円談
転
冬の霊山はわたくしの不信感を見透かしたように厳しくあたった。
山道に入りしばらくして天候が急激に悪化、雪が防寒具越しに身体に突き刺すような痛みを与えた。
わたくし自身氷の属性を持ち、寒さに強い妖精ではあるがそれでもあの体たらくであった。
仲間の水、雷、炎の属性ではひとたまりもなかった。
「会長……僕は引き返した方が良いかと思います…このままでは…」
「…引き返す…ことは出来ません…【不文律】なのです…」
「会長!あそこに建物がっ!!」
参道の先に遠くに木造のしっかりとした古い建物が見え、4人は既に感覚が消えかけた足を必死に前に進めた。
中に入ってすぐわかったが建物はお堂だった。体育館くらいの大きさの真四角の建物だったが、真ん中にある綱を巻いた丸い石がここを神聖な場所と表していた。
「ここが目的の場所のようですわね…」
「会長。そんなことよりもこの大吹雪が止まない限り私達の命の方が危ないですッ!!」
外は良くなるどころかいっそう風の勢いを増していた。
電気は通っていないらしい。暖房どころか明かりすら存在しない。
雪風が入らないように頼りない戸を閉めると堂内は暗闇に包まれた。
依然として危機には違いなく、外よりはマシだが極寒の室内を4人固まって危機を乗り切る思考を巡らす。
頼りにしていた炎の力を持つ仲間は眠たさを訴えていた。典型的な低体温症の症状だ。わたくしを含め3人も似たようなものだ。おそらくはこのまま起こす者もなく目を閉じればご多分に漏れず今生の別れが待っているのだろう。
「力尽きるのが先か…助けが来るのが先か…
そもそも助けは来るのか…僕達どうすれば…」
「落ち着いて。まず4人ともが寝てしまう。それだけは避けなければなりません…」
電子妖精のシナプスすら凍らす気温。
心もとない思考の蜘蛛の糸を手繰り、わたくしはひとつの稟議をあげる。
「動けば身体は暖まります。しかし常に動いていれる程の体力はわたくしたちにはありません。暗闇の中動き回るのも危険です。
こういうのはどうでしょうか。
《4人でこのお堂の四隅に陣取り、1人が壁沿いを歩き出します。
歩いた先の隅にいる次の人の肩を叩き、叩かれた人がまた次の隅にいる人へと向かい歩き肩を叩きます。
そして叩かれた人は次の隅にいる人へ向かい歩きます。
そうして御堂の中をグルグルと回り常に1人が動き、3人は休むを繰り返すのです。》
吹雪が止むか、助けが来るまでそうして凌ぐしかありません。」
否定も肯定も言葉がないまま4人は顔を見合せ四隅に散った。
わたくしは隅に立ち最初に歩き出し次の人の肩を叩いた。2分程してからわたくしの肩は叩かれ再び歩き出した。
よし。ちゃんと機能している。
あとはこのままこれを繰り返し待つしかない。
グルグルと4人は回り、何十回いや百はとっくに超えていたであろう周回をしている中で少しずつ疲労は蓄積していく。
大勢の人の声が聞こえ戸が開かれたところでわたくしの記憶は飛んでいる。