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Quantum 第二部

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2.Kleshas


 目覚めた時、シャカはなんとなくサガはもういないだろうとそんな気がしていたのだが。

「………」

 ―――いる。
 なぜだ!?

 思わず開眼、飛び退く勢いだ。だが、それは気持ちだけで、実際は固まったまま身動ぎできないでいる。いや、下手に動けばサガが目を覚ましそうだったから、というのも理由にあるが、もう一つの理由として、目の前の端正な貌立ちに釘付けだったというのもある。
 しばらくサガの無防備な寝顔をまじまじと観察する。
 本当にサガは眠っていても惚れ惚れするほど美しい。美醜にこだわることはしないが完全調和のように存在するこの男の容姿はやはり琴線に触れるものがある。一つ一つ重ねてきた全ての出来事がこの男を作り上げてきたのだろう。たとえ喜びよりも苦しみのほうが多かったとしても。
サガの眠りを妨げないようにようやく身体を静かに起こし、そっと額にかかる髪を指で除けると剥き出しになったところに唇を寄せ―――ハッとする。
 つい、いつもの調子ですっかりシオンに躾られ……習慣化させられた寝起きの挨拶をうっかりサガにもしそうになったのだ。相手はシオンではなく、サガだというのに。

「ううっ!」

 思わずシオンを恨めしく思いながら、そろりと寝台から抜け出したシャカ。ムラムラ……ではなく、モヤモヤとした気持ちになって、どうにも発散させたい気分になる。

「―――この時間なら、あいつは起きているな」

 そうつぶやき、シャカは長い髪を三つ編みに纏め、それから滅多と着ることのない訓練時に着る荒い布地の服に着替えて、処女宮を後にした。




 眩しい朝焼けの中で一際大きな掛け声があがる一角を目指す。相変わらず威勢が良く、身体の芯に響く声だ。それに朝っぱらから容赦ない訓練模様。だからといって訓練生に同情はしないシャカである。
 闘技場の真ん中で陣取る集団にドンと構えて指示するアイオリアの背に近づく。訓練生の一挙手一投足に目を光らせ、集中しているらしいアイオリアはまさかこのような時間にシャカが来るとは思ってもいないのだろう。ほぼ真後ろに近づいても気付くことがなかった。

「朝っぱらから元気な奴らだな、おはよう。アイオリア」
「うわっ!?……っくりしたぁ~脅かすなよ。どうした?珍しいなっていうか、初めてじゃないか、おまえがこんなところに足を運ぶなんて。それにその恰好……もしかして、もしかしなくても、やる気満々か?」

 シャカの訓練服を眺め、珍しく目を開けていることにもアイオリアは驚きながら呆れもしていた。相変わらずの最低限の筋肉しか身についていない細身。訓練生の方がよっぽど体格が恵まれているけれども、どこにそんな容量があるのか小宇宙は化け物級。ひとたび戦闘ともなれば芸術的とも思えるほどの美しさと凄烈をみせるという、本当に存在が詐欺でしかない聖域の上位者にアイオリアは苦笑する。

「ああ、少しばかり身体を動かしたくなったのだよ」

 シャカは三つ編みに編んだ髪を襟足で器用に纏め上げ、軽く手足を動かした。容姿だけなら可憐な女神にも匹敵するなと無駄な思考に囚われかけたアイオリアはブルブルと大きく頭を振った。

「昨日、あれだけ戦っただろうに。けっこうおまえって見た目を裏切る体力馬鹿だよな」
「馬鹿は余計だ。何よりおまえには一番云われたくないが。アイオリア……あやつら、小宇宙は使わずに体術だけの訓練か?」

 ざっと集団を見渡して口にすると、アイオリアから「そうだ」と返事がかえってくる。

「ま、理由はどうあれ、発破をかける気満々なんだろ?皆に紹介を……」

 滅多と聖域に姿を現さないシャカが訓練生の前に現れるなど、それこそ奇跡的な機会であり、目の前にいる連中は伝説的なシャカの名は知っていても姿を拝んだ者などいないという状況を配慮してアイオリアが紹介を買って出たのだが。にやりと不遜な笑みを浮かべるシャカにこれは駄目なヤツだと早々にアイオリアはこれから訓練生たちに降りかかる災厄級の悲劇に同情を禁じ得なかった。

「それでは興が削がれるではないか。黙っていればいい」
「かわいそうに。あいつらおまえが誰なのか、訳もわからず、やられちゃうのかよ……鬼だな」

 訓練生から見れば鬼軍曹ばりに厳めしい顔で指示していたアイオリアの脇で圧倒されることもなく女聖闘士よりも下手をすれば華奢な体格ながら飄々と立つ不審者に訝しみつつ、興味深げにちらちらと盗み見る者たちを不遜な態度でシャカは眇める。

「まぁ、いいけど。後で物足りないからって俺に相手しろとかいうなよ?」
「さて、それはあの者たち次第だが」
「まったく、勝手だな。んで、あいつらがおまえを満足させた時のご褒美はあるのか?」
「ん?褒美かね……では、奥義フルコース堪能とかどうかね」
「それ、なんの罰ゲームだよ?」

 アイオリアがそう告げる前に既にシャカは前の集団に突入していった。
 「ご愁傷様」と訓練生たちに若干憐れみつつ、アイオリアは存外戦闘狂傾向なシャカを生温かい目で見守りながら、今日は楽な訓練日だなとのほほんと他人事のように思うのだった。

 じぃっっっ……じとっ。
 『不満』。

 シャカの顔面にありありとそう書かれているのを見て取ってアイオリアが引き攣る。
 当然のごとく、あっさりと勝負はついた。いくら大技を繰り出す小宇宙は封印、体術オンリーの勝負といっても、どれだけ訓練生が体格でシャカを勝っていようとも、やはり修羅場を数知れずくぐってきた黄金聖闘士の名は伊達ではないということを証明したにすぎなかった。
 軽やかなステップを踏むワルツを踊るがごとく、シャカは時に流し、時に受け止めつつも容赦なく叩きのめしていった。おかげで闘技場は死屍累々。幸か不幸かシオン教皇は現在爆眠中なのでお小言を喰らわずに済むのがせめてもの救いだなぁと呑気にアイオリアは思うが、自らロックオンされるとなると、また別の話である。

「だからっ!なんでっ!?そんなに、俺を恨めしそうに見るんだよっ!?俺が悪いのか!?そいつらが弱いのは俺が悪いのか!??そうか、そうなのか。わかった。さぁ、来い、シャカ!」

 朝っぱらから何故こんな目に合わなければならないのか、アイオリアは己の不遇を呪いつつ、嬉しそうに笑みを綺麗に浮かべたシャカを見て、まんざらでもないと頬を少し緩め、半身にかまえたのだった。



作品名:Quantum 第二部 作家名:千珠