくめではないか。

 有難いことに、私は自宅で仕事ができる職種だった。なので、しめたとばかりに浴室を改造し、仕事ができるようにする。とりあえず対外的なことはお手伝いさんを雇い、対応させればいい。入浴したまま寝るのは少々骨が折れるが、まあできないことはない。楽に風呂に入ることを考えれば背に腹は代えられぬ。食事も浴室内で取ればいいだろう。トイレだけは食事と同じ場所でするのは嫌なので渋々浴室を出ることにした。どうせトイレは浴室に近いし。

 こうして浴室内での生活を始めたが、予想した通りなかなか快適だった。

 常に入浴しているので、髪も体も気楽に洗える。仕事や食事、睡眠もとりあえず大きな支障は出なかった。それにここだけの話、お手伝いさんは私のセフレだ。なので、彼女を浴室に引っ張り込めば、性欲の方も十分カバーできた。

 とまあ、そんな浴槽にこもる生活を続けてきたある日のこと。

 浴室のあちこちが、黒ずみはじめてしまった。どうやら湿気のせいで、カビが繁殖し始めたようだ。
 それだけならまだ良かった。突然、ムカデが大量発生した。どうやら、湿気を好んでぞろぞろとわいてしまったらしい。

 私はこの程度のことはそれほど苦ではなかったが、お手伝いさんが震え上がった。私は力づくで浴槽から追い出され、呼び出された掃除業者がぞろぞろと浴室に入り込む。そしてこの生活を止めなければ、もうここには来ないとお手伝いさんからきつく言い渡される。

 こうして私の魅惑の浴室生活は、あえなく終わりを告げたのだった。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔