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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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元禄浪漫紀行(1)~(11)

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第二話 髷




俺はとにかく、どうやら江戸時代に一人きりでタイムスリップしたらしい。それかもしくは、この何十人から百人くらいは居る人々が、全員何かのドッキリ番組かなんかのエキストラなのかのどちらかだ。俺は後者であることを祈りながら、女の人にこう聴いてみた。

「あの…助けてくれてありがとうございます。ところで、ここはどこですか?」

俺たちはどうやら漬物を売っているらしい店先で立ち話をしていた。店の奥の方には丸い桶のような漬物樽がたくさんある。女の人はまた呆れたように首を振り、大きく息を吸った。

「ここはねお前さん。江戸の真ん中、上様のお膝元さ。お前さんが今立っているのは、家康様が祀られている日光までの街道と、中山道がちょうど交わるところ。京都へ行こうと、日光へ行こうとどっちでもいいけどねえ…」

女の人はそう言いながら挑戦的な目を作って俺を見た。どうやら俺が自分の居る場所に恐れをなすと思ったようだ。

「日本橋だ…」

「なんだい、人に説明させといて知ってるんじゃないかさ」

当てが外れたように手のひらをこちらに放り女の人はつまらなそうにそう言った。

俺は焦っていたし困っていたが、同時に興奮もしていた。なぜなら、俺は時代小説を書いてみたいと思ったこともある、小説家志望の人間だからだ。

もし元の時代に帰れるなら、最高の取材ができるぞ!

俺の心はそんなふうに沸き立ち、俺はきょろきょろと辺りを見回してみた。

「うわあ…!」

そこらじゅうに居る人たちは、時代劇で見るのとは違って、みんなめいめいにバラバラの恰好をしている。

鉢巻をして半纏を羽織っただけの、職人らしき男の人たちの一群が俺たちの前を横切る。

鼠色の着物を着て、紺色のねんねこの中に赤ん坊をおぶった女の人が通る。

羽織を裃の上に着て脇差と刀を腰に差した武士らしき二人連れ、着流しだけでのんびり歩いている三人くらいの男性、裾に彩り豊かな折り返しのある着物を着て髪を大きく広げて結った女の人たち…それぞれどこへ行くのかわからないけど、みんな江戸の人たちなんだ!

そして俺は漬物屋を振り返って、助けてくれた女の人を見る。

彼女は鼠色の布地に紺色の縦縞が入った着物を着て、黒に近い太い帯を締め、裸足に草履を履いているようだった。彼女の髪の毛も、鬢が大きく広がった綺麗な結い上げ方だ。

「あの…その髷の作り方は…なんて言うんですか?」

俺は、目の前の景色が今までとはまるきり違って、何もかもが目に新しいことが、嬉しくてしかたなかった。だからそう聞いたのだが、女の人はまたもやため息を吐く。

「あのねお前さん。これじゃああたしはいちいちお前さんに教えて歩かなくちゃいけないじゃないかさ。これはね、勝山(かつやま)さ。流行ってる結い方だよ。ほんとに知らないのかい?」

彼女は自分の髷に手を添えて、こちらに見せてちょっと笑った。彼女の髪は向こう側が透けるほど鬢が広げてあって、大きく高く結い上げた後ろ髪がとても華やかだった。

へえ。髪の結い方にもやっぱり流行り廃りがあるんだなあと、俺は感心していた。

「でもねえ、あんた」

「は、はい?」

すると彼女は急に俺にびしっと指をさした。俺はぎょっとしてちょっと身を引く。

「とにかく!あんたの髷がほどけてる方が先!ほら、そこに床屋があるから、行くよ!銭はあたしが出してやるから!」

「えっ?ええっ!?」

いきなり彼女は俺の手を握ってずんずん進み出したので、俺はびっくりしてしまった。でも女の人は力いっぱい引っ張っているらしく、俺は大した抵抗も出来ず引きずられていく。

そういえば俺は現代人なんだから、ちょんまげなんか作っていない。彼女はとうとうそれに我慢がならなくなったようだ。確かに俺たちの進む先には、店先まで人がはみ出している床屋の看板を出した店があり、中の鏡の前では誰かの髪を結っている人が見えた。

「ちょっと!悪いですってそんな!私、大丈夫ですから!」

「つべこべ言わず来る!髷もなくってどうやって生きていく気だい?お前さん!」

「そ、そんな~!」